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ラビリンス  作者: 苔煉瓦
第一章:はじまり、はじまり。
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着信

 あの日から一月開けて涼しくなって来た。体育祭が終わり、生徒達の関心は文化祭に向いている。目まぐるしく変わる季節、次から次へとやって来る楽しい物事、きつくて苦しい物事に皆順応していく。だって、そうしないと生きていくのが辛くなるから。皆について行けないから。


 皆たった一人の学内の人間の死など誰も気にしないで居られるだろうけど、僕には無理だった。この一月は、僕にとっては大切な人の死後からの一月。長い一月だった。


 大瀬さんが自殺して直ぐに葬式があった。学校側が資金を負担した規模の大きいもので、大勢の人間が彼女を見送りにやって来たのを見た。学校葬だったから顔も知らない生徒が大半を占めていただろう。勿論大瀬さんをイジメていたクラスメート達も参列していた。代表は立派に涙なんか流すフリしていた。でも、彼女の両親は我が子の葬儀に顔も出していなくて何故か保護者代理にに保健室の先生が来た。献花は遺書に従って僕とその先生が最初に行った。悲しくて悔しくて堪らなかった。


 葬儀が済んだ後気が滅入って一週間位学校を休んだ。時の流れと歩調がずれ始めたのはこの頃からかも知れない。部屋に閉じ籠っていたけれど、親に無理矢理引っ張り出されて再び登校する事になった。


 学校に行けばあの子をイジメていた連中が死んだ事すらネタにして遊んでいた。不快だった。奴等は責任を僕に擦り付けて未だ遊ぶ気でいるらしくて、合同授業で一緒になる度に大瀬さんの遺影を机に置いたり、『弔いの舞い』とかいうバカ踊りを見せつけて来たりする。直ぐに学校に通う事も嫌になった。何を言われても無反応、行為を嘲笑いさえする態度を貫いた彼女に比べれば、僕に強さは無い。


 それから日々を過ごす毎に、当事者以外は誰も今回の件を覚えていなくなった。悲しいけれど、関係無い人が覚えている必要も無いかもな、とも思う。実際、あの夜出会った女生徒の言う通り僕に責任が有ったのかも知れない。


 余計なお節介を焼いたから、気にしないレベルだったイジメが酷くなって、忍耐のキャパシティーを超えて、…死んだのかも。


 順応から取り残された、以前の日常を忘れられない僕は随分と無気力な生活を送る様になった。食欲が出ないから余り食事を摂らなくなった。家では勉強もせずアソビもせず、ただベッドの上でボーっとして、夜中の二時に大体寝ると言う一日を工場のラインみたいに続けていた。つい最近までは。


 最近、毎晩三時位にに携帯にイタズラ電話が掛かって来るようになった。番号は非通知じゃない。死んだ筈の大瀬さんの携帯番号。電話帳にも登録していたから間違いは無い。


 着信が来て、応答ボタンを押した途端、テレビの砂嵐みたいなザーッ、ザーッていうノイズが延々と流れる。こちらからの呼び掛けに返答は一切無く、数十分経つと電話が切れてしまう。こちらから切ると大体合計四十分位になるまで何度も掛かる。仕方ないから切れるまでノイズを聞き続ける。最初は死んだ彼女の携帯を誰かが持っていて、イタズラを仕掛けて来たのだと思って憤慨した。でも近頃は少し期待している感じが無くも無いのだ。


 今夜こそは何か聞こえるかも。もしかしたら、あの人の声が聞こえるかも。期待が外れる度に逆に期待そのものは大きく膨れ上がった。


 そう思いながら続けてきたけれど、変化は未だ無い。


 着信音。そうだ。もう三時だ。回想に夢中になっていた。手探りでカバンに入れっぱなしの携帯を取って応答した。


「もしもし」


 ノイズが聞こえない。一拍して返事が来た。


「やっとマトモに繋がった。もしもし、石城君。私だよ、私」


 返って来たのは間違いなく大瀬さん本人の物だ。死んだ筈の人の声を聞く驚き。ヒッと情けない声を上げてしまった。


「大瀬さん!?どうして?本当に大瀬さん?」


「分かるよ。私は本物の大瀬凪。私、死んでないの。死にきれなかったの。」


「本当なの?死んじゃったかと思ってた」


 一気に歓喜の感情で気分が高揚した。生きていたんだ!死んでなんか無かったんだ!


「良かった!今何処に居るの!?明日にでも会いに」


「直ぐには言えない。説明すると長くなる、つまり会えないよ。私は死んでないけど、とても生きてるとは言えない状態なの。生霊になっちゃったのかも」


 大瀬さんの声に何時もと同じノイズが混じり始めた。


「悪いけど時間が無いの。聞いて欲しい事があるんだ。今まで抑え込んできた色んな事に抑えが効かなくなってる」


「どういう事なの?説明してよ」


「分かった所で役に立たない。黙って聞け。…聞いて。これから石城君の身の回りで、変な事、怖い事がきっと沢山起こる。日常が滅茶苦茶になっちゃう。信じられないだろうけどこれから常に気を付けていて。多分私君に酷い事すると思うの。許して欲しい。私じゃどうにもならない」


「良く分からないよ」


 ノイズが酷くなる。


「ごめんな…も…間…れ…明…武」


「大瀬さん?大瀬さん!」


 聞こえるのはノイズだけになってしまった。そのまましばらく待ったけれど、何も聞こえなかった。今夜はもう電話を切ろうと思った。その時、いきなりノイズが途切れた。


 くるしいなあ       い                  く

 に              つ    あついなあ      る

 く       のろってやるぞ ま            し

 た  楽に死ねる訳無いじゃん  で   憎      い

 ら                 い      よ

 し        忘       、

 い      れ      憎

 よ    な      い

    い

  で       おばかさん      」


 声色は違うけどねばりつく様な、幾つかの女性の声が聞こえて電話が切れた。掛け直そうと何回か発信したけど、この電話番号は存在しないとしか返って来なかった。


 想像した通りに死んだ筈の人から電話が掛かって来て、警告通り実際に変な事が起きた。こちらからの電話は掛けても繋がらない。不可解な事が多過ぎる。一人であれこれと考えてはみたけれど、結局分からないままその日は眠ってしまった。


 携帯電話に得体の知れないアプリケーションが勝手にインストールされているのにも気付かずに。

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