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お婆さんとルト

作者: 高森
掲載日:2019/04/21

帰路の途中、お婆さんは1匹の小さな捨て犬を見つけた。


おやまぁ……、どうしたんだい。


お婆さんは近寄り、声をかけました。


すると子犬は、くぅーんと力無く鳴いてお婆さんを見つめました。


うちにおいで。


お婆さんはそう言うと、子犬を抱き抱えて連れ帰りました。


ぬるま湯の風呂に入れ、顔は濡らしたタオルで拭き、少し離れた位置からドライヤーを当てて乾かします。

リンゴを細かく切って与えると、抵抗感無く食べてくれました。


とはいえ動物を飼ったことが無いため、様々な不安は尽きません。


翌日に朝早くから動物病院へ行き、状態を見てもらいました。


健康に問題はありません。


その言葉を聞いたお婆さんは、ホッと一安心しました。


加えて、ラブラドールレトリバーの生後2ヶ月程度ということも知ります。


飼う際に気を付けなければならないことを聞き、オススメされたドッグフードを購入し、家へと戻ります。


早速ドッグフードを与えると、無我夢中で食べ始めました。


美味しいかい、ルト。


そう呼び掛けると、顔を上げてワンッ! と鳴きました。


すぐに家の中を走り回るようになり、元気な姿を見てお婆さんも喜びます。


息子夫婦が遊びに来た際も、全員で可愛がって新たな家族を祝福しました。


しかし……、ルトが家に来てから1年ほど経ったころ、お婆さんの容態が変わってしまいました。


白内障。

つまり、視覚障害が起こり始めました。


徐々に視野が狭くなっていくのを感じたお婆さんは、夜な夜な涙を流しました。


けれど、必ずルトが添い寝してお婆さんの側を離れませんでした。


お婆さんはルトをぎゅっと抱き締め、共に眠りにつきました。


お婆さんの状態を知った息子夫婦はすぐに家を訪れ、身の回りの世話をするようになりました。


しかしその間もお婆さんの病状は進行し、治療も効果が現れません。


そんな折、息子の嫁からある提案がありました。


ルトに盲導犬の訓練を受けさせませんか?


そう聞いたお婆さんは、悩みました。


もうどれだけルトを見ていられるか分からない。だったら、少しでも長く一緒にいたい。

けれど、完全に目が見えなくなってしまっては世話どころではない。なら…………。


お婆さんはルトを抱き上げ、問いかけます。


ルトはどうしたい……?


人間の質問の意味を、犬が理解するはずもありません。


しかしルトは、くぅーんと返事をするように鳴きました。


お婆さんにはそれが、力になりたい、と言っているように感じました。


……分かったよ。


お婆さんはそう心に決め、息子夫婦に向き直ります。


ルトを、お願いするよ。


そう言って、ルトを2人に託しました。


息子夫婦は訓練施設にルトを預け、頻繁に顔を出して様子を伺いました。

同時にお婆さんの世話も続けます。


しかし、ついにお婆さんは視力をほとんど失ってしまいました。


そして……、10ヵ月の時が過ぎたころ、訓練を終えたルトが戻って来ました。


お婆さんは息子に支えられながらも、ゆっくりと歩み寄ります。


わたしのことを覚えているかい?


目が見えないため距離感が分かりませんが、それでもそこにいると分かって声をかけます。


するとルトは、お婆さんに近寄ってトスッと全身を預けました。


それは、ただいま、と言っているようでした。


それからしばらく、1人と1匹で共に暮らしました。

時々息子夫婦が世話のために家を訪れましたが、お婆さんの気持ちはいつも明るく晴れやかでした。


お婆さんは思いました。

ラブラドールレトリバーは、盲導犬適正が高い。ルトがうちに来たのは、運命だったのかもしれない。と……。


そして1年が過ぎ、2年も過ぎ、ルトと出会ってから12年ほどの時間が流れました。


自宅での最期を望むお婆さんは、ここしばらくベッドの上で寝たきりとなっていました。


隣にはかかりつけ医と息子夫婦が居て、もう僅かしか時間が残されていないと誰もが感じ取っていました。


そんな中、ルトはお婆さんと同じベッドに横たわっています。


産まれてから約12年……。ルトにも、天寿を全うする時が訪れたのです。


お互いに目も開けられず、声も出せず、ただ浅く呼吸をしているだけの状態でした。


お婆さんは遠くなりかけている意識で言葉を思い浮かべます。


天国でも一緒にいてくれるのかい?


そう問いかけるように、最後の力を振り絞って指を数センチ動かします。


するとルトは、

もちろん。

とでも言いたげに、前足を数センチ動かしました。


そしてお互いに手と手を重ね、同時に息を引き取りました。


1人と1匹は最期まで、最期のその後まで運命を共に歩んで行きました。

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