とある学園生活の一日
豪華温泉旅行から帰って来た天羽たちは、学園に残っていた同級生から教室で質問攻めに会う。
特に、やる気満々で試合に臨んでいた麻耶は天羽とフェルンに満月ホテルの内装、食事、周辺の観光箇所について質問していた。
「それでそれで!?」
「あー……二日目以降は旅館に殆どいなかったんだよ……」
「……あの満月ホテルに行きながら、殆ど旅館にいなかったですってぇ!? 何していたのよ、あんたはぁ!」
天羽の襟を掴みながら罵声を浴びせる麻耶を置いて、鳴子は冷静にフェルンに聞く。
「何かあったの?」
「えっと……」
と、フェルンは横目にレイシスを見て、仕方がないというような仕草で返され何があったか説明をする。
「カグラさんが旅館にいらして、魔法協会に連れて行かれたんです」
「魔法協会?」
流石にその言葉で麻耶も激しく振っていた手を止め天羽を解放する。
「何でそんな所に行ったの? 悪い事でもした?」
「俺たちが特異な能力者だから、それについて色々と聞かれていたんだ」
世界と戦う事は伏せ、濁すように天羽は言う。
「確かにあんたたちは私たちのような能力者と比べたら特異よね。でも、それだけで連れて行かれるものなの?」
「俺は途中でゼビルズの力も僅かながら使えるようになったからな、七竜王契約者の先輩であるカグラさんからありがたいお話を聞かされていたんだよ」
「言い方考えなさいよ!」
麻耶は軽く天羽を叩くと、納得したように話す。
「……でもまぁ、それなら仕方がないわね。満月ホテルには来年絶対に行ってやるんだから」
「そうだね、来年こそは予選を勝ち抜けるように訓練しないとね!」
鳴子の言葉に麻耶は頷き、それじゃとあいさつすると二人は教室を出て行く。
「さてと……やっと解放されたし、寮に帰るか」
「そうですね。その前にお買い物へ行きたいです」
伸びをする天羽にフェルンは言うと、不思議そうに返す。
「何買うんだ?」
「ご飯の材料です」
「材料は寮に……あ」
ハッと、天羽は冷蔵庫に入れっぱなしになっていた食材たちを思い出した。
冷凍保存していない食材も多く、もしかしたら冷蔵庫の中で腐っているかもしれない。
「冷凍庫に入れておけばよかった……」
がっくりする天羽に苦笑いをするフェルン。
それを見て教室に残っていたナンシーが声をかける。
「じゃあ、ディナーは一緒に食べナイ?」
「良いのか?」
隣にいる瑠璃子は頷いた。
「構いませんよ。二人分も四人分も大して変わりません」
「そうか。料理担当は宮本と俺か?」
「はい。ナンシーに任せたらトイレが友達になりますよ」
「私はリョーリ苦手でネ」
「どんな料理作ったんだよ……」
「とりあえず買いに行きましょう。どうせなら斎藤さんと凛堂さんも呼びましょうか」
「そうだな。クラスメイトっても六人だけだが、俺たちだけでやったら後から色々言われそうだしな」
レイシスはいつの間にかいなくなっており、残った四人は教室を出て商店街へと向かう。
その道中で瑠璃子が麻耶に連絡し、18:00に寮のエントランス集合となった。
商店街にあるスーパーである程度の材料は入手出来る。
野菜と肉、そしてたれに使用する調味料を買い、寮に戻りナンシーと瑠璃子の部屋へ向かう。
二人の部屋は『202』だ。
「ドーゾ、らっしゃい!」
「「お邪魔します」」
中に入るとザ・女の子……という部屋ではなく、天羽たちとそう変わらない内装だった。
家具はピンク色が多いが、変わっているとしたらそれくらいだ。
「では、早速作りましょうか。麗城さんは野菜とキノコを切ってください」
「わかった」
瑠璃子は可愛らしいピンクのエプロンを着て腕をまくる。
渡されたまな板と包丁は流石にシンプルな木製と金属製だった。
天羽の隣で米を研いで炊飯器に入れると、大きめの鍋を出し水と調味料を入れ火をかける。
そんな瑠璃子を横にネギと白菜、しいたけをたっぷりと渡された天羽は、華麗な包丁さばきであっという間に切り終え、真顔を保ってはいるが心の中では『どうだ、俺の料理スキルは』と思っている。
横目で鍋とにらめっこしている瑠璃子を見ると、それはもう主婦さながらの風格だ。
醤油、みりん、砂糖、水を計量カップで入れ、味見をし少し甘すぎると思ったのか醤油をスプーン一杯入れる。
満足したその笑みは普段あまり見せないだけあって可愛いと思った。
見惚れていると声を掛けられる。
「麗城さん」
「あっ、はい!」
「……どうかしました?」
「いや、なんでもない」
「そうですか。切った物を下さい。次に、焼き豆腐も食べやすい大きさに切ってください」
「わかった」
焼き豆腐のパックに切れ込みを入れ、水を流してからまな板に中身を置き2cm程度の間隔で切っていく。
「じゃ、これも煮込んでくれ」
「はい。ありがとうございます」
煮込む事十分程、良い感じに味が染みこみ野菜も柔らかくなったところで肉を投入する。
「ナンシー、凛堂さんたちを呼んで来てください。私たちは食器出していますので」
「リョーカイ! ほら、フェルンちゃんも行くヨ!」
「え? あ、はい。行ってきます」
「おう、行ってこい」
ナンシーに手を引かれ連れて行かれるフェルンを見送り、食器棚にある食器をテーブルに並べていく。
座布団は四つしか無いが、クッションは二つあるのでそれに瑠璃子とナンシーは座るようだ。
箸もお茶も用意し、真ん中にカセットコンロと鍋を置き終えると、ちょうど四人が来た。
「アイム、バック! 連れて来たヨ!」
「おっじゃましまーす!」
「お邪魔します」
二人ともスポーティーな恰好で、汗をタオルで拭きながら部屋に入って来た。
どうやらトレーニング帰りらしい。
「走ってお腹空いちゃったよ!」
「そうね、ご飯は何かしら?」
「すき焼きですよ。豆腐と卵、肉もありますから、タンパク質も十分にとれるでしょう」
「ピッタリじゃない。沢山食べてやるんだから」
皆、席に着き手を合わせる。
「「「いただきます」」」
卵黄が綺麗な少し高い卵を割り、ぐつぐつと煮えた野菜と肉を絡めて食べる。
タレと卵の相性は抜群で、それを炊き立ての米と一緒に口へ運んだらもう天国だ。
皆は満足そうな顔で食べ進め、鍋の中の具材はすぐに無くなってしまった。
「「「ごちそうさまでした」」」
誰かが何かを言うまでも無く、皆食器をシンクへ運び、鍋は熱いためカセットコンロを切り少し放置する。
「……」
食器は瑠璃子が洗っており、皆で食を囲んだのが嬉しかったのか微笑みながら洗っている。
「ルリ、嬉しいみたい。皆でディナー食べれて良かった」
「そうだな、皆で食べるのは良いよな」
「はい」
「そうね」
「うん」
皆して瑠璃子を見ていると、それに気が付き驚く。
「な、何ですか!?」
「べっつにぃー?」
ナンシーは笑い返すと、瑠璃子は照れを隠すように横を向く。
「……私だって、笑う時は笑いますよ」
そうして、旅館から帰って来た日は終わった。
一方、学園の地下鉄道駅では小さな騒ぎが起きていた。
「……帰ったか」
「……一体何だ、これは?」
黒いローブに身を隠した男性は、レイシスと一緒に地下鉄道の駅で血だまりを見ている。
先ほどまで、皮膚が溶けたようなゾンビとも言える異形がここにいたのだ。
「死神の力の影響で、この地の死者が出てきてしまったのだろう。死界に戻したが、死神が近づけばまた境界にヒビが入る」
「ユウエンも、ついに動いたという事か」
「奴は”死”そのものだ。島にいればさほど影響は無いが、動けば死界にも影響する」
「魔闘大会まで各地でこのような事が起きるだろう。オー、迷惑をかける」
オーはレイシスを見て、視線を地下鉄道のトンネルへ向け歩き出す。
「影で既に対処はしている。亡骸の王・ヨミとの契約者として務めを果たすまで」
そして、オーは影から出てきた黒いオーラを纏った骨の手に捕まれ影に消えた。
残っていた血痕も、別の手が撫でると血が骨に吸収される。
「本当に、このままあの子たちに任せて良いのか……」
レイシスは俯き、己の役目を考えるのであった。




