一人の少年
「……」
赤と黒のツートーンの髪が潮風でなびく。
光を失った黒い目は、何もない地平線を見ている。
赤道付近の島で一人暮らしている少年、ユウエンは来客に対しても興味を示さない。
「ユウエン」
「……何?」
その名を呼ぶのは、白いフードを被った隠者との契約者、ウィル・レガースだ。
ユウエンは後ろを振り向かずにただただ地平線を見ている。
「世界が目覚める。至急、本土へ移動せよ」
「……どうでもいい」
「世界が変わるのだ。お前の恨み、悲しみも消えるぞ」
「僕の恨み、悲しみ……」
ドクンッ。
と、意識から外していた昔の記憶が蘇る。
「う、うぅ……あ、ああぁぁぁ!」
苦しみ出すと同時に骨をむき出しにした幽霊のような死神が顕現し、持っている鎌を振り回す。
地面を抉り、空気を割き、ウィルの体も両断するが霧となって消える。
すると、別の場所からもう一人ウィルが歩いてくる。
「その苦しみから解放されたいだろう? 本土へ来るんだ」
「恨まれている、拒絶される、認めてくれない、誰も、誰も!」
またもウィルの体を両断するが、別の場所からウィルが歩いてくる。
「だから世界を変えるのだ。新しい世界ではお前を尊敬する人がいる、怖がらずに接してくれる人がいる、認めてくれる人がいる」
「怖い、嫌だ、もう誰とも接したくない……」
『……可哀そうな子』
死神は骨の手でうずくまるユウエンの頭を撫でる。
『怖い、辛い、寂しい。こんな世界、私が消してあげましょう』
「信じられるのは死神だけ、死神だけが僕を認めてくれる」
再度死神は鎌を振りウィルの体を切り刻む。
「暴走、ではないな」
言葉混じりに体は霧となり、ユウエンの正面からウィルが歩いてくる。
「その力があれば、この世の理、天をも殺せる。私たち契約者は望んでいるのだ、ユウエンの力を」
「僕の、力……違う、本当に欲しいのは死神の力だ。僕なんて必要ない!」
死神は鎌を振り上げ下ろすが、その瞬間に鎌が消え、ユウエンは今起こった事に驚く。
「鎌が……?」
「私の力で隠した、何度も切られるのは辛いものだ」
鎌を失った死神は周りを見て、自分の鎌がどこに行ったか探している。
その間にウィルはユウエンとの距離を詰める。
「死神は負の感情が強い者にしか契約出来ない。記録では顕現まで使いこなせたのはユウエン、お前しかいない。死神の力があっても使いこなせなければ意味がない。私たちは死神を使いこなすユウエンの力が欲しいのだ」
「僕の力を……」
と、納得したのを見てウィルは鎌を死神の目の前に出現させた。
「近いうちにまた来よう。その時に答えを聞かせてくれ」
鎌を取った死神は後ろを向くウィルを切ろうとするが、ユウエンが手を出し止めさせる。
「切らなくていいよ」
『……』
死神とユウエンは海へと歩くウィルを見ると、波が立ち風景と同化していた一隻の小型空中船が出現した。
白と金の煌びやかな小型空中船は、ウィルを乗せると空気を後方に流しながらすぐに飛び立つ。
「僕を認めてくれる世界……」
そんな世界を想像しながら、ユウエンは死神の手を触る。
「死神と一緒なら、変えられる」
『私は常にあなたと一体、世界を変えに行きましょう』
遥か遠くの本土へ、二人は期待を寄せていた。




