夜に輝く閃光
旅館に戻った天羽とフェルン。
少しうとうとしながら海を見て、一つ瞬きするともう夕暮れだった。
フェルンは座布団の上で机に突っ伏して寝ており、肩を揺らし起こすと一緒に露天風呂へ行く。
寝汗を流し夕飯のバイキングに行くと、先ほどまでの眠気はどこに行ったのかプレートにこれでもかと海産物を乗せて食べる。
部屋に戻り船舶のライトが無数に光る海の先を見ながら、フェルンが見ているテレビの音を聞いていると、遠くの空に飛行機雲のような一筋の光が見えた。
「ん? なん……」
だ、と言おうとした時、部屋のテラスに一人の男が立っていた。
金色の髪は後ろに流れ、黒地で金の花模様が入った和服を上半身だけ脱いで着ていた。
「うわっ!?」
「よぉ、休暇中悪いな」
「だ、誰ですか!?」
「おいおい、身構えんなって」
一瞬で赤乃岩戸を装備したフェルンに両手を上げ、男は言った。
「魔法協会のNo.1、一閃のカグラここに見参、ってね」
「一閃のカグラって……」
「レイシスが言っていた……?」
「そうそう、頭目が世話になってんなぁ。邪魔するぜ」
そう言ってカグラはテラスから入り、テーブルに置いてあったお茶菓子の饅頭を食べながら天羽とフェルンを座らせる。
「で、何の要件で来たんですか?」
「お前が麗城天羽か、審判の継承者で完全ではないもののゼビルズの能力が使える。そして嬢ちゃんがフェルン・ヴァリオスだな。最年少で七竜王の契約者になった者。すげぇ奴がペア組んでるな」
「……」
赤乃岩戸を装備したまま睨みつけるフェルンに対し、流石のカグラも動揺した。
「睨みつけんなって! 俺が来たのは、世界に新しい動きがあったからだ」
「「……!」」
天羽たちが戦おうとしている相手の情報が飛んできたと解り、フェルンは赤乃岩戸を納めて話を聞く姿勢になる。
「お前らが魔闘大会でダグラス、つまり世界と戦おうとしているのは頭目から聞いている。それで、放浪のアルカナの契約者も続々と本土に集まっていると仲間から報告があった。それでだ、お前らに勝てる算段はあるのか?」
「俺には一つ考えがあります。世界は全てのアルカナを一つにした時に覚醒する。それに対抗するには同格である七竜王の力が必要だと思います。一翼だけでは倒せないかもしれませんが、アルカナを一つにした時に世界が現れるなら、天の分身である六竜を一つにすれば天が現れるはず。俺はそれにかけています」
「面白い考えだな」
カグラは笑って褄下を上げると、脛に刻まれた紋章から光輝く小さな竜が現れた。
正面に一つ、左右に四つある金の目が二人をそれぞれ見ており、声の低い女性のような声で話す。
「フレス、これを聞いてどう思う?」
「確かに天を呼び出す事は可能です。しかし、世界の能力に対抗出来るかは分かりかねます。力を分けたという事は、世界率いるアルカナの能力を天は使えない事を意味しますから」
「それは……」
「ですが」
フレスの言葉に詰まるが、フレスは話を続けた。
「世界に対抗出来る能力者はいます。それは、ユウエンが持つ死神の力です」
「「死神?」」
聞きなれない言葉に天羽とフェルンの声が重なる。
「死神とは、死や終末をもたらす能力です。歩いたところの生命を枯らす力、見た者の命を奪う力、これは世界相手にも通じます」
「でも、世界が覚醒する時には、もう能力を吸収されてしまっているのでは?」
「吸収される前に、世界を持つ能力者を死神の力で殺すのです」
「「……!」」
「残酷かもしれないけどな、これが最善な訳よ。空席になった審判が復活して力が揃った。でも、世界の能力者に継承しなければ復活する事は無い。一時的に、だがな」
「じゃあ、また世界の能力者が現れたら殺すんですか!?」
「そうするしか……」
「待てフレス」
と、フレスの言葉を遮ったのはマスターキーで天羽とフェルンの部屋を開けたレイシスだった。
「レイシス様」
「よぉ、頭目」
「カグラ、その呼び方は止めろと言っているだろう? ……で、話はドア越しに聞いていた。カグラ、こんな十五の学生に本気でそんな事をさせようと思っているのか?」
「ああ、思っているさ。頭目の力を俺たちで覚醒させても、勝てるかどうかは五分五分だ。なら、世界が覚醒する前に殺っちまうのが最善だ」
「お前な……!」
「そうでもしないと世界が滅ぶぞ? 魔闘大会中は世界が荒れる。それの対応に俺たち魔法協会は追われる事になる。ひでぇ話だが、学生という身分に甘えて動いてもらうしかねぇんだよ!」
「カグラ!」
「私は賛成です」
と、レイシスとカグラの言い争いにフェルンが割って入った。
「私は七竜王の一翼。レイシスの気持ちも分かるけれど、世界の復活は止めたいと思っている。何億人の命が助かるなら、私、やります」
「フェルン、自分が何言っているか……!」
「俺も賛成です」
続けて天羽までもカグラの意見に賛成する。
「麗城君まで……」
「俺もロイゼから託された思いがあります。魔闘大会に出るのはそのためですし、フェルン一人に重荷を背負わせたくない。やる時は一緒だ、な?」
「はい」
「……あぁ、もう!」
レイシスは頭を掻いて諦めたように言う。
「君たちの気持ちはよく分かった。フェティー」
「はい、学園長」
と、レイシスの後ろに黄色の魔法陣が出現しフェティーが現れる。
「フェルンを魔法協会に連れて行け」
「承知致しました」
「麗城君はカグラに連れて行ってもらえ。カグラ?」
「了解。天羽、来な」
フェティーの傍にフェルンが行き、天羽はカグラに抱えられた。
「ここから先は、もう戻って来れないぞ?」
「初めからそのつもりです」
「うん、大丈夫だよ」
「……連れて行け」
「それじゃ、一丁光速の旅だ! しっかり捕まれよ?」
フェルンはフェティーと一緒に魔法協会へ旅立ち、天羽はカグラに抱えられて一筋の光となって消えた。
残された部屋にはレイシスと、ドアから旅館の監視任務をしていたルネスが入って来る。
「私は、とても重い罪を、二人に背負わせてしまったな……」
「あいつらは特殊だ。フェルンは七竜王の契約者として、天羽はアルカナの契約者としての責務を果たすために行ったんだ」
「私は自分を恐れていた。こんな強大な力を持って良いのかと……そして、分けた結果がこの始末。本来は私がやるべき事を、あんな子供に押し付けてしまった……」
レイシスの目には白い紋章が出ていた。
それに気づいたうえでルネスは話す。
「世界が復活しそうになるたびにこんな事をしてきたんだろ? あいつらは多分、それを終わらせてくれる」
「終わらせる……?」
「そう、終わらせる。力を全て回収し、あんたに返してくれるだろうよ。信じてみようぜ」
ルネスは綺麗な星空を見ながら、そう天に言った。




