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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第一章 『揺らぐ気持ち』
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眠りの寮監

 ギスギスした空気の中、並木通りを抜けて二人は寮に着いた。

 エントランスには大きな自動ドアがあり、センサーが天羽たちに反応して静かに開くと、部屋番号を入力するタイプのオートロック式ドアが目の前にあり、その横に管理人室の窓があった。

 当然だが、初めて来た天羽たちにはこのドアを開けることは出来ない。


 とりあえず、学園長が言っていた寮監の神崎さんという人にあいさつをしよう。おそらく、この管理人室の中にいるのだろう。


 そう思って天羽は窓の中を見ると、メガネをかけた茶髪の女性神崎(かんざき)(れい)が肘掛け付きのオフィスチェアに座って体をのけ反らしながら気持ちよさそうに寝ていた。


「……ん……お?」


 玲は天羽たちに気づき目を半開きにしながら一瞬起きるが、すぐにまた寝てしまう。

 生徒の目を気にしていない態度を見るに、この人が寝ているなんていつもの事なのだろう。

 でも、この学園に入りたての天羽たちにとっては職員が勤務中に寝ているなど異常な出来事でしかない。

 せめて『巡回中につき不在』などの札を立てて、見えないところで寝ていてほしかった。

 これでは私、仕事サボってまーす! と堂々と言っているようなものだ。


 学園長はこのことを知っているのか?


 失礼を承知で管理人室の窓を二回叩くと玲はすぐに起きて、目を半開きにしながら面倒そうに窓を開ける。


『コンコン』

「あのー、すみませーん」

「はいはい。ふぁ……何の用ですかー?」


 天羽はあくび混じりに聞いてくる玲に腹が立った。

 しかし、一度深呼吸をして気を静め、


「あの、今日からこの寮にお世話になる麗城天羽と申します」

「凛堂麻耶です」

「あー、君たちが今日から入るっていう麗城君と凛堂さんか!」


 玲は目をちゃんと開いて、何かを思い出したかのように机に置かれている書類を見ながら話し始める。


「いやぁ、寮監が仕事中に寝ているなんて驚いたろ? すまんね、私は能力上すぐに眠たくなってしまうんだよ。こんなの毎日の事だから気にしないでね」

「あ、てことは」


 玲は座ったまま背伸びをして、体勢を立て直し軽く咳払いをする。


「紹介遅れたね。私は寮監の神崎玲だ。これからよろしく」

「「よろしくお願いします」」


 この人が神崎さんだったのか! って、寝ている寮監って大丈夫なのか?


 居眠りをするというところ以外はいい人そうだと天羽は思ったが、隣にいる麻耶を横目で見るとなんなのこの人と顔に書いてあるような表情をしている。


 気持ちはわかるが、今そんな顔をしたらいけないだろ。


 玲は机の上にある書類から数枚を抜き取り天羽たちに渡す。


「はい、これ。その紙に寮の決まり事とか色々書いてあるから、部屋に行った時で良いから読んでおいてね」

「「ありがとうございます」」


 紙を受け取ると、玲は後ろにある灰色の壁掛け箱の中から二人分のカードキーを出して、見えない位置にある機械にカードを挿した。


「こっちが麗城君の部屋の鍵で、こっちが凛堂さんの部屋の鍵、と。それじゃあ、まず初回登録として顔写真を撮らしてもらうよ」


 そう言って指をさしたのは、窓の左横にある玄関を向いたカメラだった。


 不審者用の監視カメラだと思っていたが、顔写真を撮るためのカメラだったのか。


「一枚撮るだけだからすぐ終わるよ。じゃあ、まずは麗城君から」

「はい」


 玲は無表情でまっすぐ見るようにと指示を出し、言われた通り天羽は無表情でまっすぐカメラを見た。

 カメラ特有のシャッター音は無く、正直撮られたという感覚が全く無い。

 麻耶も続いて顔写真を撮り、二人合わせて一分かからない程度で終わった。

 玲は機械からカードキーを取り出し天羽たちに渡す。


「はい、これでおしまい。部屋の番号はカードキーに書いてあるから、この先のエレベーターに乗って部屋に行ってね」


 見るとカードキーには番号が書いてあり、天羽の物には『305』、麻耶の物には『502』と書いてあった。


「この扉はオートロックになっているから、部屋番号を入力するボタンの横にあるカードリーダー……えと、黒くて四角い箱に今渡したカードキーをかざせば開くよ」


 玲が指さしたカードリーダーに天羽は自分のカードキーをかざすと、静かにゆっくりとドアが横に開いた。

 ここのオートロックは部屋番号を入力してその部屋の者にドアを開けてもらうか、自分のカードキーをかざしてドアを開ける方法の二種類がある。

 基本的に使うのは後者の方法だが、誰かの部屋に行く場合には前者の方法を取るのが良いだろう。

 玲はドアが開いたことを確認すると続けて、


「エレベーターの中にもカードリーダーがあるから、かざせば自分の階に行けるよ。他の階に行きたい時は、そこでインターホン鳴らすか、エレベーター前で待ち合わせして行ってね。二人の荷物は部屋に届けてあるから確認しておいてね」

「「ありがとうございました」」

「はーい」


 天羽たちは玲に礼を言って、奥のエレベーターの前まで行く。

 エレベーターは三基あり、右端のエレベーターの横には重そうな扉で閉ざされた非常階段があった。

 ボタンを押すと真ん中のエレベーターが下がってきて、チーンという音と共にドアが開く。


「えっと、ここにかざすのか」


 エレベーター内の階数が書かれたパネルの下にカードリーダーがある。

 天羽は自分のカードキーをかざしてみると、三階の『3』の文字が赤く光る。

 続けて麻耶もかざすと、五階の『5』の文字が赤くなった。

 ドアが閉まると数秒で三階に到着する。

 天羽はエレベーターから降りて後ろを向き、


「それじゃ、またな」

「うん、また」


 そう言うとドアが閉まり、エレベーターは上がって行った。

 何か他にも声をかけるべきだったかと思ったが、兄妹の事情を全く知らない天羽には言葉が思いつかなかった。

 視線を戻すとエレベーター前の通路は一つしかなく、通路を挟むように白い壁と紺色のオシャレなドアがずらっと並んでいた。

 天羽は『305』と書かれた部屋の前に行くと、ドアの横に取り付けられたカードリーダーに自分のカードキーをかざす。

 ガチャンとドアのロックが外れる音がし、ドアノブを下げて部屋に入ると、


「おや、お客さんですか」

「……は?」


 目の前には、バスタオル姿の銀髪ロングがいた。

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