臣流の教え子
Aブロック十四回戦。
朱里と竜二はとても気分が落ち込んでいた。
「勝って決勝。でも、当たるのはあの二人……」
「ここまで来たら勝つ気で行かないとダメよ。私たちが負かした相手に失礼だわ」
珍しく正論を言われ驚くが、少し笑って竜二は返す。
「そうだね。勝とう」
「……良い顔だわ」
そして試合時間直前となり、会場に入った二人は相手を見る。
年齢としては三つ上の御手洗京子と滝沢明里。
京子は左目を白い眼帯で隠した姿がとても特徴的だが、明里は首から足までぴっちりとした黒いライダースーツのようなもので覆っており見た目のインパクトは明里の方が上だ。
会話も無く時間が進み、試合が始まる。
『Aブロック十四回戦、試合開始』
「宝石強化、タイガーアイ!」
「獣身化、チーター、ゴリラ!」
試合開始と共に変身して全力で突撃をする。
二人の拳があと数歩で届く距離になり初めて相手が動き出した。
「来なさい、死楽」
「反撃します」
京子は目の前に出した紫の魔法陣から黒い刀を出し、抜刀の構えを取る。
そして、明里は人間の速度とは思えない速さで竜二に回し蹴りを入れた。
「ぐっ……!」
吹っ飛ばされたものの空中で体勢を整え、目線を二人に戻す。
そして朱里は後ろへ飛ばされる竜二を横目で見ながら京子へ殴りかかるが、最悪の状態になってしまう。
「遺血の型・切」
一瞬、その間に朱里の両腕に赤い切り傷が出現した。
出血こそあれど、まだ行けると思った朱里は足を止めない。
しかし、ここで機械音声が告げた。
『畑槻朱里、致命的な一撃。戦闘離脱』
「え……?」
歩みを止めて両腕に目を凝らす。
指は動くし、そこまで痛みを感じない。
「なんで……?」
「これは予選だから手加減した。本当だったら両腕無くなってるよ」
「手加減……? どうして、そんな!」
瞬きをしたその間に首の右側に刃が当たる。
見ると鍔には赤い眼が一つ付いていた。
その眼は朱里を見ており鳥肌が立つ。
「っ……!」
「こう言う事。理解したなら端に行って」
「……」
俯きながら、朱里は入り口ドアの付近に歩いていく。
「……ごめんなさい」
弱々しく放った言葉。
竜二は朱里を見ている事しか出来なかった。
「どうする、まだやる?」
「諦める訳、ないだろう……!」
「了」
そう明里が言うと、床を蹴って竜二に急接近する。
「がっ……!」
顔上げ様に骨が折れる程に強力なブローを明里から顔面に貰い、壁まで一気に吹っ飛ばされた。
『坂本竜二、致命的な一撃。戦闘離脱。勝者、御手洗京子、滝沢明里!』
そして、意識が戻り見た景色は、総合病院の病室の天井だった。
「竜二!」
「……朱里、さん?」
「良かった……意識が、戻らない、かと、思った……」
号泣する朱里に釣られて、竜二も寝ながら涙を流す。
「負けたんだね、俺たち……全く、歯が立たなかった……」
『コンコン』
「「……?」」
病室のドアをノックする音が聞こえ、現れたのは意外にも優斗と敏文だった。
「意識が戻ったか」
「ちゃんと顔戻ってるじゃん! すげぇな、リリエル先生の治癒能力! お前の顔が映った瞬間に映像が変わって……」
「お前は黙っていろ!」
「いでっ! ……ずん"ま"ぜん"」
裏拳を入れられて怯んだ敏文は優斗の後ろで顔を押さえる。
そして、溜息混じりに優斗は口を開いた。
「お前らが戦った御手洗、あいつは臣流の教え子だ」
「臣流……って、岸波斑鳩女子学園の臣さんが言ってた……?」
ゆっくりとした竜二の返答に優斗は頷く。
「そうだ。あいつが本気になってたら、二人の命は無かっただろう。一瞬で畑槻の両腕に血管を切らない程度の切り傷を負わせただけで実力は分かる。袴は俺と同じか、それ以上か……」
「血管を切らない?」
「出血があったのは、あくまで皮膚を切ったから。血管を切られてたら、あの程度では済まなかったってリリエル先生が言っていたわ」
「……そう、なんだ」
そして、優斗の後ろから鼻を赤くした敏文が顔を出す。
「それとよ、坂本が戦ったあの全身スーツの先輩。あれ多分、全身機械だぜ?」
「機械?」
「ああ」
優斗は頷くと話を続ける。
「呼吸が見えなかった。あれだけ密着しているスーツで、肺も腹も動いていなかった。一歩踏み出しただけで、人間は何十メートルも動けない。仁導院や臣の能力ですら呼吸が必要だったのにな。少なくとも、外身は人間ではないだろう」
「外身?」
「要は、機械の体を操る能力が本性じゃないかって事。例えば、よくある巨大ロボットを操縦するのに人間が乗り込むのと同じでさ、体を小さくして中で操縦してるんじゃないか、ってのが俺たちの考え」
「確かに、それだとあの人間離れした動きにも納得がいくわね」
「決勝は人外コンビ同士の対決だ。どうなるかねぇ?」
「「……」」
二人は沈黙して、しかし竜二が口を開く。
「勝つよ」
「?」
「麗城君とフェルンさんなら、勝ってくれる」
「……そうだな」
「……そうね!」
「だよな!」
四人は口をそろえて言った。
「「「必ず、勝つ!」」」
そして、最終日へと進む。




