剣と拳、軌道と弾丸
Dブロック十三戦目、ここでは見知った顔同士が試合会場で睨み合っていた。
九戦目を勝ったナンシーと瑠璃子、十戦目を勝った紅花とエレーナ。
画面を見ただけでは和んでいるように見えるが、実際の空気はヒリついている。
「宮本はエレーナに強くて、あたしはナンシーに強い。長引きそうな組み合わせになっちまったな」
「確かにただの弾は宮本さんに効くとは思いません。少し小細工をしてあげたら、いかがでしょうか?」
「力と力のぶつかり合いですよ。補助は出来ませんからね」
「任せて瑠璃子! こわーい武器出して無力化しちゃうカラ!」
そして、対戦の時間が来る。
『Dブロック十三回戦、試合開始』
「弾丸生成、貫通・拡散・粉塵、貫通・火炎」
『ババン!』
放たれた二発の弾丸は迷いなく瑠璃子を襲う。
しかし、ナンシーは咄嗟に刃が青い剣を出し弾丸を両断する。
「我が元に現れよ、望むのは水の剣!」
両断した弾丸の粉は剣から出る水分を吸い、後に発射された火の弾丸での粉塵爆発は起こらなかった。
「なるほど、水分を吸わせたのですね」
「Yes! 私の剣は自由自在デース!」
「奇遇ですね、自由自在なのは私もですわ! 紅花さん、弾丸の舞です」
「いいぜ! 破壊100%! いっくぜぇ!」
「全弾装填、弾丸生成、貫通・追尾」
『バババン!』
全身に光を纏った紅花が距離を詰め、後ろで発射した弾丸が山なりの軌道を描いて二人を襲う。
「瑠璃子!」
「わかってますよ!」
瑠璃子の修正で弾丸が降下したところでさらに上昇し、波形のような軌道を描くが弾丸は二人を追尾し続ける。
「修正が効かない!? いや、正確には効いているけれどその度に修正されている……?」
「正解ですわ。でも、解った所で紅花さんは目の前です」
「ナンシー!」
「オッケーヨ!」
「うぉらぁ!」
『バキンッ!』
剣で攻撃を防ごうとするが、刃を狙ったブローに剣は耐えられず折られ消滅してしまう。
「こんな脆い剣じゃ、あたしの攻撃は防げないぜ、っと!」
「左に避けて!」
「くっ……!」
間一髪の所で瑠璃子の修正で紅花の軌道をずらし攻撃を避けさせた。
しかし、これによってエレーナの弾丸が瑠璃子に届いてしまう。
「まずは一人……」
「そうは行きませんよ!」
瑠璃子の目が青く光り、巧みなステップで弾丸を全て避けたのだ。
「修正の能力を自分に?」
「第二能力、空間把握です。空気の流れから弾道を予測して避けました。あまり見せたくは無かったですが……」
「あらあら、まぁまぁ……! 面白い能力ですわね、麗城さんのような方がもう一人いらっしゃったとは!」
「へぇ、そうかい。上下関係が明らかになった、もう手加減はしねぇ。エレーナ!」
「ええ、それでは、全装備を使った踊りを披露しましょう」
そう言ってエレーナはタップダンスをするように足を動かすと、ヒールに付いていたカバーが外れシリンダーと銃口が見える。
続けて両腕も広げて回転式拳銃を二丁持つ。
「回転式拳銃を四つも装備していましたか」
「私の全部を出し切ります。全弾装填、弾丸生成、貫通・追尾・遅延」
各銃のシリンダーに紫色の魔法陣が出現すると、金属音と共に全弾の装填が完了する。
「さぁ、私と踊りましょう」
『カツン、カツン、カツン……』
エレーナは手に持った回転式拳銃のバレルを当ててリズムを刻みながら弾丸を発射していく。
「我が元に現れよ、望むのは聖なる双剣、スイレン!」
「おらぁ!」
握ると刃が輝き、紅花の攻撃を受け流す。
斬撃も入れたい所だが、光を纏っている状態で切ると剣が折れる可能性がある為出来ずにいる。
弾丸は瑠璃子が対応してくれている、ノ?
なら、紅花は私がやらないと……!
「攻、撃、がっ! 重すぎる!」
一撃一撃がとても重い紅花のブローは、スイレンの耐久力を大幅に落としていた。
欠け、ヒビが入り、もうスイレンは限界に近い。
「どうしたどうした! 日和っていたらあたしらには勝てないぜ? もう弾丸は発射されているんだからな」
「!?」
ナンシーが瑠璃子の方に目をやると、切り傷で出血している瑠璃子に驚く。
「瑠璃子!」
「まだまだ行きますよ?」
リズミカルに発射される弾丸は、最初こそ先ほどと同じように波形のような軌道を描くが、その後に空中で何回も弾丸自体が停止して時間差で発射されるのだ。
修正と空間把握でも、複雑に動く物に対しては人間の処理が追い付かず瑠璃子は手一杯になっていた。
足を大きく上げてヒールの銃口から弾丸を発射したり、真上に弾丸を打ち上げて急カーブの追尾で翻弄したりとエレーナの弾丸はやりたい放題だ。
「よそ見が過ぎるぜ!」
「ぐっ……」
スイレンの一振りを犠牲にして守るが、瑠璃子は時間が経過するたびに傷が増えてしまっている。
「二本目! おらぁ!」
『バキンッ!』
「う”ぇ……けほ……」
ついにもう一振りのスイレンも折られ、みぞおちに直撃を食らってしまった。
腹を抑えて座り込み、激しく咳きこむナンシーを見下ろす。
「さっさと降参しな。お前の頭上には弾丸がある」
「まだ、戦える……」
片目を瞑り重たい体を上げて立ち上がると、瞬時に頭上の弾丸がナンシーに向かって発射される。
「がっ……」
両腕両足に傷を負い、致命傷にはならずとも戦力を削ぐには十分だった。
「瑠璃、子……」
目線を移すと、銃口を向けられて立ち尽くす瑠璃子。
両手を上げて降参するかと思いきや、この窮地で笑ってみせた。
「自分の銃弾がどこにあるか、把握した方が良いですよ? 一斉掃射!」
「……!」
エレーナから笑顔が消えた。
瑠璃子の背中から銃弾が出現しエレーナに放たれたのだ。
華麗なステップで弾丸を避け、それでも避けられないものには撃ち落とそうと数発撃ち込むするが、複雑に軌道を変えられ四肢に弾丸を浴びる。
「ぐっ……!」
「エレーナ!」
「私の事は構いません……! それよりもナンシーさんを!」
「我が元に現れよ、望むのは呪いの聖剣、テルヴング!」
魔法陣から出現したのは、赤黒いオーラを纏った剣。
握ると腕から血管が浮かび上がり、ナンシーの目が充血する。
「うあぁああああ!」
「何だこいつ! 剣に飲まれたのか!?」
「ぐるぁ!」
獣のようになったナンシーの剣撃はとても雑だが、テルヴングの力で身体能力が上昇しており避けるのがやっとだった。
「このっ!」
『パキンッ!』
「あ”ぁああ”!」
刃を折ったが、鍔部分から刃が生えてきたのだ。
「まさか、こいつ自分の魔素を吸っているのか!?」
ナンシーの息は荒くなっており、再び剣撃が来る。
「ぐぅう、あ”ぁう!」
「がっ……!?」
光が薄くなっている横腹にあり得ない角度からの一撃を貰ってしまう。
「宮本、のせいか……」
「あ”ぁっ!」
目線を逸らしてしまった隙を突かれ、ナンシーはテルヴングを大きく振る。
「しまっ……!」
「紅花さん!」
『バキュン!』
銃弾がテルヴングに当たり、衝撃でナンシーは手を離す。
「あ……」
すると、ナンシーは力が尽きたように頭から倒れ、テルヴングは消滅する。
『ナンシー・ハーホン・ヴィクトリア、意識喪失』
「気を失った……なら!」
機械音声がナンシーの離脱を宣言し、二体一になった事で勝利を確信する紅花だったが、視線を向けた瞬間にエレーナは瑠璃子から弾丸を受け倒れてしまう。
「すみま、せん……」
『エレーナ・ヴィオ・レルタ、意識喪失』
「何だとっ!?」
切り傷だらけの体で立つ瑠璃子の周りには、衛星のように回る弾丸があった。
既に紅花は光の殆どを失っている。
残った力は一撃与えられるかどうか。
ここから瑠璃子の弾丸を全て受け一撃を食らわすなど不可能に近かった。
「エレーナさんの弾丸は、持ち主が意識を失っても消えないんですね。さあ、光を失いかけている針城さんはどうします?」
「……降参だ」
『敗北宣言。勝者、ナンシー・ハーホン・ヴィクトリア、宮本瑠璃子!』
「はぁ……負けちまったか」
下を向いた瞬間に、瑠璃子は力を失い倒れてしまう。
「……おい、まさか立つ力しか残ってなかったのか!?」
「……これも、戦術の一つですよ」
得意げに笑い、四人は担架で総合病院へ運ばれた。




