次元渡り
学園内予選二日目の昼前最終試合。
Dブロックの試合会場には紅花とエレーナ、そしてスポーツ刈りの男性、鳩羽孝行と、マッシュルームヘアの男性、錦戸中が睨み合っていた。
エレーナは前試合同様、回転式拳銃の銃口を二人に向ける。
「胸躍るダンスを期待していますわ」
「それは君たち次第になるな。あっけなく終わらないことを祈るよ」
孝行は冷静に言葉を返して試合が始まる。
『Dブロック十回戦、試合開始!』
「弾丸生成、ゴム弾……ゴム弾!」
試合開始と共に、ゴム弾の三連発をくらわせる。
しかし……
「次元の門」
中が手刀で目の前の空間を縦に切ると、様々な色で満たされた空間が出現し、銃弾は中に吸い込まれた。
その空間が閉じて再び手刀で縦に切ると、エレーナが発射した弾丸が二人めがけて発射される。
「なにっ!?」
「大丈夫です」
冷静なエレーナは、残りの弾丸で三発とも正面から当てて対処した。
当たった弾丸は相殺されて両者の横を通過する。
「弾丸に弾丸を当てるか。凄い腕だな」
「うふふ、それほどでも」
「次はこちらからだ」
エレーナが頬に手を当てながら答えると、孝行は紫の魔法陣を手のひらに浮かべて黒い投げナイフを持つ。
「次元の門」
再び中が手刀で空間を切ると、孝行はナイフを次元の中に投げ入れる。
「黙って見ていると思ってんのか、よっ!」
紅花は光を右の拳に集めて殴ると、衝撃波が床を抉りながら二人に襲い掛かる。
「流石に甘くは無いな」
孝行と中は左右に分かれながらもなお、追加でナイフを生成し走りながら中の次元の中へ投げ入れている。
「弾丸生成、ゴム弾……ゴム弾!」
エレーナも二人を注視しながら弾丸を生成し、ナイフを撃ち落としている。
十丁投げ入れたところで中が大きく手刀で空間を切ると、二人は頷き次元の中へ入って行ってしまった。
二人が次元に入ると空間が閉じられ、会場には紅花とエレーナの二人きりとなる。
「何だ?」
「逃げた訳ではなさそうですが……」
周りを確認するが誰もいない。
床に落ちたナイフは既に消滅している。
「撃ってみますね。弾丸生成、ゴム弾……ゴム弾」
『バキュン!』
リロードして先ほどの次元の方にゴム弾を撃つと、壁に跳ね返ってエレーナのもとに帰る。
器用に帰って来たゴム弾受け止め、破損具合を確認してから後ろに投げた。
「どうだ?」
「破損は特に無いですね。少なくとも正面には誰もいないようです」
「体を透明にしてどっかにいるなら足音くらい聞こえると思ったんだが、そういう事でもなさそうだな」
「という事は、既にこちら側から干渉出来ない場所にいるのでしょう」
「干渉出来ない?」
「例えば、後ろからナイフで刺されたり!」
『バキュン!』
エレーナが振り返ると、言った通り空間の裂け目があり、ナイフがそこから出ようとしていた。
ゴム弾がナイフと当たると相殺されて、上下に弾かれる。
「本当かよ……」
「ええ、本当です……紅花さん」
「何だ?」
「ダンスをしませんか?」
「は?」
エレーナの提案に、紅花は口を開ける。
「うふふ……難しく考える必要はありませんよ。背中を合わせてもその間からナイフを出されては意味がありませんから、お互いの背後を見るように常に動くのです。このように」
そう言うと、エレーナは紅花の右手を取って笑顔を向ける。
「私は紅花さんの後ろを見ます。紅花さんは私の後ろを見てください」
「そう言う事か。でも、あたしはダンスなんて出来ねぇぞ?」
「私の動きに合わせて足と腕を動かしてください。簡単ですから大丈夫です」
「なら、よろしく頼むぜっと!」
エレーナの背後に現れた裂け目を見て、紅花はエレーナと場所を入れ替わるように回転し出てきたナイフに左拳を当てる。
ナイフは粉々に砕けて、破片が床に散らばる。
「そうです。そのように動いてください」
『バキュン!』
エレーナも紅花の背後に現れた裂け目にゴム弾を発射しナイフを撃ち落とす。
エレーナは経験者として紅花をリードしながら、華麗なステップで高頻度に場所を入れ替わる。
裂け目が見えると二人でナイフを交互に撃ち落とし、エレーナは脳内で流れる音楽を鼻歌で歌っていた。
紅花も初めてながら上手くエレーナに合わせて踊り、顔にも余裕の表情が見える。
「上手ですよ、紅花さん」
『バキュン!』
「意外と楽しいもんだなっと!」
「これで十丁目」
『バキュン!』
十丁目のナイフを撃ち落としたところで、二人はポーズを決める。
手を放して周りを見るが、二人が次元から出てくる様子は無い。
すると突然二人の全方位に小さな次元の裂け目が出現する。
「何だこの数!?」
「一つだけしか出せないと思っていましたが、一度で複数個所に出せるのですね」
そう、中と孝行は次元の中でナイフを生成しながら二人の周りを走っていたのだ。
とは言え、次元の中からでは二人の位置は分からない為、ナイフが次元から発射される際に外の様子を見てどこに行けば良いのかを判断している。
あとはナイフを投げた直線上に別の次元を開いて外とつなげれば発射出来る。
大袈裟に手刀で次元を切る動作をしていたが必要ない、中なりのブラフだ。
ナイフの先端が次元から出た所で孝行と中は勝ちを確信したが、それは大きな間違いだった。
「紅花さん!」
「破壊!」
紅花は光を全身に纏い、喝と一緒に一気に放出した。
結果、全方位から出ていたナイフは粉々に砕けて消滅する。
「なんだと!?」
「……」
次元から見ていた二人は額に掻いた気持ちの悪い汗をぬぐえずにいる。
「魔素の殆どを使ってしまった。もうナイフは数本しか作れない……中は?」
「帰る為の次元を開くので精一杯だ……」
全方位からの攻撃は二人にとって必殺技だった。
それが防がれた以上、もうどうする事も出来ない。
やがて中が次元を開き二人が出てきたところで孝行はナイフを両手に作り、紅花とエレーナに投げる。
『バキュン!』
「ふんっ!」
「……」
敵わないと悟った二人は両手を上げてこう言った。
「「降参だ」」
『敗北宣言。勝者、針城紅花、エレーナ・ヴィオ・レルタ!』
機械音声が試合終了を告げると、二人は目を合わせてほほ笑む。
「全方位からの攻撃を防がれたのは初めてだ。今年の一年生は何か違うようだな」
「ああ。銃の使い方も素晴らしい。君たちの優勝を応援しているよ」
「へへ、頑張って勝ち残ってやる!」
「手合わせ、ありがとうございました」
四人は握手を交わして試合会場を出るのであった。




