竜人化
「剣と剣の戦い、凄かったな」
「あの剣技と能力は、五本の指の方ですね。こう言ってしまっては失礼ですが、まさか勝つとは思いませんでした」
Aブロック控室のモニターを見ながら、天羽とフェルンはナンシーたちの試合について語っていた。
「能力は、未来視だったか?」
「はい。その名の通り未来を見れる能力です。普段は剣術に特化したパルナスさん一人で試合を済ませてしまうのですが、リアムさんがパルナスさん以上の剣術使いとは知りませんでした」
「だから五本の指なんだろう。でも、それを塗り替えてしまうくらいナンシーたちは強かった。素の剣さばきは負けているが、宮本の能力と合わせる事で真の実力を発揮する。ある意味、相方の本来のあり方だよな」
「最初から本気を出されていたら結果は変ったかもしれませんが、それも作戦ですから仕方がありません」
「失礼致します」
会話をしていると、スーが一礼をして入って来る。
「麗城様、フェルン様、試合開始5分前となりました。試合会場へ入場をお願い致します」
控室を出て試合会場の扉の前には、金縁眼鏡が特徴的な高身長の男性イーサン・ホワイトランドと、右目の傷と近未来的なヘッドフォンが特徴的な男性荒巻和人がいた。
「……」
「……!」
イーサンと目線を合わせるや否や、フェルンは一歩下がった。
二組が揃うとスーとフェティーが前に行き、会場の扉を左右に分かれて開く。
「「入場してください」」
会場に入場して二組が向かい合わせになると、震えた声でフェルンが天羽に話しかける。
「天羽さん、今回は最初から本気でお願いします」
「どうしてだ?」
「名前で判断出来なかったのは私の失態です。あの人は五本の指の一、白王です」
「白王って何だ?」
「名前のホワイトランドに、配下を従わせる帝王から白王と呼ばれています。能力は言葉服従、言葉を聞いた相手を操る能力者です」
「それはとても厄介な相手だな。どうすれば良い?」
「試合開始と同時に一撃を叩きこみます。その後、天羽さんの全力でイーサンさんを戦闘不能まで追い込んで下さい」
「わかった。荒巻さんはどうする?」
「能力は私も知りません。臨機応変に対応しましょう」
「了解」
話し終わると和人はヘッドフォンのハウジングを両手で触り、電源を入れて青白くラインが光る。
天羽たちが構えてすぐに試合開始が宣言される。
『Aブロック十回戦、試合開始!』
開始と同時に宣言通りフェルンがイーサンに突撃する。
「火炎拳・赤乃岩戸! 焔王……!」
「平伏せ」
「「……っ!」」
イーサンが発言した瞬間、天羽とフェルンは膝から崩れ落ち床に平伏した。
まるで重力が何倍にも膨れ上がったかのようで、足と腕にありったけの力を入れて立ち上がろうとするが叶わない。
しかし、声は出せる。
「審判!」
名前を叫んだ瞬間、天羽とフェルンの拘束が解かれ立ち上がる。
「焔王咆紅!」
「中断せよ!」
「審判!」
出現した竜の紋章が消えかかるが、審判の能力でイーサンの能力が打ち消され攻撃が続行される。
紋章を殴った瞬間、白い光が二人をめがけて放たれるが、前に出た和人によって防がれる。
「障壁展開」
黄色い魔法陣から出たのは、ちょうど紋章と同じサイズの障壁だ。
ただの障壁ならフェルンの攻撃は貫通する。
しかし、フェルンの攻撃は貫通しなかった。
理由は簡単だ。
和人は全体を守るような広く薄い障壁を作るのではなく、狭い範囲で厚みのある障壁を作ったのだ。
「貫通出来ない!?」
「約束されし勝利の槍よ、今、汝を長き眠りから解放し、再我らに勝利をもたらせ。現れよ、幻槍・グングニル!」
「多重障壁展開」
何重にも重なった障壁が天羽の出した槍の前に出現し、とてつもない轟音と共に槍は壁を貫いていく。
一枚割るのにちょうど一秒程か。
しかし、割るたびに槍の勢いが落ちていくことに天羽は気付いていた。
「フェルン、追撃だ!」
「はい! 焔王咆紅!」
フェルンは声に気が付き、槍の後ろから一撃を与える。
すると、一瞬で障壁を貫通し、和人はイーサンを横から抱いて攻撃を回避した。
槍は壁に激突後、天羽のもとへと帰り消えていく。
「ここまでやって無傷かよ……」
立ち上がるイーサンと和人には傷一つ無い。
仕切り直しだ。
天羽の能力が何種類もあるとはいえ、使えるのは記憶で見た能力だけ。
唯一の攻撃系の技であるグングニルを使っても致命打に足りないのは想定外だった。
そして、フェルンの攻撃も通らないとなると、もう一度グングニルとの合体技を使う必要がある。
「フェルン、もう一度……」
「いいえ、私一人で行きます」
見ると、フェルンのツインテールが青白く燃えている。
「アルククとの合体を行います」
特別演習で新しく身に着けた竜王の契約者ならではの能力、竜人化。
竜王と一つになる事で、竜装よりも強力な技を出すことが出来る。
しかし、デメリットもある。
それは、今のフェルンには一日に一度が限度で、制限時間もあるという事。
アルククと魔素を一部共有しているとはいえ、消費する魔素の量が多く5分程度が限界だ。
「わかった。俺も宮本の修正でサポートする」
「お願いします」
大きく息を吸い、ガントレットの白いラインが燃える。
「来て、アルクク」
『良いだろう』
紋章から声が聞こえると、フェルンの体は竜巻のような青白い炎で包まれる。
炎が消えて出てきたのは、腕や足、髪に青白い炎を纏い、顔の輪郭が竜の鱗となり、燃える溶岩の翼を生やしたフェルンだった。
この状態の時は、フェルンとアルククの声が混じるように聞こえる。
「『我は竜人王、フェルン・ヴァリオス』」
「平伏せ」
「『効かぬわ』」
イーサンの能力は何かに弾かれ消滅した。
フェルンとアルククは苛立ちを露わにして、炎の温度を上げながら発言する。
「『この溶焔の王である我に命令するとは良い度胸だ、小僧。苦しまずに死ぬが良い。いや、死んだら駄目だから気絶程度で。うむ、わかった。では行くぞ』」
フェルンとアルククの一人芝居が終わると同時に、巨大な紋章が正面に浮かび上がる。
「『焔王咆紅!』」
ガントレットを当てると、すさまじい勢いで白い光が放たれる。
天羽はなんとか床に体全体を当てて飛ばされないようにしているが、少しでも気を抜いたらあっという間に吹っ飛ばされてしまう。
光が放たれて十数秒、消えるとボロボロになった障壁が見えた。
和人は息を荒くしながら膝をつき、その後ろの壁は中央部分以外は赤く溶けてしまっている。
「『ほう、耐えるか。ならばもう一度……』」
「消え去れ!」
「『無駄だ』」
「平伏せ!」
「『わからぬか、小僧』」
何度も言葉を発するが、フェルンとアルククには届かない。
言葉服従は、自分より強い相手には効果が薄くなる。
そして、従わないという強い心があれば能力を打ち消すことも可能だ。
イーサンと和人がそれを知らない訳が無い。
諦めずに続けて言葉を発するが、やはり届かない。
「『もう良い、消えろ』」
フェルンとアルククは複数の紋章を出す。
「『焔王槍紅!』」
紋章からは、鋭く直径1m程度の円錐型の槍が出現し発射された。
「防護障壁!」
局所的に厚い障壁を出すが、槍は簡単に貫通する。
そして槍は法則性を持って二人の周りに突き刺さり、巨大な紋章が頭上に出現する。
「『焔王嵐紅!』」
紋章の外側から赤い炎の風が起き、それはやがて竜巻となって二人を襲った。
天羽はやりすぎだと思っていたが、竜巻が止むと表面だけ軽く火傷をした二人が見えた。
『致命的な一撃。勝者、麗城天羽、フェルン・ヴァリオス』
機械音声が試合終了を告げると、フェルンとアルククの融合が解けて後ろに倒れた。
天羽は駆け寄り、フェルンの背中を支える。
「大丈夫か?」
「は、はい……やはり、この状態は長く維持出来ませんね……」
「魔素が切れかかっているんだ、総合病院まで送ってもらおう」
「フェルンちゃん、大丈夫!?」
「リリ、フェルンを頼む」
「うん。担架持ってきて!」
会場に入ってきたリリエルに助けを求め、フェルンはリリエル、イーサンらと共に総合病院に運ばれた。




