もう一つの力
優斗と敏文の試合が終わってから20分ほど経った後、Dブロックの会場にはナンシーと瑠璃子がいた。
二人の正面にいるのは金髪と青い目が特徴の女性アダムズ・パルナスと、ブラウンの短髪と目が特徴の女性ヒューズ・リアム。
目の色以外見た目が被っているナンシーとパルナスが言い争いにならない訳が無く……
「ユーとミー、キャラクター被ってる?」
「その言葉、そっくりそのまま返しますヨ」
「まったくユーさ、染めるなら金髪以外にしてよね?」
「ああん!? 地毛ですヨ、地毛!」
試合開始前から二人の間には見えない電流が走っていた。
「ナンシー、冷静になってください。これから試合なのですよ?」
「パルナス、一人で盛り上がらないで」
「「……」」
と、こちらもこちらでキャラが被っているらしく、睨み合う二人の間にさらに見えない電流が走ってしまう。
モニター越しで見ている多くの同級生が溜息をついているのは言うまでもない。
『Dブロック九回戦、試合開始!』
機械音声が試合開始を告げると、ナンシーとパルナスが同時に詠唱を行う。
「我が元に現れよ、望むのは固き鉄剣!」
「カモン、ソード!」
「「被るなぁ!」」
両者魔法陣から剣を取り出して、苛立ちを露わにしながら距離を詰め鍔迫り合いとなる。
一度離れて剣技を披露するも拮抗してしまう。
瑠璃子もナンシーの行動を修正しながら最善の行動を選んでいるつもりだが、相手もナンシーの動きに合わせて剣を振るっていることからかなりの実力者だと理解できる。
「……」
「あなたもサポート系の能力者ってわけね。こっちも被り?」
瑠璃子同様、リアムも一歩も動いていないことからサポート系の能力者かと思うが、小さく笑みを浮かべながら答える。
「さあ、どうでしょうか。ナンシー、剣をください」
「無理に決まっているでショ!」
「では、その剣で良いです」
「え?」
剣撃の最中に瑠璃子はナンシーから剣をすっぽ抜き、パルナスの攻撃をギリギリで避けたナンシーを修正で首を引っ張るように後退させる。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ! 瑠璃子何するのサ!」
「こうするのです」
剣はくるくると回転しながら柄が手元に入ると、思いっきりリアムに投げる。
「……パルナス、撃ち落として!」
「オーケー!」
しかし、そんな簡単に撃ち落とせる訳は無く、パルナスの剣は瑠璃子の剣に全く当たらない。
まるで剣が魂を持っているかのように、パルナスの剣を避けるのだ。
「リアム、ヘルプ! カモン、ソード!」
「仕方ないわね」
リアムはパルナスから剣を受け取ると、剣に向かって振りかぶる。
すると、瑠璃子の剣が避けた先に追撃し、剣の刃を砕いた。
ナンシーの出す剣は、全て刃が弱点である。
当然そこは剣同士がかち合う時に当たる部分だが、一撃で砕くには能力者のナンシーはともかくとしてそれなりの力が必要だ。
一撃で剣を砕いたリアムには二人とも驚きを隠せていない。
「嘘でショ!?」
「私の思考の上を……?」
瑠璃子は驚きながらも、冷静さをすぐに取り戻し分析した。
「そうですか。あなたの能力、分かった気がします。ナンシー、剣を二本下さい。そして、追加のお願いです。パルナスさんを止めてください。私がリアムさんと戦います」
「大丈夫なノ?」
「リアムさんは未来が見える能力者です。私の修正でも追いつかないのですから、そうとしか考えられません。そんな人相手に戦えるのは、疑似的な遠距離攻撃が出来る私しかいないでしょう」
「正解。私は未来視、魔素を使えば使っただけ先の未来が見える能力者よ。サポート役ってのは嘘。パルナス一人で十分だと思っていたけれど、私も戦わないとダメか。あなたがサポート役と攻撃役を兼役しているなんて驚いた。ここだけは被らなかったわね」
剣を床に刺しながら言うと、ナンシーは魔法陣から白に輝く剣を二本生成し真上に投げる。
「我が元に現れよ、望むのは聖なる双剣!」
「ありがとうございます」
瑠璃子は投げられた双剣を目視もせずに自分の周りに滞空させる。
自分の目線の高さまで剣を落とすと、その美しさゆえに見入ってしまい、こんなことを聞いた。
「初めて見る剣ですね。名前はあるんですか?」
「あ、うん。スイレン」
「良い名前です」
その名前に答えるように、双剣の刃が輝く。
「今のは?」
「お話は終わったかしら?」
「あ、はい。待たせましたね」
刺さった剣を抜いて構えながら言うと、瑠璃子はスイレンの鋒を向けて答える。
「我が元に現れよ、望むのは漆黒に染る呪いの剣!」
魔法陣から出現したのは怪しげな黒い煙を刃に纏った剣だ。
「行きなさい、スイレン!」
瑠璃子が先行してスイレンを飛ばすと、パルナスが撃ち落とそうとするがやはり叶わない。
二本とも攻撃を避けてリアムに向かう。
「てぇやぁ!」
「ぬん!」
スイレンに気を取られているうちに一撃をくらわそうとするが、パルナスは接近するナンシーに気が付き受け止める。
瑠璃子のサポートが無い今、ナンシーの動きは最初よりも遅く見えている。
内心瑠璃子に助けを求めているが、それでもナンシーはあきらめずに特別演習で練習した剣撃を見せる。
刃を流すように左肩から右腹へ、切り返し頭へ剣を上げて今度は左腹へ動かす。
このように多角形の対角線をなぞるように攻撃する様子から、五芒星という技名を瑠璃子とナンシーの間で付けている。
法則が分かってしまうと防がれやすい攻撃だが、体力さえあれば無限に続けられる技なので、体力も力もあるナンシーにはもってこいの技だ。
「ユー、やるね! でも、見切ったよ!」
「ふっ……クロユリ!」
攻撃は二回ほど続いたところでパルナスがナンシーの剣を止める。
しかし、それすらも見越したようにナンシーが笑い剣の名前を叫ぶと、答えるようにクロユリが黒く輝き纏っていた煙がパルナスの剣に移る。
すると、剣同士が触れている部分から茶色く錆びていき、最終的にはクロユリに中央から割られてしまう。
「ワット!?」
そして、突きの動作をしてパルナスの首に鋒を当てたところで勝負は決まる。
「ミーの負けね……」
『アダムズ・パルナス、戦闘離脱』
その頃瑠璃子の方はというと、とても苦戦していた。
一撃で剣を砕いてしまうような相手に貴重な剣を捨て駒に出来ない。
前後からの同時攻撃でなんとかリアムの攻撃を分散させて避けているが、これではいつまで経っても決着がつかない。
相手の動きは手に取るように分かるのに、二手先の攻撃を予測出来ずこれだけは鍛錬不足だと実感する。
せめてもう一本剣があればと思ったところで、パルナスとナンシーの戦いが終わった事に気がつく。
「ナンシー、剣をください!」
「オッケー、よっ!」
後方から投げられたクロユリを能力でキャッチすると、一度スイレンを弾き戻して三本とも滞空させる。
「三本か、きっついわね……」
「私の剣技、躱せるものなら躱してみてください! スイレン、クロユリ!」
スイレンとクロユリを三方向から突撃させ、リアムの死角を作る作戦だ。
リアムは腰を落として頭上で剣たちが交わり、再度攻撃を仕掛けてくる。
今度は三本とも正面から。
一本の剣で出来る技として五芒星を見せたが、双剣ならその上である六芒星を使える。
上下で三角形を描き合わせることで六芒星となり、二本同時の剣技は慣れていなければ能力で剣を操って振るう方が断然やりやすい。
その気になれば自分で剣を持ち、自分自身を修正で操り攻撃することも可能だったが、しなかったのはこういった理由からだ。
流石のリアムでもこれは応えたようで、どちらかを防げばどちらかを通してしまうことになるため、攻撃を防ぎ避ける事で精一杯だった。
スイレンの攻撃の合間にクロユリがすかさず攻撃を仕掛けてくる。
クロユリの呪いの効果は強く、触れた物を腐食させるという能力はリアムも瑠璃子と戦いながら確認していた。
既に戦闘離脱しているパルナスの能力でもう剣は補充出来ない。
リアムの使える剣は今持っている一振りのみ。
剣でクロユリをいなす度に少しずつ変色していることも分かっていた。
しかし、諦める訳にはいかない。
必死に剣を躱しながら横切るスイレンにダメージを与えていく。
そしてついに、スイレンの片方の刃を砕くことに成功した。
「勝機……!」
「くっ……!」
砕かれた刃の隙間からもう片方のスイレンを真上に飛ばすが、くるりと体を回転させて大きく横に放った剣撃で刃を砕かれてしまう。
見るに堪えられなくなったナンシーが前に出ようとしたところで瑠璃子が止めた。
「私も戦う!」
「いえ、大丈夫です。勝機を失ったわけではありません。ナンシーは、私の背後にいてください。なるべくリアムさんを近づけますから、私が倒れたら柱をすぐにリアムさんに当ててください」
「わかった!」
言われた通りに瑠璃子の背中に隠れ、瑠璃子はクロユリを一度手元に戻して握り、刃をリアムに向ける。
「行きます!」
「来なさい!」
自らを修正で動かし、リアムと剣を交える。
当たるたびに剣を腐食しているが、同時にクロユリにもヒビが入る。
攻撃が重すぎる……!
リアムの剣を実際に受けて感じた直後の一撃で、ついに耐えられなくなったクロユリが砕かれてしまい、突きの動作をした剣が瑠璃子の喉を捉えた。
その瞬間、瑠璃子は背中から倒れるように剣を躱し、紫に光る大きな魔法陣がリアムの目に入る。
「しまっ……!」
「オベリスクっ!」
リアムの未来視は瑠璃子の行動に集中して予測していたため、ナンシーに気を配る余裕が無く見えていなかった。
突きの動作をしている以上、回避するには浮いている足を置き左右に躱すしかない。
しかし、オベリスクの太さは直径1m以上ある。
未来視には自分がオベリスクに突かれて壁に挟まれる未来しか映っていなかった。
予知通りリアムはオベリスクに正面から突かれ、壁に激突後、声も上げずに床に倒れた。
『致命的な一撃。勝者、ナンシー・ハーホン・ヴィクトリア、宮本瑠璃子!』
「大丈夫? ほら」
「ありがとうございます」
「リアム!」
オベリスクが消えて差し出された手を握り立ち上がると、パルナスと救護班がリアムに駆け寄る。
「手加減してありますよね?」
「もちろん。壁に挟まれないようにはしたヨ」
「なら大丈夫でしょう。行きますよ」
「あっと、瑠璃子さ、聞きたいことがあるんだけれド」
「はい?」
エレベーターに向かって歩きながらこんなことを聞かれた。
「私が剣を投げた時、見ないで受け取っていたヨネ? あれどうやっているノ?」
「どうって言われましても、ある程度の範囲内にいる人や物の動きを感じ取って修正で受け取っているだけですが」
「修正ってさ、物の軌道を曲げたり延長したりする能力だヨネ?」
「え? ええ、そうですよ」
「どうして物が投げられたとか分かるノ?」
「それは……それは……」
説明が出来なかった。
確かに、修正は軌道を操る能力で、物が投げられたことを感じ取れる能力ではない。
「私思うんだけれどさ、瑠璃子はもしかしたらもう一つ能力をもっているんじゃないカナ? 天羽君みたいに」
「私が、もう一つ能力を……?」
「うん。さっき、ある程度の範囲内にいる人や物の動きを感じ取って……って言っていたジャン? 例えばある範囲内の空間にある物を感じ取れる能力だとしたら、説明がつかなイ?」
「確かに、そう、ですね……」
瑠璃子は顎に手を当ててエレベーターの中でしばらく考える。
これが後に瑠璃子が持つもう一つの能力、空間把握を知るきっかけになったのだ。




