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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第三章 『学園間交流戦』
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思惑

 夕焼けの光が黒い高層ビルの窓ガラスに反射して薄暗い学園長室に入り込む。

 肘掛け付きのオフィスチェアにグレゴリオ・ディヴィアントは体重を思いっきりかけてパソコンの画面を見ていた。

 映っているのは子供のような見た目の金髪の女性、ダグラス・クロウリーだ。


『22の力は揃った、後は計画を実行するだけ。ディヴィアント学園には本当に感謝しているよ』

「研究開発のついでだ。それで、本当に世界統一の協力はするんだろうな?」

『もちろん。世界(ザ・ワールド)の力があれば朝飯前さ。それに、首輪を繋がれているのはこっちだし、そんな警戒することはないんじゃないの?』

「はっ、000(ゼーロ)の力すら消し去るのがてめぇの能力だろうが」


 痰を吐くように言うグレゴリオの目は常に画面を睨んでいる。


『確かに世界(ザ・ワールド)の力を使えば消し去る事が出来る。でも、それをするには22の力を一つにしなければいけない。その前に消されたら我の計画も台無しさ。我の本体はディヴィアント学園にあるんだからね。毎日毎日、世界(ザ・ワールド)を消されないか冷や冷やしているよ』

「ぬかせよ、ダグラス。俺にクローン実験をさせておいて、その成果物を台無しにするわけないだろ」

『ふふ、もちろん知っているよ。表ではあんだけ喧嘩しておいてさ、我々が裏で繋がっているって知ったら、二人はどう思うだろうね?』

「もう知れている」

『え?』


 ダグラスにグレゴリオは一枚の画像を共有する。

 その画像には悪魔(ザ・デビル)の腕が玲を握りしめている場面が映っていた。


悪魔(ザ・デビル)による束縛の力……まさか、教皇(ザ・ハイエロファント)の契約を破ったというのか!?』


 ダグラスは目を見開き、驚きの声が学園長室に響く。

 なお、それでもグレゴリオは動じない。

 全てが想定内だと言うかのように、グレゴリオは淡々と話を続ける。


「知れたからと言ってどうにもならねぇよ。前々から魔法協会の偵察部隊の探りが入っていたしな」

『じゃあ、生物兵器実験と合成獣(キメラ)実験の事も?』

「だろうな」

『だろうなって、盗まれるだけ盗まれておいて何も対処していないのか!?』

「対処すれば魔法協会から色々言われるだろうが。それに、魔法協会が知ったところでどうせ何も出来やしない。血液データが学園にある限り、手を出せばデータが流出する危険性がある。手を出せる訳がねぇ」

『Geneのマスターキーが君自身だからと言って、データの価値を過信しすぎではないか?』

「今やGeneが採用されていないモノは、てめぇの学園艦と他に数えるくらいのモノしかねぇよ」


 そこまで言うと、ダグラスは少し目を瞑り、声のトーンを下げて話し出す。


『我は世界(ザ・ワールド)が復活次第、君の望みを叶えて学園艦でこの星を出る。だから、我はこの星で君が何しようと、何が起きようとも知った事ではない。けれどね、利用する前に消されるのは困るんだ。それはお互い様だろ?』

「ああ、そうだな。世界(ザ・ワールド)の力無しに世界統一は出来ないだろう。戦闘部隊の人海戦術だけでは限界がある」

『クローンで人員を増やしていても、使える能力者として育成するまでに時間はかかるからね。それに、戦闘訓練中に審判(ジャッジメント)の能力者を殺されてしまった時は一体どうなる事かと本当に心配したよ』

「知っての通り、審判(ジャッジメント)の能力者はヴァルナの所に現れた。一年生のちんちくりんだ、学内予選を勝ち抜けなくても魔闘大会には見学組で出てくるだろう」


 言いながら、グレゴリオは銀髪の少女と一緒に映る、紺と金のツートーンカラーの髪が特徴な少年の画像を共有する。


『顔を見るのは初めてだな。この子が?』

「麗城天羽だ。そして、隣にいるのはフェルン・ヴァリオス。二人とも五年前に襲撃させたイヴリシアの教会の生き残りだ」

『へぇ、イヴリシアの……それに、二人とも魔素決壊(エナブレイク)で髪色が変わっている。もしかしたら、見学者じゃなくて選手として魔闘大会に出てくるかもしれないね』

「出てきたら叩き潰すまでだ。能力さえ取れれば肉体に価値は無い、そうだろ? 対戦で潰せば『仕方ない』の一言で済むからな」

『そう簡単に事が進むのかな?』

「なに?」


 眉をひそめると、ダグラスは白い歯を見せながら小さく笑う。


『相手は(ソラ)の保護下にあるんだよ? 全知全能の能力が分散されているとはいえ無くなったわけじゃない。やりすぎると痛い目を見るのはこっちだ』

「怖がっているのか?」

『もちろん。怖さを知らないのが君の悪い所だよ、グレゴリオ。何にも臆することなく計画を練り実行するのは、見ていてとても肝が冷える。そして、それを完遂するところが君の良い所だ』

「人であり、しかし人の心を持たない。よくそう言われるが、戦闘のためだけに育てた子供に何故、情が入るのか俺は理解出来ない。情を持つから戦地で失敗をするのだ。機械のように命令さえ聞いてその通りに動けば良い、それだけの事なのにな」

『本当に君は恐ろしい男だよ。だからこそ、我は気に入っている』


 グレゴリオ同様にダグラスが椅子に体重をかけるように座り直すと、上を見ながら話を続ける。


『あぁ、早く会いたいよ世界(ザ・ワールド)。この世界は我らにとって窮屈すぎる。新しい世界を一緒に作ろうじゃないか!』


 手を大きく広げて感極まるダグラスは、続いて自分自身を抱きしめる。

 グレゴリオには気持ち悪いナルシストのように見えていた。


「報告は済んだ。神崎の件はこっちで対応する」

『ああ、そうしてくれ。本土にいない我はどうすることもできないからな。それじゃ、次は魔闘大会で会おう』

『ブツリ……』


 通信が切れると、グレゴリオは背もたれを後ろに少し倒して天井を見る。

 これから起きる事は大体予想がついていた。

 レイシスは玲から情報を引き出し、ディヴィアント学園の包囲網をより強固にして解体まで追い込む。

 そして、今までやっていた数々の実験を魔闘大会で公表し、メディアに裏工作をさせないようにする。

 玲が悪魔(ザ・デビル)に始末されれば面倒なことにならずに済んだのに、玲を交渉のカードとしてレイシスが使ってくることは目に見えている。


000(ゼーロ)004(シビス)にやらせるしかないか」


 そう言って、グレゴリオは画面に二人の少女の画像を映す。

 能力欄に『能力喪失(アムネシア)』と書かれた方には、やる気を感じられない眠そうな目にブラウンの長髪が特徴的な少女が。『不癒強刃(ディスクラッチ)』と書かれた方には、黒のショートヘアで目つきが鋭く、しかし小さい鼻と桃色のほっぺが可愛らしい少女が映っていた。二人に付けられている番号は『000』と『004』。


「今年の魔闘大会が最後になるな」


 二人を見ながら、グレゴリオはそう言った。

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