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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第三章 『学園間交流戦』
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偵察者

 魔法協会。

 それは、世界で名を残すほど強い能力者十人を十位と呼び、その十位をリーダにして作られた能力者による能力者のための組織である。

 所属している能力者は能力者による紛争や、特定地域の治安維持、能力の研究活動等を行っている。

 皆は自由な恰好をして活動をしているが、偵察を主任務とする偵察部隊は皆のように目立つ格好はしない。一般人と同じ服装で各担当地域を巡回する。

 ルネスの場合、どんなに服装を地味にしても無くした右目を隠すグレーのバンドのせいで目立ってしまう。

 だが、そこら辺の身を隠す術は沢山持ち合わせている。

 イヴリシア方面の偵察を済ませたルネスは魔法協会に帰還し、C型の机の中心に座る半裸のスキンヘッドで手を合わせ座禅をしている魔法協会No.10(ナンバーテン)三目(みつめ)のディーンに報告をする。


「報告する。イヴリシア方面、異常無しだ」

「ご苦労。私からもルネスに報告がある。君の子供は岸波斑鳩女子学園に行っているぞ」

「へー、そうかい」


 ディーンはいつも通り目を瞑りながら話題を振り、ルネスも話を続ける。


「あいつ、いきなり家からいなくなったと思えば、ヴァルナ学園長からスカウトされちまっているなんて驚いたもんだ」

(セント)ヴァルナ・ノワール学園には、イヴリシアの教会で保護されたフェルン・ヴァリオスという女の子がいる。気にならないのか?」

「天羽ならちゃんとやっているさ。ヴァルナ学園長の事だ、相室にでもなっているんじゃないか?」

「ヴァルナ学園長の仕業かは知らないが、ルネスが言う通り相室になっている」

「マジか。あいつ、フェルンに変な事していないだろうな?」

魔素(エナ)の気配から、孕んでいない事は確かだ」

「真面目に返すんじゃねぇ、恥ずかしい」


 ディーンは魔素感知(エナセンス)という、世界規模で各人の魔素(エナ)を感知する能力を持っている。

 魔素(エナ)には人それぞれに特徴があるらしく、その魔素(エナ)の特徴だけで顔を見なくても誰だか分かるらしい。

 目を閉じて座禅をしているのは自らの感覚を研ぎ澄ませるためと本人は言っているが、実際の所効果があるのかは知らない。


「もう一つ報告がある」

「あん、なんだよ?」


 と、ディーンは珍しく目を開き、青白い瞳をこちらに向けながら話す。

 ルネスは腕組みをして聞いていたが、この時だけは手を下ろした。


「麗城天羽は、審判(ジャッジメント)の能力を手に入れた」

「なんだと!? 天羽が契約者に、いやそれよりも……」


 動揺が隠せない。

 これは魔法協会でも十位の人と数人しか知らない超重要機密事項だが、ディーン以外この空間に誰もいないことを確認して言う。


「アルカナの力が、全て揃った。これでは、ヴァルナ学園長が危惧している事が起きてしまうぞ」

「ダグラス学園長に動きは無い。世界(ザ・ワールド)は感知しているだろうが、今は動かないだろう」

「あんたがそう言うなら、そうなんだろうな。各地に散らばっている契約者の動向は?」

隠者(ザ・ハーミット)の契約者であるウィル・レガースが各地方、各学園の契約者に会いに行っている。(セント)ヴァルナ・ノワール学園の望月教官、岸波斑鳩女子学園の由布院(ゆふいん)、赤城に接触することは無い、というより出来ないだろうが、動きが出たらまた命令する」

「了解」


 やたらとデカい白がベースで金の縁が特徴的なドアを開けて廊下に出ると、ある少女が右の通路から歩いてくる。

 口元をスカーフで隠し、ボロボロなカーキ色の戦場服で身を包んでいる。

 長い髪を隠すために被っているベレー帽はいつ見ても似合っているようには見えない。


「よぉ、本土はどうだった?」

「それを今から報告しに行くんです。どいて下さい」

「あのな、上司にはもっと丁寧な言葉遣いをだな……」

「お話は報告した後でお願いします」

「はいはい、分かりましたよ」


 と、少女が入って一分ほどドアの前で待っていると、再びドアが開き少女が出てくる。


「で、何ですか?」

「上司に向かって睨みつけるんじゃねぇよ。俺の保護したチビが岸波斑鳩女子学園に行っているって聞いてな」

「そうですか。私にはもう関係ありませんから」

「関係無いとか言いながら、本土の、それも岸波斑鳩女子学園寄りの土地で偵察をしているじゃねぇか」

「単に慣れた土地だからです。未開の地よりも慣れた地の方が偵察がしやすいという理由ですよ」

「ここで出世したいのなら、未開の地にも踏み込まないとダメだぞ?」

「出世する気は、私にはありませんから」

「じゃ、何のために偵察部隊なんかに入ったんだよ? 危険な仕事を沢山やらされるくせに給料が低いことで有名なんだぞ。一応お前は研究員って事になっているよな?」

「仲間を見守る為です」

「……何度も聞くが、本当にそれで良いのかよ? 皆、心配しているだろうにさ」

「私にはもう、学園に戻る資格なんてありませんから。それでは」


 少女、大和晴々(はればれ)はそう言って離れて行く。

 ルネスと晴々の出会いは一年前の魔闘大会決勝後になる。

 大和晴々と若穂彩芽(あやめ)が敗北宣言をした数日後、一人で学園を出てきた晴々が魔法協会に現れた。

 偵察帰りにたまたま居合わせたルネスが対応し、事情を聞いたルネスは魔法協会No.1(ナンバーワン)、カグラに相談した。

 結果、事情も考慮し晴々が魔法協会にいるのは重要機密事項として研究員という立場で雇うことになった。

 そしてまた数日後、直ぐにルネスのコネを使って偵察部隊への異動を希望し、特例で研究員兼偵察部隊隊員になった。

 入隊理由はさっき晴々が言っていた通りで、仲間を見守る為に本土での偵察を希望している。

 元二重能力者(ダブルクロス)で岸波斑鳩女子学園のトップ3という実力もあるし、能力的にも問題ないと思って入隊を許可したが、隊長であるルネスの言う事をあまり聞いてくれず困っている。


「本当にお嬢様学園の出身なのかと疑ってしまうな」

「ぶっ殺しますよ?」

「そういう口調が疑いの元になるんだよ!」


 握った右拳に魔素(エナ)を溜め込む動きを見て、すぐに指をさして指摘する。


「ふんっ。隊長もさっさと偵察に行ってください」

「俺は命令あるまで待機なんだ」

「暇人ですか」

「だから、言い方を考えろってんだよ、お前は! まぁ、暇なのには間違いないがな……」

「なら、大和と一緒に本土に行ってくれねぇか?」

「「……?」」


 ドアを出て左側の通路から声がして振り返ると、そこには魔法協会No.3(ナンバースリー)破塵(はじん)のダットがいた。

 黒いもじゃもじゃ頭に、鍛えられた上半身の筋肉を見せびらかすように前面を開けた上下ジーンズ姿は魔法協会でも上位に行くくらい目立つ。

 ダットがルネスたちの前で歩みを止めたところで話を聞く。


「こいつと本土に行って何をするってんだ?」

「出来れば一緒に行きたくないのですが」

「本っ当に可愛げねぇな」

一点突破(ブレイクスルー)……」

「わかったわかった! まず、ダットの話を聞こうぜ」

「相変わらず仲が良いな、お前らは」

「「良くねぇよ・ありません!」」

「ピッタリじゃねぇか」


 再び右拳に魔素(エナ)を溜め込む動きを見て慌てながら落ち着かせ、ダットがルネスたちを煽ると頭を掻いてから言う。


「二人には(セント)ヴァルナ・ノワール学園に行ってもらいたい」

「何で(セント)ヴァルナ・ノワール学園なんかに? 何かあるにしても篠原さん率いるメイド部隊がいるじゃねぇか」

「ディヴィアント学園の(ねずみ)が、(セント)ヴァルナ・ノワール学園にいるという情報を得た」

「それは確証を得ているのか?」

「凛堂の情報、と言ったら?」

「……なるほど。凛堂が嘘をついているとは思えないし、部下を信じるのも上司の務めってか」

「あなたの部下が学園にいるのですか?」

「魔法協会偵察部隊潜入捜査班(セント)ヴァルナ・ノワール学園担当の凛堂蓮だ。あいつには(セント)ヴァルナ・ノワール学園に潜入し、学園の秩序を守ってもらっている」

「すみません。あまり聞いていませんでした」

「お前が聞いたんだろうが!」

「『凛堂は俺の仲間だ』で良かったんだよ。そこまで詳しく言う必要はないぜ」

「ダットまで!?」

「まぁ、バカ話はここまでだ」


 と、ダットが腕を組んで言うと、ルネスたちはリラックスモードから仕事モードに切り替わる。


「目標は神崎玲。学園寮の寮監だ」

「で、その寮監を捕らえろと?」

「捕らえるのは簡単だが、精神体が逃げられたら元も子もない」

「精神体とは何ですか?」

「神崎は監視(モニタリング)という能力で、自分の意識を体から離す事が出来る。簡単に言うと幽体離脱だな」

「だが、幽体になっても体が無いんじゃ話にならないだろ」

「それがそうでもなくてな。神崎を使っているのはディヴィアント学園らしい。あそこなら幽体の器くらい作れるんじゃないのか?」


 聞きなれた学園の名前に顔を歪めて、ルネスは苛立ちを露わにする。


「何で、こう、任務の度にその学園の名前が出てくるんだよ? もう黒、よりも真っ黒なんだから、学園長を捕らえて学園を解体させようぜ。ダットの力なら物理的に解体することも出来るだろ?」

「本音は俺も同意する。だが、ディヴィアント学園には能力検査用で採取された世界中の人間の血液データがある。過去、そのデータを盗もうとした奴は数えきれないほどいるが、持ち出せた数はゼロだ。血液データが流出すれば、会社の機密流出や銀行口座のハッキングが起きて世界の秩序が崩壊する」

「自分のDNAを使用する世界で最も安全なセキュリティーシステム『Gene(ジーン)』を推進したのはそういう理由か、クソったれが」

「でもそれは、ディヴィアント学園はそのGene(ジーン)のデータ全てを持っているという事になりますよね? 学園の関係者が悪用したらまずいのでは?」

「ディヴィアント学園には教皇(ザ・ハイエロファント)悪魔(ザ・デビル)の契約者がいる。生徒や職員は万が一にも学園に歯向かえないよう、そいつらに契約をさせられているんだ」

「いつ聞いてもおっかねぇよな、それ。大和も注意しろよ?」

「わかっています……」


 と、晴々は右の手のひらを見て握る。

 彼女はディヴィアント学園のゼーロに能力を消されたことを根に持っているのだろう。

 そう思ったルネスは頭を軽く掻いて言う。


「あー、なんだ。今年の魔闘大会にもゼーロは確実に出てくるだろう。気持ちは分かるがその時まで待っていろ」

「失われた能力は、もう戻ってこないんですよ。今更会ったって……」

「無敵の能力は存在しない、必ず弱点はある。俺は天羽にもそう言ってきたし、今もそう思っている。ゼーロの能力喪失(アムネシア)にもきっと弱点があるはずだ。それさえ分かれば能力を取り戻すことが出来るかもしれない」

「具体的にはどうするつもりなんだ?」

「まだ思いついていない。だが、大和がまた学園に戻れるようにしたいと俺は思っている」

「……」

「その気持ちがあるなら十分だな」


 ダットが少し微笑むと、すぐに顔つきを戻してルネスたちに命令する。


「作戦内容は(セント)ヴァルナ・ノワール学園にいる神崎玲の捕獲。現在、(セント)ヴァルナ・ノワール学園にはニモンがいる。合流し任務を遂行しろ。行け!」

「「了解!」」

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