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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第三章 『学園間交流戦』
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巨大迷路

 それから三日が経ち、対決の日となった。


 森の練習場に集められた天羽たちの他に、紅葉たちだけでなく岸波斑鳩女子学園の上級学年の生徒たちも観戦席に座っている。

 対戦相手は岸波斑鳩女子学園の一年生であり、お姉さまと呼ばれている紫苑と佳子。

 二人の能力について最後まで雄山は話さなかったが、代わりに得られた力がある。


 習得するまで時間がかかってしまったが……それでもやっつけの対抗札としては十分だ。


「それにしても……」


 いつにも増して、審判であるレイシスたちの雰囲気が重い。

 一年生代表同士の試合となっては、こうなるのも当然と言うべきか。


「大丈夫ですか、天羽さん?」

「……少し重い雰囲気に押されただけだ。問題ない」


 フェルンに心配されるほど顔に出ていたのか。

 能力者同士の対決はやはり慣れない。

 五年前のことをどうしても思い出してしまう。


「どうかしましたか? 体調が優れないようでしたら棄権して頂いても……」

「売られた喧嘩だ、俺たちはどこにも逃げねぇよ。たとえ負ける戦いであっても、あんたたちに俺たちの全力をぶつける。それだけだ」

「……そうですか」


 丁寧な言葉で煽ってくる紫苑を流して、さっきから視線を送っていたレイシスの方を見る。

 お互いに小さく頷くと、観客席に聞こえるくらいの大きな声で、


「これより、岸波斑鳩女子学園一年生、江倉紫苑、安前佳子対、(セント)ヴァルナ・ノワール学園一年生、麗城天羽、フェルン・ヴァリオスの練習試合を行う。主審はヴァルナ・レイシス、副審は岸波雄山、斑鳩ひつぎが務める。両者構え!」

『『『……!』』』


 両者睨み合い、そして!


「始め!」

巨大な壁(グレイトウォール)!」


 先手を打ったのは紫苑だった。

 地面に手を付けると巨大なオレンジ色の魔法陣が別々の場所に複数個出現し、その場所から地面が突然隆起しあっという間に縦にも横にも大きい壁が二人を隠した。


「壁に囲まれた?」

「レイシスたちも見えなくなりましたが、でも……」


 周りを壁に囲まれてしまい、観客席からも天羽たちのことは見えていないだろう。

 しかし、その壁にとても違和感があった。


「通れる隙間が三か所もあるぞ」


 視界を奪いたいのなら四方をちゃんと囲んでしまえばいいのに、何故か壁の間を通れるようになっているのだ。


「誘っているのでしょうか?」

「相手がいないとどうしようも出来ないからな。とりあえず行くしかない」

「壁の後ろにお二人がいるかもしれません。十分に警戒しましょう」

「そうだな。とりあえず、一番右の所から行くか」

「はい」


 お互いに困惑しながらも、右の隙間を目指して歩く。

 一応の試しで歩きながら壁に触れてみるが、天羽の能力は発動しない。


 壁の表面に壁を作っている見えない魔法陣があると思ったんだが、そういうわけじゃないのか。


「何かありましたか?」

「いや、なにも無い。ただの壁だ」


 そう答えると、フェルンも壁を触りあることに気が付く。


「材質はこの地面と同じようですね。色もそのままですし」

「簡単に壊せそうな気がするが、今は誘いに乗っておこう」


 壁に隠れるようにして、頭だけを前に出し通路の先を見る。


 見える範囲には誰もいない。

 数歩歩けば裏に行けるだろう。


「裏に行けそうだ。(スリー)カウントで行くぞ」

「わかりました」


 後ろのフェルンに見えるように右手を出して指で数える。


 3、2、1。


「ゴー」


 急ぎ足で壁の後ろに回り構えながら見渡すが誰もおらず、こっちも壁で囲まれておりわざとらしい通路が四つあった。


「どうなっているのでしょうか?」

「進むしかない」


 同じように右から二番目の通路に進むと、またしても壁で囲まれた空間に出た。


「また壁ですね」

「誰もいないし、また通路か」

「お二人はどこにいらっしゃるのでしょうか?」

「正解の道に進まないと会えないのだとすれば、結構厄介な相手だな」


 しかし、疑問に思う事が一つある。


 二人は本当にお姉さまと呼ばれるくらい強いのか?


 雄山も遠回しに天羽たちは二人に勝てないと言っていたが、逃げているだけの能力なら天羽の力を使うまでもフェルンだけで勝てるだろう。

 そう思い、壁を破壊するためにフェルンに指示しようとしたその時だった。


「フェルン、竜装で……」

「天羽さんっ!」

「……っ!?」

『ズゴンッ!』


 フェルンに声をかけてもらわなければ気が付かなかった。

 目の前の地面が突然、天羽をめがけて隆起したのだ。

 当たる直前で横にかわした地面はそのまま壁に思いっきり突き刺さった。


「正確に俺を狙ってきた?」

「次、来ます!」


 地面を見ると、オレンジ色の魔法陣が四方八方に出現していた。

 ゴゴゴゴッ! としゃがんだ天羽たちの頭上でぶつかり合い、土ぼこりが宙を舞う。


「今度は私たちを狙ってきましたね」

「見えていないのはお互い様じゃないのか? 何でこんなに正確な攻撃が……」

「崩れる前に……」

『ズズズズズ……』


 早く出ましょうとフェルンが言いかけたが、隙間から出るまでもなく隆起した地面がもとに戻って行った。


「戻った?」

「天羽さん、また!」

「逃げるぞ!」


 魔法陣を避けながら一番左の通路へ走る。

 その間も地面は逃げる二人を追ってズゴン、ズゴンと壁に当たりながら攻撃をし続けている。

 通路を出ると、またも壁に囲まれた空間。

 その先も、そのまた先も、そのまた先の先も壁に囲まれた空間が延々と繋がっていた。

 無我夢中になって逃げる二人だが、攻撃が途切れたところで立ち止まり、


「行っても行っても壁と通路なんて、(らち)が明かないぞ」

「やりますか、天羽さん?」

「そうだな、俺の能力は最終手段だ。攻撃が止んでいる今のうちに早く竜装を使おう」

「わかりました。アルクク!」

『……!』


 そう呼びかけてフェルンの体が炎に包まれ柱となると、後ろには黒い溶岩の体を露出したアルククが現れた。

 火力は抑えているようだが、それでもサウナの中にいるような熱さが天羽を襲う。


「竜装をやる、力を貸して」

「いいだろう。我の力、使いこなせ」


 ニッとアルククが笑うと、フェルンは両腕を横に開いて、


「特訓の成果、見せます」


 フェルンの目は赤く光り、腕の紋章からは赤い光が漏れ出ていた。

 同時にアルククの青い目も赤く光り出し、溶岩の隙間からオレンジ色の光がまるで火山が噴火するようにボフンッ、ボフンッと溢れ出す。

 息を大きく吸って、


火炎拳(かえんけん)赤乃岩戸(あかのいわと)!」


 そう言うとアルククの体が腕の紋章に赤い光となって吸収されていき、触れば燃えてしまうと思うほどに赤い本体に白のラインが入ったガントレットがフェルンの両腕に出現した。

 フェルンは壁に近づいて左手を前に構えると赤く燃える竜の紋章が目の前に出現し、踏み込むと同時に引いた右手を紋章ごと思いっきり壁にぶち当てる。


焔王咆紅(えんおうほうこう)!」

『ズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴォォォォォォン!!』


 とても太い白い光が正面の壁を貫き、勢いは止まらずにその先の、そのまた先の、そのまた先の先の壁まで一瞬で貫いた。

 貫かれた壁の先には森の練習場の木々が見え、虹色に輝く魔法陣が観客席を守っていた。

 そして、


「な、何なんですかこれは!?」

「竜、装……?」


 左右に分かれた紫苑と佳子がついに視界に入った。

 よし、このまま! と思いフェルンと二人のところまで掛けるが、


「全解除、巨大な壁(グレイトウォール)!」

「なっ!?」


 天羽たちを囲んでいた壁が全部地面に戻っていくと、すかさず魔法陣が現れ地面が隆起する。

 しかし、


『パリィン……!』

「うっ……!」


 足元に偶然現れた魔法陣を踏んでしまい、魔法陣はガラスのように割れて光となって消えた。

 同時に、紫苑の記憶が天羽の中に入ってくる。


 とても暗い空間だ。

 周りは何も見えず、しかし数センチほどの隙間から光が差し込んでいる。


『見ーつけた』

『どうして、わかったの……?』

『そんなのいいから、一緒にお昼寝しよ……?』


 隙間の外から少女の声が聞こえる。

 周りを囲んでいた何かはどんどん下に下がっていき、こちらに手を差し伸べる少女は……


「……そうか」


 踏んだところ以外の壁がどんどん形成されていき、再び二人は見えなくなった。

 

「天羽さん! 大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ」

「そうですか。良かったです」


 心配そうに駆け寄るフェルンに笑顔で返す。

 実際のところ、審判(ジャッジメント)を使うまでもなく能力が安定していることに自分でも驚いているのだ。


 これが成長というものなのだろうか?


 特別演習で行っていた授業も模擬戦も筋トレも役に立っているようだ。

 ほっとしたフェルンはもう一度構え直して壁を破壊しようとしたが、右手を視界の前に出して止めさせる。


「やる必要はない」

「でも、破壊しないと二人が……」

「大丈夫だ。俺が奪った能力は、安前さんの能力だ」

「安前さんの?」

「こんな能力を使われていたんだ、そりゃいつまで経っても追いつけるはずがない」

「どんな能力なのですか?」

「それは、だな……」


 そして、二人の迷路攻略が始まった。

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