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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第三章 『学園間交流戦』
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富岳流対臣流

氷結魔法(アイスマジック)(ソード)氷結魔法(アイスマジック)(ランス)!」

「へへっ、当たらないぜっと!」

「く……!」


 氷の剣や槍を敏文に射出しては避けられるの繰り返し、冷気を纏ったその残骸が試合場の端に積み重なっている。

 灯の苛立ちはナンシーが一番わかっているのではないのだろうか?

 証拠にナンシーはいつもの笑顔ではなくとても辛そうな顔をしている。

 やはり、まだあの件を気にしているようだ。

 試合は敏文が避けては殴る蹴るの小さな攻撃を灯に蓄積していく。


「そんなに連発して辛くないの? 俺はまだまだ動けるぜ?」

「うっさいんですよ!」


 叫び、息を切らしながら、


「私は、まだ、やれるんですよ!」

「諦めの悪い子、俺は嫌いじゃないぜ」

氷結魔法(アイスマジック)(チェーン)!」


 氷が擦れる音と共に魔法陣から無数の鎖が飛び出すが、当然敏文には避けられてしまう。


「数撃ちゃ当たるって……」

「遊びはここまでですよ」

「は?」


 と、全体が見れる観戦席からでないと見れない事実に天羽は驚いた。

 がしっと鎖の根っこを掴んで力いっぱい引くと、試合場の端に重なっていた剣や槍が四方八方から敏文に向かって集まってくる。

 鎖を発射した真の目的は敏文に当てる事ではなく、試合場の端にあった氷と結合しモーニングスターのようにすることだったのだ。


「うえっ、そういうこと!?」

「そういうこと、ですよっ!」


 敏文は慌てたように首を忙しく動かしているが、そうしている今も氷はガラガラと音を立てながら急接近してきている。

 跳ね返そうにも力が、上に逃げようにも跳躍力(ちょうやくりょく)が足りない。


「これって、もしかして、積み?」

「おらああああ!」


 最後の力で思いっきり引くと、敏文を中央にして氷同士が激しくぶつかり合う。

 ……はずだった。

 なんと、氷の一部が力を失ったようにズサァと少し引きずられながら止まったのだ。


「やはり、二人で戦った方が良さそうだな」


 見ると、優斗の手には切られた氷の鎖が三本握られていた。

 助けもあって、敏文は空いた隙間から普通に脱出に成功した。

 灯は観戦席にいる天羽たちにわかるくらいの舌打ちをしながら、


「……ですが、一本でもあれば武器になるんですよ!」


 と、そのまま一本の鎖を引ききって氷の剣を握り切りかかるが、優斗に防がれて鍔迫り合いの形になった。


「今度はあなたが相手ですよ」

「……」


 二人は睨み合ったまま動かない。

 しかし、氷にはピキピキとヒビが入り始めている。


「灯、引いて……」

「無理ですよ!」

「じゃないと……」

「っ!」

『パリーンッ!』


 三葉の忠告を聞かなかったためか、ついに氷の剣は砕かれ優斗の刀が灯の体に当たろうとする。

 が、


『キィーン』

「剣が割れる……」


 三葉が灯をかばう形で優斗の刀を受け止めた。


「灯、もう駄目……」

「ですが三葉一人では……!」

「大丈夫……」

「っ……!?」


 と、片手で優斗の刀を弾くと黄の刀を収めて緑の刀と青の刀を握る。


「本気、出すから……」

「……なるほど」


 優斗が距離をとり敏文と並ぶと相談が始まった。


「どうするよ?」

「氷女の方はもう魔素(エナ)が少ないはずだ。戦闘には参加出来ないと考えて、問題は……」

「あの物騒な子ね」

「……」


 物騒な子と呼ばれている三葉は緑と青の刀を握って直立している。

 あの緑の刀を握っている以上間合いは関係ない。

 さらに、青の刀は刀を切ってしまうほどの切れ味を持っている。

 緑の刀と青の刀を持った三葉は、こちらから見ても強さは桁違い。


 化け物だと思って殺すつもりでやらないと、あの二人本当に死ぬぞ……!


 二人は三葉を見ながら再び小声で、


「あの子すごい耳が良いみたいだからな、この話だって聞こえているんじゃないのか?」

「おそらく臣は耳しか(・・・)良くない」

「それどういう意味だよ?」

「投げたら、耳を塞げっ!」

「え?」


 と、優斗は魔法陣の中から小さな筒を取り出し臣さんに向かって投げると、刀を落としてすぐに両手で耳を塞いだ。


「我、ヴァルナ・レイシスの名の下に命ずる。観戦席の皆を守れっ!」


 そう叫んだのは学園長だったが、時すでに遅かった。


『――――――!!!』


 一瞬にして森全体にキィーンという高い音が鳴り響く。

 皆の事は見えるが声や音が一切聞こえない。

 フェルンが口をパクパクさせて天羽に何かを言っているが、高い音が耳鳴りのように残り続ける。

 ……そして、突然周りの音が聞こえるようになった。

 周りを見るとやはり皆も少しパニックになっているようだ。

 優斗が投げた物は見た瞬間に分かっていた。


「皆、スタングレネードにやられているな……」


 スタングレネード、それも光を使って失明させるものではなくあくまで音のみの物。

 どこからそんなものを入手したのかは知らないが、軍事目的で使用されるほど危険なものを使ってまで何をしたかったのか?

 と、考えていたが試合場を見て一瞬で理解した。


「くっ……音が……灯……!」


 今まで瞑っていた赤い瞳を露わにして三葉が周りをきょろきょろと見ている。

 ゆっくりと刀を拾った優斗が近づくが気付いていない。

 灯は三葉を守ろうと魔法陣を出すが、魔法陣の色がどんどん薄くなって消えてしまう。


魔素(エナ)の使い過ぎは身を壊す。もう、やめておけ……と言っても聞こえていないか」


 自分の手と優斗を交互に見ている灯の目には優斗の口の動きしか伝わっていないだろう。

 一歩、一歩三葉に近づき、首に切先(きっさき)を当て三葉はようやく現状を理解した。

 ゆっくりと息を吐いて震えた口を戻し、


「私たちの……負けでいい……」

「そこまでっ!」


 三葉はぶらりと腕を下げ刀を落として降参し、レイシスの合図で試合が終了した。

 ひつぎが緑色の魔法陣を出し四人の体が光に包まれると、三葉の揺れた瞳が真っすぐと優斗を向く。


「やはりか……」

「……」


 優斗は刀を魔法陣の中にしまって優しく三葉の顔に手を触れる。


「お前、失明しているな」

「生まれたときから……」

「そうか……」

「ん……」


 二人は二人にしかわからない世界に入り、それからしばらく優斗はずっと三葉の瞳を見ていた。


「……おい、綾波。二人でイチャイチャしてないで、そろそろ学園長の所に行こうぜ?」


 と、痺れを切らした敏文が割り込むと優斗はふとした表情で、


「ああ」

「……」


 三葉は離れていく優斗を見えない目でじっと見つめていた。


「三葉……」


 泣きそうな顔で声をかける灯を、三葉は優斗がやったのと同じように優しく顔に手を触れる。


「仕方ない……灯はよくやった……えらい、えらい……」

「うっ……うう……」


 泣き崩れる灯を見て紅葉たちも試合場に降りてくると、頭を優しく撫でたり励ましていた。

 天羽たちも試合場に降りて集まると、雄山が腕を組みながら頷く。


「ヴァルナ君が二勝、僕たちは二敗……悔しいけれど、いい経験をさせてもらったよ。ありがとう」

「こちらこそ、生徒にとって貴重な経験となりました。重ねて、感謝申し上げます」


 お互いに握手をしようとしたその時、カツン、カツンと誰かの固い靴の音が響き渡った。


「……私抜きで楽しそうなことをしていますね」

江倉(かわくら)お姉さま!?」

「……お姉さま?」


 黒いストレートに赤い花が描かれた黒の着物姿の女性。


 確か、学園の紹介で学園長も各学年に『お姉さま』と呼ばれる人がいるって言っていたが……まさかこの人が?


「おやおや、江倉君が最後に来るか……」

「初めまして(セント)ヴァルナ・ノワール学園の皆様。私は江倉紫苑です」


 紫苑は礼儀正しく天羽たちに頭を下げ、姿勢を正すと紅葉たちに近づいて笑顔で聞く。


「変な音が聞こえましたので。皆さん大騒ぎでしたよ、佳子(かこ)はそれでも起きませんでしたが。それより……あなたたちは、負けたのですか?」


 ぶわっと冷や汗が出た。

 紅葉たちも表情を硬くしているところを見ると、彼女たちも同様のあり様になっていることがわかる。


「江倉お姉さま、私たちは全力で……」

「言い訳は聞いていません」

「ひっ……」

「もう一度聞きます。あなたたちは、負けた(・・・)のですか?」

「負けたよ」


 と、助け船を出すように雄山が割って入った。

 紫苑は笑顔を壊さないまま薄目で雄山を見る。


「ヴァルナ君の子たちは強かった。僕たちもまだまだだという事を理解したよ。皆で一緒に魔闘大会まで頑張らないとね」

「そうですか……でも、負けたまま終わる気はもちろん無いですよね?」

「……」

「そうですよね。でしたら……」


 無言を回答として受け取り、目を開いてレイシスに言った。


「三日後に、私たちと最後の試合をしましょう」


 こうして、(セント)ヴァルナ・ノワール学園対岸波斑鳩女子学園の練習試合は(セント)ヴァルナ・ノワール学園の二勝で幕を閉じるはずが、紫苑の登場で先行きがわからなくなってしまった。

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