謎の島
『『『おお!』』』
ドアが開いた瞬間、各部屋からの声が二階に響く。
他の部屋がどうかは知らないが、天羽たちの部屋は豪華温泉旅館の客室の様だった。
玄関から先に丸い窓があり、そこからは綺麗な紅葉と海が一面に見え、部屋の中には蛇の掛け軸が掛けてある。
「天羽さん、天羽さん! 見てください!」
「あぁ、わかったから見るのは後でな」
スーツケースを部屋中央のテーブル付近に置いて中で走り回ろうとするフェルンを外へ連れ出すと、瑠璃子はナンシーを、優斗は敏文を同じように連れ出していた。
「……揃いましたか? それでは行きましょう」
少しして全員がエレベーター前に揃い、天羽たちは紅葉と共に再びエレベーターに乗る。
一階へ降りると出迎えてくれた女性がいて、玄関には天羽たちの靴がきれいに揃えられていた。
ついさっきまで下駄箱に入れてあったはずだがいつの間に出したのだろうか? 気のせいか汚れ等も無くなっている気がした。
「「「行ってらっしゃいませ」」」
女性の声と共に外へ出ると、紅葉の案内で『伏見・稲荷』と『八坂』に分かれるT字路まで来た。
天羽たちはそのまままっすぐ進み『八坂』へ向かう。
途中で『伏見・稲荷』までの通路と同じく庭園が見える丸い窓があった。
「こちらが私たちの学舎『八坂』です」
曲がり角を左に曲がると教室が並んでいた。
教室を見ると生徒は普通に授業をしている。
「ここはあまり変わらないな……」
「教室はどこも同じかと思いますよ?」
無意識に出た天羽の言葉に紅葉は笑いながら答える。
教室のドアには『壱』、『弐』、『参』と漢数字が各教室に書かれていて、おそらく学年かクラスの事だろう。
「こちらが私の教室です」
そう案内されたのは手前からニ番目の教室で『弐』とドアに書かれていた。
中を見るとやはり全員女子学生、真面目に授業に取り組んでいるのがわかる。
「一般の授業はこのように教室で行いますが、この学園の特徴として特別演習は浜辺と森の中で行います。皆さまには明日その様子を見学をしていただく予定です」
「へぇ、自然豊かだから気持ちよさそうだなー」
「えーと、それは人によるかと思いますよ……」
敏文の言葉に貝塚さんは戸惑いながらも答えると、すかさず隣にいる優斗が黙れと言わんばかりに敏文の腹に肘打ちをする。
うぐっという喉に詰まる声を出した敏文を見て紅葉は困惑しているが、天羽たちは見慣れているので何とも思わなかった。
「二階から先は4年生以上の方の教室と学園長がいらっしゃる部屋がございます。案内を……と思いましたが、今日はここまでとします。お疲れでしょうから、皆様は狐の宿でごゆっくりお休みになさってください。私はここで失礼致します」
そう言うと紅葉は一礼をして、廊下奥の階段を上って行く。
天羽たちはお互いの顔を見ながらとりあえず狐の宿へ戻ることにした。
「しっかし、なんで『狐の宿』っていう名前なんだろうね?」
「一度本で見たことがありますが、『京の都市』という場所をイメージしているからでしょうか? そこでは狐が有名みたいですよ」
「へぇー、そういう本見るんだ。意外だね」
鳴子とエレーナという珍しいペアが話していると、天羽もこの学園を少し不思議に思ってきた。
しかし、今は体の疲れを癒したい。考えることはやめておこう。
そんなことをしていると、いつの間にか狐の宿の前まで来ていた。
「「「おかえりなさいませ」」」
ご主人様と最後に付けたら面白いのになと思いながら皆と一緒に部屋に向かう。
「天羽さん、天羽さん!」
「あ、忘れてた……」
フェルンのはしゃぎにこの状態で付き合うのは勘弁だが、気が落ち着くころには疲れて寝ているだろう、丁度部屋には布団が二つ敷かれている。
「これもあれも、見てください天羽さん!」
「これは長引きそうだな……」
部屋を動き回るフェルンに付き合い、フェルンが疲れて眠るまでは1時間以上経ったと思う。
天羽も疲れたので一緒に寝ようと布団に入ると、何か焼けるような臭いが窓の外からした。
重い体を無理矢理動かしながら窓の外を見ると森から灰色の煙が上がっている。
「……すぐに知らせないと!」
「その必要はございません」
危険を感じたせいか疲れが全て吹っ飛び部屋を飛び出ようとすると、窓の外から天羽に話しかける声がした。
見るとそこには紫色の着物を着た誾が木のてっぺんに立っていた。
着物の後ろにはモフモフした白い尾が九本伸びており、本当に誾なのかと疑った天羽は質問をする。
「あんたは、誾さん……なのか?」
「驚かせてしまい申し訳ございません。私は誾改め、九尾の妖狐・誾でございます」
誾はそう言うと体をふわりと浮かせながら部屋の中に入ってきて、気持ちよさそうに寝ているフェルンの頬をそっと撫でる。
天羽は襲われるのではないかと思い身構えたが、特にそういった行動をすることは無かった。
「部外者に正体を明かしていいのかよ?」
「既に魔法協会には知られています。私は人間でもなければ妖怪でもない、曖昧な存在ですから」
「曖昧……なんだその足?」
体をよく見ると、足元がほんの少しだが透けて見える。
誾も無言で頷いてそれを肯定した。
「私は本来であればこの世におりません。ですが、この島がある限り私が消えることはございません。それが契約……いえ、呪縛なのです」
「ここは島なのか……いや、それよりも消えることは無いってどういう事だ?」
誾の言葉に天羽は耳を疑い聞くと、誾は特に隠すことなく全てを説明してくれた。
「私は元々この地に住んでおりました。長いこと言葉を交わす者はおりませんでしたが、いつしか人間が住むようになり生徒たちの笑顔を狐の宿の女将に化けてずっと見てきました。しかし、ある日状況が一気に変わる出来事がございました……」
天羽に後姿を見せながら悲しそうに誾は続きを話す。
「この学園に、能力者が生徒を奪いに来たのです」
「……!」
天羽は予想もしなかった言葉に絶句した。
「その能力者の見た目は小柄な女性でした。所詮人間と思い戦いましたが、私の妖術でも対抗することは難しかったのです。妖術の使用と体の維持に必要な『妖力』が底をつき死ぬはずだった私は、ここで暮らしているうちに生徒を……人間を好きになっていました」
誾は手を窓の外に出し何かを唱え始めると紫色の魔法陣が出現し、上がっていた煙がこちらに近づき全て誾の魔法陣に吸収されていった。
「私が使う妖力とは自然から得る力、対してあなた方が使う魔素とは生物から得る力。今吸収した落ち葉の煙も微少ながら妖力となります。私はこの島と一体となり、島に存在する自然の妖力を借りて彼女に対抗しました。結果、岸波雄山様のお力もあり追い返すことは出来ましたが、代償として私はこの島から離れられなくなりました」
「ちょっとまて。妖力についても聞きたいが、魔素が生物から得る力ってどういう事だ?」
「ご存知ありませんでしたか。知らない方が良かったかもしれませんね……」
誾は窓の外へ連れていかれるように部屋を出ると、無言のまま天羽に一礼をして森へ消えて行った。
「おい、待てって……くそっ、何なんだよ! それに、何で俺なんかに?」
天羽は自分の手を見て魔素の事について考える。
もし、誾さんが言うように生物から力を得ているとすれば、それは力を使うたびに生物の命を奪っているという事だ。
使い続ければ、いずれは俺たちも誾さんのように死ぬという事か?
それに、生徒を奪いに来る小柄な女性って、まさか……
『コン、コン』
そんなことを考えていると、ドアからノックの音が聞こえた。
小走りでドアに向かい開けると、目の前には紅葉とピンクの和服を来た女性がいた。
「あ、貝塚さん。どうしましたか?」
「はい、お昼の用意が出来ましたので先ほど呼びに来たのですが、何かお取込み中のようでしたので改めて来ました」
紅葉は少し困った顔で天羽を見ている。
確かに思えば昼くらいに着いてそこから何も飲み食いしていない。
意識していなかったからだろうか、一気に空腹感と口渇感が襲ってきた。
「すいません、ちょっと同室の者がはしゃいでいまして……」
「こちらのお部屋は景色も良いですから、喜んでいただけたようで私たちもうれしいです」
紅葉は笑い、後ろにいる女性に合図を送ると、女性は天羽に緑色の紙袋を渡した。
受け取り中を見ると弁当が二つ入っていてとても良い匂いがする。
「お作りしましたお昼ご飯は冷めてしまいましたので、代わりのお弁当でございます。この学園一番人気の鯖の味噌煮弁当です。お口に合うとよろしいのですが……」
「こちらが悪いのにわざわざすみません。ありがたく頂きます」
お礼を言うと、紅葉たちは一礼をしてエレベーターに乗って下に降りて行った。
フェルンを起こし昼飯を一緒に食べようと肩を揺らすが、全く起きる気がしない。
「……先食うか」
天羽は紙袋から弁当を一つ取り出し、テーブルの上にあるポットでコップにお湯を入れ、お茶のパックを浸し飲み物を作る。
「いただきます」
弁当を開けると、大きな鯖の味噌煮とたっぷり入ったご飯に漬物が三種類ほどそれぞれ区切られて入っていた。
天羽が弁当を完食する時にはフェルンも起きて、終始美味しいですと言いながら弁当を食べていた。
それからというもの、夕飯の時は先ほどの女性が部屋に来て皆を宴会場に案内してくれた。
中に入ると鍋に入った肉料理や刺身等が各人に沢山用意されており、皆も美味しそうに食べていた。
夕飯を食べ終わり部屋に戻ると天羽たちは部屋に付いているシャワーを浴びて寝ることにした。
明日は能力訓練の授業があるらしく、運が良いのか悪いのかそれを見学することになっている。
何があるかわからないし、早く寝た方が吉だろう。
「生命を奪う、か……」
天羽は誾の話を思い出し、魔素とは何かを考えながら寝落ちしてしまった。




