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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第三章 『学園間交流戦』
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出発進行

『ピンポンパンポーン』

「……ん?」


 列車のベッドで寝ていると、結構大きめなアナウンス音で起こされた。

 重い体を起こしながら隣を見ると、フェルンも気持ちよさそうな顔で寝ている。


 まぁ、こんなフカフカなベッドに体を預けてしまったらそうなるよな。


 そう思いながら天羽は車内アナウンスに耳を傾ける。


『学園長がお見えになりました。皆様、一度車両外へお出になってください』

「フェルン、起きろ」


 フェルンの肩を優しく揺らすと、吐息を漏らしながら体をゆっくりと起こした。


「ふぇ……あ、おはようございます」

「二度目のおはようだな」


 二人とも寝起きだが、とりあえずフェルンの手を引っ張りながら車外へ出る。

 すると、他の車両からも皆がぞろぞろと出てきて先頭車両付近に集まってきた。


「……皆、おはよう」


 擦れた声と共に先頭車両から出てきたのは、いつも通りのスーツ姿のレイシスと咲だった。

 メイクで隠しているつもりだろうが目の下には濃い(くま)ができており、疲労と寝不足なのが見てわかる。


「私のせいで遅れて申し訳ない。これから再度発車準備を行う、あと10分後くらいに発車予定だ。皆、客車に乗り出発に備えてくれ、以上だ……」

『パンッ!』

「いった!」


 レイシスは猫背になりながら先頭車両へ戻ると、咲はレイシスの腰を思いっきり叩いて無理やりにピンとさせる。

 天羽たちも各客車に戻ると数分後に車両がゴウンと揺れ、重い汽笛の音がホームに鳴り響く。


『お待たせ致しました、これより学園間移動用地下鉄道コム・シュネル号が発車いたします。横揺れにご注意ください』

「うおっ!」

「わあっ!」


 放送と同時に車両が横に移動し、しばらくすると鈍い衝撃と共に止まった。

 天羽とフェルンはお茶を入れようと立っていたので、フェルンが上になる形でおもいっきり転んでしまった。


「だ、大丈夫かフェルン?」

「大丈夫です」


 天羽は上に乗っているフェルンの肩を掴んで足を抜くと同時に体を起こし、今度はちゃんと椅子に座って発車の衝撃に備えた。


『コム・シュネル号、発車致します』


 汽笛と共に車両が動き出し、さっきまで見えていた駅があっという間に見えなくなった。

 地下鉄だから景色はほとんど変わらないが、トンネル内を過ぎていく電球を見ると速度は相当なものだと思う。

 お茶を飲みながらしばらく座っていると、フェルンが天羽の腕を引いてきた。


「あ、天羽さん……」

「ん?」


 見るとフェルンが口を押えて俺の腕をつかんでいた。

 顔色がとても悪く今にもというような状況にも見えた。


「乗り物酔いか?」

『コクリ』

「なら、とりあえずベッドで寝ていよう。ゴミ箱はここに置いておくからな」

「……」


 フェルンは無言のままふらふらになりながらもベッドに横たわり、すごく辛そうにしている。


「こういう時どうすれば……」


 そう思って車内を見渡しているといると、ドア横に受話器がある事に気が付いた。

 そこには『内線・ご用がある方は受話器をお取りください』と書いてあり、受話器を取るとすぐに咲の声が聞こえた。


『いかが致しましたか?』

「実はフェルン……同室の人が乗り物酔いを起こしてしまいまして、どうすれば良いのかを聞きたくて」

『承知致しました。ただ今そちらにフェティーが向かいますので、少々お待ちください』


 電話が切れると、すぐにドアからノックの音がして開けると医療箱を持ったフェティーが立っていた。

 車両間にドアは無いのでフェティーはおそらく転移系の能力者であり、高速で動く車両間を移動できるほどの能力者という事に驚きを隠せなかった。

 驚きで固まっている天羽を置いてフェティーは失礼致しますと言ってフェルンがいるベッドに向かうと、医療箱から薬を取り出しキッチンから水を紙コップに入れフェルンに飲ませた。


「体調はいかがですか?」

「……はい。少し楽になりました、ありがとうございます」


 フェティーはフェルンに一礼をすると医療箱を持って、帰り際に天羽に小声で言った。


「先ほどフェルン様に飲ませましたお薬は即効性で効き目が強い代わりに副作用も強いので、また苦しそうにしている時は我慢をさせないでください」

「わかりました、ありがとうございます」


 フェティーは一礼をしてドアを閉め戻ると、天羽はベッドで横になっているフェルンの傍に行く。


「無理やりにでも寝かせてあげていた方が良いだろうな」


 そう思っていると、フェルンは目を開けてゆっくりと起き上がる。

 顔色も良くなっているし確かに薬は効いているみたいだ。


「……迷惑をかけて申し訳ありません」

「いいから寝ていろ、その方が楽だろう?」

「……はい」


 フェルンを再びベッドに寝かせると、天羽は横で手を握ってあげた。

 なるべく安心させるような雰囲気にしないと寝てくれないだろう。


「天羽、さん……」


 10分くらい経ったところでフェルンが寝てくれたが、困った事に握った手を放してくれず天羽は少し後悔している。


『あまは、たいへん……しんぱん、つかう……?』

「その手があったか……」


 不意に聞こえてきたロイゼの言葉通り、審判(ジャッジメント)の力を使えば酔いを治せるかもしれない。

 しかし、審判(ジャッジメント)が楽にするための選択をしてしまったら?

 うん、想像もしたくないな。


「今はこのまま寝かせておこう。その方がお互いに安心だろう」

『わかった……おやすみ、あまは……』

「おやすみ、ロイゼ」


 天羽もフェルンと一緒にひと眠りしようとした時、フェルンの腕にある赤い紋章が光り出すとアルククの声が聞こえた。


『ニヴィン……そうか、ならば面白い』


 言い終わると、赤く光っていた紋章は光を失っていった。


「……ニヴィンって、岸波学園長の契約している七竜王(セブンスドラゴン)だったっけ?」


 天羽は少しの疑問を残しながら列車に揺られ岸波斑鳩女子学園へ向かうのであった。

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