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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第一章 『揺らぐ気持ち』
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甘えたいお年頃?

「……ここは?」


 目を覚ますと、天羽はフカフカのベッドで寝かされていた。

 見慣れない白い天井、周りは黄色いカーテン一色。

 ここは病室だろうか?


 ……いいにおいがする。疲れているし、どうせならもう少し寝ておこう。


 二度寝のために目を閉じた瞬間、小さな足音と共にカーテンが開き、子供のような高い声で誰かが天羽に話しかけてきた。


「起きたようだねぇ、いい夢見れた?」

「夢は見れなかったけど、ぐっすり眠れたよ」


 天羽に話しかけてきたのは赤髪のショートヘアー、声どおり小学校低学年のような見た目でサイズが合っていない大きな白衣を着る少女? リリエル・メアだった。


 この学校には小学校もあるのか、もしかして幼稚園生とか……さすがにないか。


 そんなことを考えていると、リリエルは少し怒った表情で衝撃の事実を言う。


「ねー君、今すごーくあたしに失礼なこと考えてない? 考えてるよね! こう見えてあたしはもうお酒飲める年なんだぞ! まったく……」


 リリエルはフグのようにぷくぅーと頬を膨らませながらそう言った。


 マジか……この見た目で酒が飲める年だと?


 リリエルは頬に溜めていた息をゆっくり口から吐いて続ける。


「まあいいや、もう慣れてるし。あたしはリリエル・メアっていうの。主にケガをした生徒たちの治療をしているの。これからよろしくね、麗城君」

「よ、よろしくお願いします」


 見た目とのギャップで敬語を使うべきか否かを迷ってしまった天羽は少しぎこちなくなる。

 リリエルは溜息をつきながら、腰に手を当てる。


「はぁ。しっかし、なんでこんなに体ボロボロなのさ? レイちゃんと凛ちゃんが君をここまで運んできてくれたんだよ、感謝しなね?」

「レイちゃんと凛ちゃん? あぁ、学園長と凛堂のことか。今二人はどこにいる、んですか?」


 ムッとリリエルがこちらを睨む。


 こういう扱いはもう慣れたんじゃなかったのかよ。


 天羽はあははと苦笑いをするとリリエルは再び溜息をついた。


「堅苦しいから無理して敬語使わなくて良いよ」

「じゃあ、メアは……」

「……っ!」

「え?」


 天羽がそう呼ぶと、リリエルは自分の髪の毛と同じくらい顔を真っ赤にしてパクパクと口を動かしながら固まる。


 もしかして、呼び捨てで名前を呼ばれるのは初めてなのか? メアちゃんって言った方が良かったかな。

 泣きそうな顔をするリリエル先生、これはこれで可愛いかもしれない。


 そんなことをやっているとガラッと病室のドアが開き、天羽たちがいるカーテンの中に聞きなれた声の女性が入ってくる。


「やっと目を覚ましたか、もう半日は経っているぞ」

「あ、学園長……半日って、そんなに寝ていたのか」


 レイシスが笑顔で入ってくると、後ろに隠れてこちらの様子を(うかが)っていた凛堂も続けて入ってくる。

 するとリリエルは突然、レイシスに向かって飛びつき大泣きした。


「レイぢゃぁぁん、あだしのごと、ごのごがメアっで呼び捨てで呼ぶのぉぉ!」

「おーおー、よしよし」


 何だ、この状況は?


 よしよしとリリエルの頭を優しく撫でるレイシスが、天羽には子供をあやすお母さんにしか見えなかった。

 レイシスは少し困った顔を俺に見せながらも笑顔で話す。


「リリはな、『あたしのことをメアと呼んでいいのは未来の旦那様だけなの』って決めているみたいなんだ。だから、この子のことはリリって呼んでほしい」

「そうなんですか……わかりました」


 どんなプライドだよ。あと、先生ってつけなくて良いのかよ。

 うわぁぁんと泣くお酒が飲める年の幼女……よくある、やけ酒の後みたいな光景だな。


 リリエルは落ち着いたのか、レイシスから離れて涙をふき口を開いた。


「ひっぐ……それで、なんで麗城君はこんなことになったの?」

「それは、私が説明しよう」


 先ほどまでのレイシスの笑みが一瞬で消え、リリエルの質問に答える。


「リリ、ジーク・メイガスのことを覚えているか?」

「え? そりゃ覚えてるけど……なんで急に彼の名前が出てくるの?」

「今そこに寝ている彼……麗城天羽君が、ジークと同じ神器召喚(ゴッドブリンガー)を使ったんだよ」

「……え?」


 リリエルはショックを受けてか目を丸くして座り込む。

 天羽にはこの状況が呑み込めないが、そこまでリリエルと関わりのある能力なのか?

 今にも壊れてしまいそうな顔で俯くリリエルを、レイシスは優しく抱きしめた。


「リリにとっては辛い話だったな……すまない」

「それは、本当なの?」

「ああ、実はな……」


 リリエルとレイシスは、聞こえないくらい小さな声で会話をする。

 しばらくすると、リリエルは立ち上がり天羽の横に来た。


「君が彼の能力を使えるなんて信じられないけど、レイちゃんが言うなら本当なんだろうね。能力を使ったときに何か変わったことはなかった?」

「ああ、実は記憶が……」


 リリエルは真剣な目で天羽を見つめてくる。

 天羽も学園長に言えなかったあの時起こった事を話そうとした時、再びガラッと病室のドアが開きカーテンの中に1人の男性が入ってきた。


「ジークの記憶が見えたんだろう?」

「……っ!」


 黒の長髪メガネの男性に一番驚いていたのは麻耶だった。

 男性は麻耶に対して、やけに馴れ馴れしく話しかける。


「やぁ、久しぶり麻耶。元気にしていたかい?」

「兄、さん……どうして……じゃなくて、なんで黙って家を出たの!」

「おや、歓迎されてないようだね。残念だ」

「え、兄さん?」


 そう、この男性は麻耶の実の兄、凛堂蓮だ。

 天羽は首を動かしながら二人を見る。


 髪質、顔つき……男女とはいえ確かに二人は似ているかもしれない。

 それに、凛堂に兄がいるなんて初耳だぞ?


 蓮を睨む麻耶を置いて、蓮は天羽に寄って来る。


「その話はあとでちゃんとする。それより今は麗城君、君のことが先だ」

「それよりって……っ!」


 麻耶は蓮の態度に腹が立って仕方がないようだ。

 しかし、学園(ここ)にいるってことは、この人も何かの能力が……と天羽が思っていると、蓮は天羽の心を読んでいたかのように話し出す。


「俺のことについて気になるようだね。初めまして麗城君。俺の名前は凛堂蓮よろしく頼むよ。俺の能力は心読み(リーディング)と言って、人の心を読む事ができるんだ」


 心を読む事ができる、か……どうりで俺の名前と質問がわかるわけだ。

 てことはつまり、この人に隠し事は通用しないってことか?


「そういうことだよ。君も良い『読み』をしてるね」


 また心を蓮に読まれた。


 しかし、蓮さんが心を読む時に魔法陣が出ていない。となると、蓮さんの心読み(リーディング)は魔法以外の何かの能力だろうか?


 そんなことを考えていると、レイシスは蓮に注意する。


「凛堂君、先読みするのはやめろといつも言っているだろう。次、先読みして答えたらどうなるか、わかっているね?」

「はいはい、わかりましたよ学園長様」


 小学生のような返事をする蓮にレイシスと麻耶はムッとしていた。

 蓮にとっては何か聞かれてから返事をするのが面倒なのだろう。

 レイシスはため息をついて話を再開する。


「それで、凛堂君はわかったのか? なぜ彼が神器召喚(ゴッドブリンガー)を使えたのか」

「もちろん、わかりますよ」


 そう言って、蓮は笑みを浮かべながらカーテンを全開にし、病室の中央にある白い三人掛け用のソファーに座り込んだ。

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