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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第二章 『境界に踏み込む者たち』
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森羅の試練

 地球からはるか遠くにある太陽が、まるで目の前にあるように思えるほどの異常な暑さ。

 七竜王(セブンスドラゴン)の一体である溶焔の王・アルククは赤と白の炎でその身を包み、あたり一帯の雑草を自分の熱で焦がしていた。

 体から湧き出る汗は既に蒸発し、塩になって張り付いていてもおかしくはない。

 しかし、それ以上にアルククの圧と殺気に体は冷えきっていた。


「我が小娘ごときに呼び出されるとはな。人間で言う『人違い』だったという事か。しかし、ゼビルズがここにいるのは何故だ?」


 アルククはこちらにゆっくりと近づきながら疑問を持つ。

 ゼビルズは4mくらいの高さで、アルククはそれの倍くらいの高さだ。

 空気の熱で火傷を負うのではないかと思うほど近づいてきたアルククが口から白い溶岩を垂らした直後、ゼビルズが蔦で()ねた溶岩からフェルンたちを守った。


「アルククヨ、ソノ体デハ人間ガ焼ケル。(ちから)ヲ抑エヨ」

「ふん、良いだろう」


 ゼビルズの言葉でアルククを包んでいた炎がコンロのガスを閉めたように小さくなり、溶岩が固まったような黒い体に変化する。

 それでも黒い体の隙間からは赤白い炎が見え隠れして時折高温の熱を外に出していた。

 今はまるでストーブの近くに常にいるような暑さだ。

 アルククは口の中で固まった溶岩を噛み砕きながら、


「質問に答えろ、ゼビルズ」

「我ハ、今ハ亡キ契約者ノ復活ニヨリ此処(ここ)二イル。我ガ契約者ノ望ハ、森羅ノ試練ニヨッテソノ者トアルククヲ契約サセル事」

「なるほど。ゼビルズはこの小娘が我に適性ある者だと言うのか?」

「ソノ者カラハ、アルククト同ジ(ちから)ヲ感ジル」

「ほう……」


 アルククはそう言うとフェルンに近づき、目線を合わせるために頭を下げる。

 三つの青い目はフェルンの顔を真っすぐ見ていて、その(ひとみ)には自分が燃えて映っているような気がした。

 フェルンは恐怖で動けなかった。

 (ドラゴン)という強者の威圧感と圧倒的な力を感じて、自分でもどういう顔をしているのかわからない。

 アルククは一度目を閉じると長い首を上に上げフェルンを見下す。


「我と簡単に契約できると思うな小娘。しかし、ゼビルズの言う通り確かに貴様からはゼビルズの力と我の力を感じる……そうか、貴様は五年前、人間に殺されそうになっていた小娘か。たしか、あの時はゼビルズの気配が消え、その付近を見回っていた所だったが……まさか、人間ごときに敗れたとは言わないな?」

「我ガ契約者ハ子ヲ守ルタメニ(ちから)ヲ尽シタ。我ノ(ちから)(ほとん)ドハ子二使ッテイタ、我ハ我ガ契約者ノ望ヲ叶エタマデ。タトエ敵デアッテモ命ヲ奪ワナイ。ソレガ我トノ契約条件ダ」

「なるほど……」


 アルマはアルククから目をそらし悲しい顔をしていた。

 しかし、アルククはそれを見逃さず、ゼビルズの目を見て真偽を確認すると再びフェルンに目線を合わせるように頭を下ろす。


七竜王(セブンスドラゴン)である我と契約する覚悟が貴様にはあるのか?」

「わ、私は……」


 契約できなければ自分の力は消えるかもしれない。

 そうなればこの学園にはいれなくなるし、やっとできた友達と、それに大切な天羽さんとも別れることになる……

 そんなことは、


「絶対に嫌だ……」

「……」

「私はもう、大切な人を失いたくない。アルククは私の大切な人たちを守れる力を私にくれる?」

「我は戦いを好む。契約した(あかつき)には何物を(ちり)すら残さずに(ほうむ)る絶対なる炎の力を渡すと約束しよう」

「なら、どんな代償だって払ってあげる。アルクク、私と契約して!」

「フェルン……」

「……決めたんだ、私はもう逃げない。守られているだけで何もできなかった過去の私はもういない。今はアルマとアルククからもらった力を持っている。その力で大切な人を……天羽さんも麻耶さんたちも守るって決めたんだ!」

「ふん……その目、気に入ったぞ」


 アルククは微笑しながらそう言うと頭を上げて、契約条件を提示した。


「我にその両腕を差し出すというのなら、契約してやろう」

「……わかった、私の両腕で皆を守る事が出来るのなら!」


 両腕が無くなれば何も持てなくなるし誰かと手を握ることも抱きしめることも出来ない。

 そうなれば私には力しか残らない。

 でも、その力で皆を守れるのなら……


「駄目ですフェルン、その条件は重すぎます!」


 アルマはフェルンを止めようと説得する。


 やっぱりアルマは優しいな、昔と全然変わっていないや。


 フェルンは後ろを向きながら首を振り、


「私は決めたから。だから、ごめんねアルマ」

「フェルン……」

「……契約成立だ。ゼビルズの力が宿ったその両腕、頂くぞ!」


 そう言うとアルククはオレンジ色に熱せられた(するど)い歯で、前に出した両腕に噛みついた。

 噛みつかれた腕に痛みは無く、痛みが無い契約で良かったと思った直後、全身の血が沸騰するような熱を体内から感じた。


「ぐっ……あぁ……」

「フェルンっ!」


 異常な熱さ、頭痛、吐き気で倒れそうになるが、足に全身の力を入れて踏みとどまる。

 心臓の鼓動(こどう)が早くなり、呼吸で吐く息は白く濃かった。

 悶絶すること十数秒、熱は治まり目を開けると、アルククの歯は既にフェルンの腕から離れていて、両腕はちゃんと自分とくっついていた。

 腕も指も問題なく動かせるが、気になる事として赤く光る謎の模様(もよう)が両腕に浮き出ていた。

 不思議に模様を見つめていると、アルククは頭を下ろして話す。


「ゼビルズの力を(あるじ)から抜き取り、我の力を代わりに入れた」

「アルククノ目的ハ、我ヲ()ラウ事カ……」

「……さぁ、どうだろうな」


 フェルンは自分の腕が無くなっていないことに驚きと困惑があるように、アルマもフェルンの腕を見て安心と困惑があるようだった。


「ゼビルズ竜王、これは?」

栄養管(パイプライン)ノ一部デアル我ノ生命植菅(ソウルポート)ヲアルククガ喰ライ、ソノ体内二取リ込ンダ。コレニヨリ、アルククハ我ノ(ちから)デアル自然ノ(めぐ)ミヲ受ケラレルヨウニナル」

「アルクク竜王が自然の恵みを受けるとどうなるのですか?」

「アルククハ契約者ガ居ナクテモ、我ガ世ニ存在スル限リ大地ヘ帰ラズニ存在スル事ガ出来ル」

「……まさか、アルクク竜王はフェルンを殺そうと!」

「ソノ心配ハナイ。見テ見ヨ……」


 ゼビルズがアルマの問いに答えると、アルククは再び体を炎で包み溶岩を垂らしながら口を開く。


七竜王(セブンスドラゴン)の力、貴様に扱いきれるか……?」


 アルククはそれだけ言って、赤い光となってフェルンの腕の模様に溶け込むように消えた。

 腕を見ると赤い模様がゆっくりと動き、(ドラゴン)のような紋章の形に変化した。

 自分でもわかるくらい魔素(エナ)の量が上昇し、正面を軽く殴っただけでも一帯を焼け野原に出来ると思えてしまう。


「……お別れのようです」

「えっ……?」


 その声に振り向くと、天羽の体からは緑と黄色の光が漏れ出していて、ゼビルズの体は既に消滅していて頭だけしか残っていなかった。

 フェルンたちが下にいた時にアルマが時間が無いと言っていたのを思い出す。


 もしかして、もう行っちゃうの?


「アルマっ!」


 フェルンが近づくと、頭を撫でて抱き寄せてくれた。


「アルマ、アルマっ!」

「試練は合格です。フェルンの立派な姿が見れて私はとても嬉しいですよ」

「アルマ、やだ、行かないで!」

「……私は既に死んでいる身です。いつまでもここに留まっているわけにはいきません」

「アルマ、嫌だよ……また、私を置いて……行かないで!」


 天羽から漏れ出す光はどんどん多くなっていき、後ろにいたゼビルズはもう消えていた。

 アルマはもうこの世界にはいない、いつかこうなるとわかっていても先ほどあれだけ汗を()いたのに涙がどんどん(あふ)れ出てくる。


「今度はあなたが大切な人を守る番です」

「アルマ……」

「大丈夫です。困難を乗り越えた今の強いフェルンなら、きっと出来ます」

「……うん」

「私も子供たちもずっとあなたの(そば)にいます」

「……うん、うん」

「あなたはもう一人ではありません、私たちの分まで生き、大切な人たちを守るのですよ……」


 天羽から漏れていた光が出なくなり、光は空に(はかな)く消えて行った。

 静かに消える光を涙越しに見ていると声がする。


「……大丈夫か、フェルン?」

「天羽さん……ですか?」

「ああ、アルマが消えたから俺が戻ったんだ」


 その言葉にフェルンは複雑な気持ちになった。

 アルマが消えた悲しみと、天羽が戻った喜びが混じる。

 すると、天羽はアルマのようにフェルンの頭を優しく撫でてくれた。


「俺たちが一緒にいる。だから安心しろ、もう一人にはしねぇよ」

「う、うあぁぁぁ!」


 私は泣いた。

 天羽さんはいつもそうだ。

 優しくて、かっこよくて、面倒見が良くて、私のお兄さんのような人になっている。

 ……でも、これからは違う。

 今の私にはアルククの力がある。

 だから、私は皆と戦う。

 だから、私は皆を絶対に守る。


「……やっと、天羽さんの隣に立てるくらいの力を持つことが出来ました」

「……そうだな。背中は任せたぜ、相棒」

「はいっ!」


 天羽が右の拳を前に出すと、フェルンも答えるように右の拳を出して当て合う。

 それから、レイシスたちが地上に出てきたのはすぐの事だった。

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