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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第二章 『境界に踏み込む者たち』
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焔と樹

 天羽たちは玄徳について行き、練習場に入る扉の前にいた。

 何故すぐに入らないのかと思っていると、玄徳は天羽を見て小声で話す。


「麗城、お前の能力は学園長から聞いている。もし、お前が暴走したときは我々が全力で止める。そうならないよう、出来る限り自分でも気をつけろ、わかったか?」

「……はい」

「フェルン、お前も同室なら麗城の事情はわかっているだろうが、これは能力を見定めるだけでなく魔闘大会に向けた模擬戦でもある。変に遠慮をする必要はない、全力で(おのれ)の能力を使え、わかったか?」

「……は、はい」

「入るぞ」


 玄徳はズボンのポケットから黒いカードキーを取り出し、カードリーダーに当て扉を開く。

 やっぱり外見よりも中は広い。

 左上を見ると見学部屋のガラスが見えるが、中で誰が見ているかまでは見えない。

 そのことから、それがマジックミラーであるとわかった。


「これよりフェルンと麗城の試合を始める。両者、前へ」


 お互いに20mほど距離をとったところで止まり、天羽は気合を入れ直す。


 もし、前みたいに暴走したときは学園長たちに任せよう……フェルンには事前に言っておいたから大丈夫。

 後は俺が魔法を受けないように注意すれば問題はないはずだ。


「開始!」

「行きます、天羽さん!」

「ああ、全力で来い!」

創造の世界(フィールドメイク)煉獄の大地(ヘル・ガイア)!」


 合図と共にフェルンの足元には赤い魔法陣が展開されていき、最初に見た時と同じように溶岩の大地が広がっていく。

 その範囲はフェルンを中心に直径5mほどと狭いが、空気が焼けるような熱気は汗が体中から湧き出てくるほど感じる。

 フェルンが右手を上に上げると溶岩の柱が3本出現し、前に手を振り下ろすと槍のように飛んできた。

 とっさに横に回避するが、溶岩は意思を持ったように天羽を追尾してくる。


「さて、どうしたものかね……」


 溶岩の追尾速度は思っていたほど速くない。

 煉獄の大地(ヘル・ガイア)の展開時間も無限というわけではないだろうし、このまま逃げてフェルンの魔素(エナ)切れを待とうと思っていたが、想定外の問題が出てしまった。


「はぁ、はぁ、あ、暑いですぅ……」


 試合が開始してまだ1分くらいしか経っていないのに、リリエルは白衣を脱いでYシャツの上から水色のスポーツブラが透けて見えるほど汗を()いていた。

 そう言う天羽も既に体操着が汗で全身に張り付いてしまっている、このままではフェルン以外の全員が脱水症状になってしまうかもしれない。


「早く何とかしないと……」

「そこですっ!」

「やべ、しまった……!」


 考えこんでいた隙を突かれて溶岩が天羽の右腕に当たる。

 しかし、溶岩の熱を感じる前に当たった先端は赤い光となって消え去り、溶岩は消えた部分を復活させながら天羽の横を通り過ぎた。

 一瞬先端が消えた時に溶岩の中に鎖のような赤い魔法陣が見え、その仕組みを理解した。

 溶岩の中に仕込まれた鎖状の魔法陣によってフェルンは溶岩を自在に操り、目視出来る範囲であれば追尾も可能。

 射程距離は分からないが長くなればなるほど追加で魔法陣を溶岩に入れないといけなくなるため、それだけ魔素(エナ)も消費するはずだ。


「仕組みは理解できた、しかし、これからどう立ち回れ……ば?」

「天羽さんっ!」

「……何だ、これ?」


 いきなり天羽は床に叩きつけられ、何が起きたかわからなかった。

 見ると手と足には黄色い何かが絡みついていて、天羽の体は動かなくなり床に倒れたのだ。


『子供たちを守らないと……!』

「……っ!」


 すると、天羽の頭にジークの時同様誰かの記憶が入ってくる。


『ダメ、逃げてっ!』

「何だ、ぐっ……!」

「天羽さんっ!?」

「麗城君!」

「あ、ああ、あぁぁぁぁ!」

「学園長!」

「ああ、やるぞ!」


 レイシスと玄徳は暴走しかけている天羽を助けようと走ってくるが、何者かが黄色い(ムチ)のようなもので二人を攻撃した。

 目線が床から上がり二人を見つめる。

 横を見るとそこには口を押えているフェルンがいた。


「そんな、貴女がここにいるはずは……」

『フェルン、どうした……? って、どこだここ!』


 気がつくと天羽は変な空間にいた。

 外の状況は見えるが辺りは虹色に輝く何もない空間だった。


『……ここは?』

『……っ!』


 声に振り返るとそこには修道服を着た女性と赤髪ロングで裸の小柄の女の子がいた。


『ここ、は……あまはの、なか……おねえさん、だれ?』

『私はアルマ・ヴァリオスです。あなたは一体?』

『わたし、は……ぜろぜろ、に……ろいぜ……そう、よばれて……た』

『ロイゼさんね、あまはのなかってどういう……』

『どういう、ことだ……?』


 目線が合うと、お互いに目を丸くして今の状況を疑った。

 何故なら、今、目の前にいるのは実体があるロイゼと、もうこの世にいないはずのシスターアルマだったのだ。


『あまは……麗城天羽なのですか?』

『本当に、シスターアルマなのか?』

『ええ、ええ……成長しましたね、天羽』


 アルマは天羽を見てほほ笑むと、罪悪感で押しつぶされそうだった。


 あの時一緒に逃げていればアルマだってフェルンだって救えたはずなのに、なのに俺は……


『……っ!』


 アルマは(うつむ)いている天羽を見て抱きしめてくれた。

 根性だけでは耐えられないほどの涙が目の奥に溜まってくるのが嫌でもわかる。


『何も考えなくていいのです。フェルンと共に生きていてくれて、本当に良かったです』

『……』

『フェルンも成長しましたね。あの時、私が死ななければ子供たちも……』


 アルマは悲しそうにそう言うと、画面のように見えていた外の光景がフェルンの顔を映した。

 どうやら今、天羽の体はアルマに乗っ取られているような状況らしい。


『とても驚きました。まさかあなたが私を呼び出すとは』

『俺の能力は魔法を無効化して使用者の記憶から別の者の力を使う能力なんだ。だから、フェルンの記憶に残っていたアルマが呼び出されたって事だ』

『なるほど、どうやら今あなたの体は私が(あやつ)っている状態のようですね。それに……』

『それに?』


 アルマが後ろを見ると、外の光景には緑と黄色の(つた)で出来た(ドラゴン)の頭が映っていた。


『……ゼビルズ。何で、ここに?』

『私が死亡したときゼビルズ竜王との契約が切れました。しかし、前の契約者である私が現れたことで現在の契約者から離れてここに来たのだと思います。そうですか、ゼビルズ竜王?』


 アルマが後ろを見ながら質問をすると、画面の外から人間の声とは思えないようなとても低い声が聞こえた。


「我ハ七竜王(セブンスドラゴン)一翼(いちよく)大樹(たいじゅ)ノ王・ゼビルズ。前契約者アルマ・ヴァリオスノ出現ニヨリ、前竜王契約ヲ復活スル。内容ハ、愛スル者ヘノ癒シ。代償ハ、一切ノ殺傷ノ禁止」

七竜王(セブンスドラゴン)……」

「またとんでもないのを呼んできたね、本当に……」


 レイシスと玄徳はゼビルズの姿を見て驚愕(きょうがく)している。

 戦うか戦わないかを迷っているようだが、竜王相手に勝てるとは思えない。レイシスもそう思っているのだろう。

 前回の天羽は数分もしないうちに力を使い果たし能力の効果は消えた、それを狙って時間を稼げばこの事態は収まるかもしれない。

 しかし、前回と明らかに違うのは外の様子とアルマの姿が見えること、そして天羽が審判(ジャッジメント)の力を有していることだ。

 もし、審判(ジャッジメント)のおかげで今の状態になっているのなら、元々の持ち主であるロイゼにどうなのかを聞かなければならない。

 天羽はあまりロイゼの全身を見ないように話しかけた。


『ロイゼ……なんだよな?』

『ぜろぜろ、に……ろいぜ……わたし』

『今、審判(ジャッジメント)の力は発動しているのか?』

『うん……しんぱん……せいぎょ、うしな……わない、よう……に……あまは、を……とどめて、いる……よ? はなれ、たら……だめ……て……ぜんかい、の……はんせい』

『前回の反省……改善の力もあるのか』

『でも、それ……だけ……あまは、は……あまは、の……からだ……つかえ、ない……いま、は……あるま』

『確かに、今の俺の体は俺の動きじゃなくてアルマの動きと連動している。前と比べたら意識があるだけまだマシか……』

『天羽』


 ロイゼと話していると、アルマは何かに気が付いたように真剣な眼差しで天羽を見つめて話しかけてきた。


『何だ?』

『あなたの体、お借りしてもよろしいでしょうか?』

『ダメって言っても俺にはどうしようも出来ない。ただ、どうしてそんなことを?』

『気になる事があるのです』

『気になる事?』

『私が死亡した後に何が起きたのかは分かりません。ですが、フェルンの体内に埋め込まれたゼビルズ竜王の栄養管(パイプライン)から、かすかに竜王と同じような気配があるのを感じたのです』

『それは、ゼビルズの気配とは違うのか?』

『はい。復讐(ふくしゅう)に燃える熱くて恐ろしい(ほむら)の気配、おそらく溶焔(ようえん)の王・アルククではないかと思います』

『……つまりそれは、フェルンの能力は七竜王(セブンスドラゴン)であるアルククの能力だっていうのか?』

『断定はできませんが、ゼビルズ竜王の力が完全に使える今なら呼び出せるかもしれません。申し訳ありませんが、体をお借りします』

『ちょ、おいっ!』


 アルマはそう言うと一瞬で姿を消し、同時に外からはフェルンの叫び声がした。


「何故貴女がここにいるのですか、アルマっ!」

「……」

「ゼビルズがいるという事は、アルマなんでしょ? 答えてよ、アルマっ!」


 フェルンの声に天羽の体は自分の意思とは関係なく口を開いた。


「はい、私はアルマ・ヴァリオスです。大きくなりましたね、フェルン」

「……っ、アルマ!」


 フェルンはアルマとなった天羽に涙を流しながら近づこうとする。


「……ごめんなさい」

「きゃっ」

『フェルン!』


 が、アルマは金色の(つた)でフェルンを弾き飛ばした。

 フェルンは壁際まで飛ばされ、自分が何をされたのか分からない表情をしている。


「アルマ? どうして……」

「契約により、私たちはあなたが竜王契約に(いた)る為の試練を与えないといけません」

(なんじ)カラ七竜王(セブンスドラゴン)ノ一翼、溶焔(ようえん)ノ王・アルククノ(ちから)ヲ確認。星界(せいかい)ノ王・(ソラ)トノ契約ニヨリ、汝ニ森羅(しんら)ノ試練ヲ与エル……」

「森羅の、試練……?」


 ゼビルズの言葉で、その場にいる誰もが言葉を失った。

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