力の代償
優斗と敏文の試合が終わり、見学部屋は試合の感想で盛り上がっている。
普通の学校であれば生徒がうるさくしていたら注意するものだが、玄徳は特に注意することはなく生徒たちと練習場を交互に見ていた。
興奮気味の鳴子は天羽たちに試合の感想を言う。
「思っていたよりもしっかり試合するんだね。綾波君が本気なら別府君死んでいたんじゃない?」
「動けなくなったところで糸を締めて、抵抗出来ずにそのままバラバラ殺人現場の完成ってか」
「あんたね、冗談でもそういう事は言うんじゃないわよ」
「……それにしても、綾波さんの洞察力すごいですね。すぐに能力の弱点に気が付くなんて」
鳴子の話を終わらせるようにフェルンがつぶやくと、練習場を出て行く優斗たちに目線が集中する。
相手の能力の弱点を知るには一度や二度の戦闘ではなかなか気が付きにくい。
敏文の危険信号は危険を感知して避ける能力だが、相手が優斗ほどの洞察力の持ち主でなければ初見殺しもいいところだろう。
攻撃は全部外れて何もできずに一方的にやられる、そんな未来が簡単に見える。
考えていると、フェルンの隣に座っている瑠璃子が口を開く。
「敗因は別府さんの注意力不足でしょう」
「その理由は?」
「能力で自分の注意力を完璧に補ってくれるとしたら、どんな攻撃が来ても体が勝手に回避して自分はただまっすぐ相手に殴りかかれば、回避されない限りは当たります。それ故に綾波さんが仕掛けた糸は自分が気が付かなくても体が勝手に回避してくれていました。しかし、能力が常に最善の逃げ道を選んでいるのだとしたら、逃げ道が無くなった時は当たる前に止まるしかありません。もし、糸に気が付いて仕掛けの範囲内から逃げる行動をとっていれば圧勝だったかもしれませんが」
「ほえー」
鳴子は少しもわからないような表情で瑠璃子を見ている。
これでも十分わかりやすく説明してくれたと思うけれどな……
しばらくして渉が優斗と敏文を連れて観戦室に戻ってくると、皆は静まり玄徳が名前を呼ぶ。
「次は凛堂と斎藤だ。ついてこい」
「お、私たちか。負けないからね、麻耶」
「練習とはいえ手加減しないわよ」
二人を連れて部屋を出ると、空いた席に優斗と敏文が座る。
ちょうど隣に優斗が座ったので、天羽は能力について聞いてみると敏文もこれに便乗した。
「なぁ綾波、お前の能力って何なんだ?」
「それ俺も聞きたかった! あの刀をたくさん出すやつ、一体どんな仕組みなんだよ」
「俺の能力は物体搬送、物を別空間に入れて運ぶ能力だ」
「刀を出すのが能力じゃないのか?」
「元々家にあった模造刀を魔法陣の中に入れ、それを取り出しただけだ」
「まじかよ、じゃあ刀以外にも出そうと思えば出せたって事か」
「お前にはそれで十分と判断した、だから使わなかっただけだ」
「何だよそれ、俺の事下に見ているのか!」
「当たり前だ、開始早々突っ込んでくるバカがどこにいる。攻撃を回避できるのなら相手が近づいてきたところを返すのが定石だろう」
「……確かに」
「だが、初撃の抜刀を避けられたのは予想外だった……」
よほど抜刀に自信があったのか、少し悔しそうな表情をしている。
模造刀が家に何本もあるような家庭だ、きっと幼少期から居合術でも習っていたのだろう。
そんなことを考えていると隣から腕をつつかれた。
「天羽さん、もう始まりますよ」
「ああ、もうか」
フェルンの言葉で練習場を見ると、既に麻耶と鳴子がスタンバイしていた。
「試合開始!」
「性能強化、脚力上昇、腕力上昇!」
合図で二人は能力を使い戦闘態勢に入る。
鳴子は足と腕に性能強化をかけ、麻耶は何もしないで構えているだけだった。
「行くよ麻耶っ!」
「いつでも来なさい!」
少し疑いながらも鳴子は床を蹴り距離を一気に詰めて正面から左蹴りを入れる。
対する麻耶は鳴子が床を蹴ったタイミングで手を広げ両手を左右に広げると、正面に展開された魔法陣から何かを作り出して腕に装備し蹴りを弾く。
「性能強化、脚力上昇!」
体勢を崩した鳴子は着地する前に足へさらに性能強化をかけ、着地と同時に床を前に蹴り元の位置に急いで戻る。
「……へぇ、小さな体の割にはそんなものが使えるんだね。驚いたよ」
「私、武道とかは習っていなかったけれど、男子になめられるのが大っ嫌いだったから筋トレだけは毎日していたのよ」
麻耶が持っている物を見て見学部屋もざわついている。
それもそのはずだ。
麻耶が今装備している物は、自分の体ほどの大きさがある使い勝手が悪そうな武器、十字型の剣と言えばピッタリだろう。
麻耶は自慢げに見せながら構える。
「これは十字剣、持ち手は内側にあって自分の好きな位置で止められるよう回転式にしてあるわ」
「なるほど、長い方を前にすれば二刀流、短い方を前にすれば大盾になる、か……自分の思い通りに作れるってすごくずるいと思うんだよ、ねっ!」
そう言うと鳴子は再び床を蹴って距離を詰め、麻耶に右蹴りを入れる。
しかし、大盾モードになっている十字剣に軽く弾き返され、体勢を崩すと再び床を蹴って左、右と蹴りや拳を連続で入れていく。
「全然当たらない……ってか、固ったーい!」
「私の能力、形だけじゃなくて素材まで自由なのよ。その代わり魔素の消費量は多いけどっ!」
「くっ!」
腕に装備された十字剣を180°回転させ大盾から二刀流へ変更する。
大きさ的に一本十数キロはあるだろうが、麻耶は疲れた表情を全く見せずに素早く鳴子に攻撃すると大きく体をのけ反らして回避し、腕の力で飛び上がり後ろへ大きく後退する。
「攻撃は防がれるし回避もギリギリ、魔素ももう少ない感じがするな……全力でやるしかないか」
鳴子は少し身を後ろに下げて再び突撃の構えをとると、麻耶を見たままリリエルに質問をする。
「ねぇリリエル先生、切れた筋肉とか血管、折れた骨を治す事ってすぐに出来る?」
「え? 出来るけれど……すぐには治らないよ?」
「じゃあ、痛いの嫌なんでなるべく早く治してくださいねっ!」
「なる、あんた何するつもり?」
しかし麻耶の質問に答えることはなく、鳴子は目つきを変えて再び性能強化をかける。
「性能強化、脚力倍化、腕力倍化、全神経能力倍化、全筋力倍化ッ!」
すると、鳴子の腕や足の血管は遠目からでも見えるほど浮き出て心臓のように筋肉が鼓動している。
鳴子は荒くなった息を整え再び構え直すと、麻耶は鳴子がすることを察したのか二刀流を大盾に変えて防御の姿勢をとる。
「はぁっ!」
「……っ!」
次の瞬間、鳴子が床を蹴ると床は激しくめくり上がり目に見えないほどの速さで麻耶の正面に右ストレートを入れる。
麻耶もそれがわかっていたのか床を蹴る直前に大盾モードの十字剣を前に持ってくるが、十字剣は木っ端微塵に砕かれ壁まで一瞬にして殴り飛ばされた。
その衝撃で見学部屋は揺れ、麻耶諸共練習場の壁は凹み力を失ったように麻耶は倒れた。
悲鳴を上げる事すら許さないほどの一瞬の決着に見学部屋は沈黙するが、その沈黙は鳴子の叫び声によって消え去った。
「ぐっ、あぁぁぁぁぁ!」
断末魔の叫びのような声がと練習場に響き渡る。
見ると鳴子の全身から激しい出血と右腕が折れてはいけない方向に骨折していて吐き気がするほどだった。
レイシスと玄徳は麻耶の意識確認へ、リリエルは鳴子の回復に急いだ。
「天羽さん……」
フェルンが天羽の腕を掴むと、黙って頭を撫で鳴子が回復するのを見届ける。
しばらくすると鳴子の体は元に戻り、失血はあるようだが自分で立ち上がれるほどには回復していた。
リリエルは回復を確認してから麻耶の所へ急ぐと、手と足を震わせながら麻耶は立とうとする。
「麻耶! ごめんね、大丈夫だった?」
「まさか合金の十字剣を壊されるなんてね、無理しすぎよあんた……」
「麻耶っ!」
「……大丈夫、気を失っているだけだから」
「……この試合、斎藤の重症と凛堂の気絶により引き分けとする」
一瞬鳴子の顔を見ると再び麻耶は倒れてリリエルが手当てを始め、二人の状態を確認できたところで玄徳は試合終了を宣言した。
試合が終わると二人はレイシスが電話で呼んだ白い服で身を包んだ救護班に担架で総合病院へ運ばれ、玄徳だけが見学部屋に戻ってくる。
「次は針城とエレーナだ。ついてこい」
「もう私たちか、手加減しねぇからな!」
「お手柔らかに、うふふ……」
渉と共に二人は出て行き、天羽たちは先ほどの試合を優斗と振り返っていた。
「綾波はさっきの試合どう思う?」
「凛堂の作戦は良い考えだろう。直前まで武器を見せずに来たところを返す、その結果斎藤は初撃を落とされた。しかし、最後の一撃はあの十字剣とやらで守らなければ死んでいただろう」
「もし、まっすぐ向かってきたなるから横に逃げていたとしたら?」
「逃げられないだろうな。元々全身の筋肉や骨を犠牲にした攻撃、無理やりにでも体を曲げて何かしらの攻撃を入れていただろう」
「なるほどな」
話をしていると練習場に紅花とエレーナが入場してきた。
皆同様にお互い距離を取ったところで待機し、渉が手を上げ合図をする。
「開始!」
「行くぜエレーナ!」




