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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第二章 『境界に踏み込む者たち』
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模擬戦

「まさか、鬼軍曹が二人もいるとはな……」


 天羽はトイレに行きながら二人の顔を思い浮かべる。

 一人は守衛所の鬼軍曹、もう一人は玄徳だ。

 なんでこの学園にはあんな大柄で強面(こわもて)の人が二人もいるのか。

 中学校にいた体育教師もなかなかだったが、そいつがマシに思えるほどだ。

 能力を使用した事件や事故はいくらでもある、だからこそ熱が入るのもわかるが外見的にもっとマシな人はいなかったのだろうか?


「……そういや、B組も特別演習だったか。まさか、そっちにも3人目の鬼軍曹が行っているんじゃないだろうな」

「そのまさかなんだな」

「うわっ! いつの間に」


 手を洗っていると、隣には体操着姿の竜二が手を洗っていた。

 竜二は溜息混じりに言う。


「自己紹介をしたときに針城さんが教官にキレて胃が痛くなったよ。隣にいたリリエルっていう先生が仲裁したけど」

「リリも大変だな……というか、何で針城はキレたんだ?」

「針城さんは自分の能力をあまり把握していなくて、自分の能力がわからないのか? って教官が質問したら、何かわりぃのか? ってキレだしたんだよ。それからは、もう……あぁ、思い出すだけで胃が痛くなる」

「それは、気の毒だな……」

「今、倉石(くらいし)教官はすごく機嫌が悪いから気をつけろよ。それじゃ、模擬戦がんばろうぜ」

「ああ」


 腹を抑えながら溜息混じりにトイレを出ていく竜二を見送り教室に戻ると、既に皆座っていて天羽を待っている状態だった。

 レイシスと話していた玄徳が、天羽が席に着くのを横目で確認すると、時計を見て教卓に両手をつく。


「これよりB組と合同で模擬戦を行うため地下に移動する、持って行くものは根性と覚悟だけだ。俺たちについてこい」


 廊下に出るとB組も出ていて、一緒に地下へ向かった。


 先頭にいる望月教官と同じくらいの背丈の男性が倉石教官か。

 後姿は全く同じ、顔も同じような感じなんだろうな。

 おまけに機嫌が悪いんだからなおさら顔を見たくない。


 廊下奥にある大型エレベーターに乗り込み地下5階へと移動すると、最初にフェルンを見た部屋の前に到着し見学部屋に全員入る。

 玄徳は全員が揃っているか確認すると、レイシスたちを前に集めて両腕を後ろに回しやすめの姿勢になる。


「模擬戦を始める前に改めて自己紹介をする。俺はA組の特別演習教官をしている望月玄徳だ」

「倉石(わたる)、B組の特別演習教官である」

「学園長のヴァルナ・レイシスだ」

「医療研究所所長のリリエル・メアだよ、よろしくね」


 ん? 今所長って言わなかったか?

 友達のように話していたけど、リリってもしかしてすごく偉い人だったりするのか?


「これより模擬戦を始める、戦う相手は同室の人だ。模擬戦は一組ずつここから見える下の練習場で行い、残りはここから見学する。模擬戦には各クラスの教官と学園長、リリエル先生が同席する。模擬戦のルールは、相手を傷つけるのは構わないが殺すようなことは禁止とし、決着がついた場合は自ら降参するか、勝利宣言をするものとする。ここまでで質問のある奴はいるか?」


 玄徳は鋭い眼差しでざわついている皆を見て質問が無い事を確認してから渉に対して頷き、渉は入ってきたドアの前に行く。


「初戦は綾波と別府だ、俺についてこい」

「俺たちが最初か、がんばろうぜ」

「ああ、そうだな」


 玄徳以外の先生が出て行き、各人好きな席に座り始めている。

 天羽は練習場が見える窓の前の席に腰を掛け、優斗と敏文が登場するのを待っていた。

 椅子は横二列に計20脚ほどあり、天羽の隣には鳴子とフェルンが座ってきた。

 しばらくすると優斗と敏文が出てきて、ドア側には渉、反対の壁際にはレイシスとリリエルがいた。


「両者前へ」


 渉の合図で二人が中央に行くと、お互いに20mほど距離をとったところで停止の合図をした。


「開始!」

「覚悟しろよ!」

「……」


 開始の合図と同時に動いたのは敏文だった。

 敏文は走って間合いを一気に詰めるが、優斗は気にせず目を瞑り静かに左腰に手を当てる。


「オラァ!」

「抜刀」

『ガツンッ!』


 すると腰から小さな白い魔法陣が出現し、中から刀の(つか)が出てきた。

 敏文が殴りかかった瞬間、空いた右腹に抜刀を仕掛けるが、刀は殴りかかった拳に落とされ優斗が体勢を崩したところで左蹴りが右腕に当たり壁際まで飛ばされる。

 刀は確かに空いた腹を狙っていた、タイミングも完璧だったはず。しかし、敏文は一瞬にして拳の狙いを優斗から刀へ切り替え、刀の()に拳を叩きこみながら体に右捻りを加え左足で右腕を蹴り飛ばした。


「ぐっ……」

「俺の能力は危険信号(シグナルレッド)、危険を回避する信号を脳が体に送るよりも体が直接反応して回避行動をとる。だからさっきみたいな行動がとれるのさ。ただの抜刀じゃかすりもしないぜ?」

「その余裕も今のうちだ」

「あぁ、そうかい!」

「っ!」


 敏文は優斗を(あお)るように言うが、挑発に乗る事も無くむしろ笑みを浮かべていた。

 壁際に追い詰められた優斗は練習場の中心に向かいながら敏文の動きに合わせて新しい刀を腰から出し抜刀を何度も行うが、対して敏文は確実に一撃、二撃と刀に拳を当て叩き落としていく。

 優斗は何故か落とされた刀を持ち直し床に突き刺しながら逃げ回っているが、腹や足に拳や蹴りを受け続けすでにふらついている。

 試合を見ている皆は優斗が負けると思っていたが、その考えは一瞬にして崩れ去った。


「終わりだっ!」

「……周りを見ることも大切だぞ」

「はっ、何を言って……ッ!?」


 優斗が七本目の刀を腰から出し地面に突き刺すと殴りかかろうとしていた敏文の体は動かなくなる。

 周りを見ると優斗が逃げながら突き刺していた刀が円型に並んでおり、敏文はその中心にいた。

 腕と足を動かそうと体をピクピクさせているが全く動く気配はない。

 変な汗を流しながら引きつった笑みを浮かべ質問をする。


「こりゃびっくりだね、何したんだよ?」

「一本目の刀には糸が仕込んであった。それを二本目、三本目に通しながら誘導すれば終わりだ。ルール上殺すなってことだから太い糸を使用しているが、無理やり動こうとすれば切り傷まみれになるぞ」


 優斗は八本目の刀を出して敏文の喉に近づけると、堪忍(かんにん)したような顔で溜息をし宣言する。


「まいった、降参だ」

「そこまで!」


 終了の合図と共に優斗は刀を抜くと同時に敏文の拘束を解き、リリエルは急ぎ足で二人のもとに向かい傷の手当てをしている。

 いい試合だったねとナンシーや紅花が話しているが、天羽はそうは思わない。

 どんなに回避行動が出来たとしても、危険と思わせる要因を体全体に感知させれば動くことが出来なるという弱点にすぐ気がついた優斗の圧勝だと思っている。

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