教官
今朝のフェルンはちょっと違った。
朝いきなり俺に飛びついて来てから、やたらと俺の近くにいたがっている。
机と椅子がくっついているとはいえ授業中もいつもより近くにいた気がした。
怖い夢でも見たのか?
だとしたら、まだまだ子供だな。
「……それでは、今日はここまで」
「「「ありがとうございました」」」
外を見ながらノートも取らないで考え事をしていたら、いつの間にか授業が終わっていた。
次の授業は昼休みを挟んで特別演習だ、ご飯を食べたらさっさと着替えに行こう。
天羽とフェルンは一緒に食堂に行きご飯を食べていると、麻耶と鳴子が目の前に来る。
「よっす、麗城君にフェルンちゃん。一緒に食べよ」
「ん? あぁ、構わんが」
「ほら、麻耶も」
「……はいはい」
鳴子はにこにこしているが、麻耶はむすっとしていて機嫌が悪そうだ。
そんなに俺の事が嫌いなのか?
地味に傷つくから態度に出すのはやめてほしいのだが。
麻耶となるべく目を合わせないように天羽はご飯を食べ進めていると、ラーメンをすすりながら鳴子が質問をする。
「そういえば、次の授業って体操着に着替えて教室で待つのかな?」
「……それで良いと思うわよ。あと、食べながら話さないこと、行儀が悪い」
「ごめんごめん」
「まぁ、体操着に着替えておいて必要なかったらまた着替えればいいだけだしな」
「今日からA組とB組に分かれて授業を行うという事でしたが、特別演習はB組の皆さんと一緒なのでしょうか?」
「んー、どうなんだろ? B組の時間割見てなかったな、麻耶はわかる?」
「わからないわよ、一緒でも別々でもやることは変わらないわ。高級温泉旅館に行くのは私なんだから……!」
「は? 温泉?」
何言ってんだこいつみたいな顔をして麻耶を見ていた鳴子は、残った麺とスープを一気にたいらげると立ち上がり、
「それじゃ、私は先に行くよ。麻耶も早く来なよ」
「ええ、すぐ行くわ」
麻耶も続いて魚定食の味噌汁を飲み干し、鳴子の後を追いかけて行った。
食堂中央にある時計を見ると次の授業まで残り25分、食べ終わって教室に着替えを取りに行き着替えればちょうどいいくらいの時間だろう。
天羽とフェルンは急ぐことなくマイペースでご飯を食べ終わり、教室に着替えを取りに行き更衣室へ行くと、先に優斗と敏文が中で着替えていた。
「あ、麗城君だっけ? よっす!」
「よう、綾波と別府だよな。お前らも特別演習の授業か?」
「ということはA組もか、合同でやるとは聞いていないが」
「どっちでもいいだろ、そんなの。せっかくなんだから、A組と一緒の方が楽しいぜ」
「何を根拠にそんなことが言えるのか……」
やっぱり敏文は鳴子に似ていると改めて思った天羽は、時間の事を思い出してさっさと体操着に着替えて教室へ戻る。
教室に着いた時には、天羽以外は全員席に座って雑談をしていた。
しかし、こうしてみると周り全員が女子というのがやはり落ち着かない。
せめてもう一人くらい男子が欲しかったものだ……
席に着こうとしたその時、廊下から天羽を呼ぶ声が聞こえた。
「麗城君」
「ん……? はい、何ですか?」
スライド式のドアを手で抑えながらレイシスは立っていた。
呼ばれるままに席を立ち廊下に出ると、周りを見てから深刻そうな顔で話し始める。
「次の授業……特別演習だが、前半は座学、後半は一対一の模擬戦をしてもらう予定だ。もしもの時は私が対処するが、麗城君にも出来るだけ注意してほしい」
「……そうですね。もしもの時は、周りに被害が出る前にお願いします」
「ああ……頼んだぞ」
それだけ言って、レイシスは去って行った。
もしもの時はという言葉で、天羽は病室で言われた蓮の言葉を思い出す。
『能力を使用するには二つ条件がある。一つは、相手に魔法陣を使用した魔法を使われること。もう一つは、相手が能力者と戦ったことがあること』
模擬戦というのだから、皆それぞれの能力である魔法を駆使して戦うのだろう。第一条件にはどうしても当てはまってしまう。
そして、二つ目の条件を考えると、自分に出来ることは……
「俺の対戦相手が能力者と戦ったことが無いことにかけるしかないな……」
落胆しながら席に戻ると、フェルンは心配そうに見つめてくる。
「レイシスに何か言われましたか?」
「少し……まぁ、気にするな」
「……そうですか」
不満そうなフェルンをスルーして席に着いてしばらくすると、前の教室のドアが静かに開いた。
レイシスが先に入ってくると、もう一人、ボディービルダーのように体格が良い高身長の男性が入ってくる。
緑の軍服のようなものの肩についている色とりどりのバッジは、自分がどれだけ強く偉いかを語っているようだった。
男性が入ったのを確認すると、レイシスは皆の方を向いて挨拶をする。
「今日から特別演習の講師をする学園長のヴァルナ・レイシスだ。本授業では、皆が自分の能力を知り、正しく活用できるように訓練を行う。詳しくはこれから望月教官に話してもらう。望月教官お願いします」
レイシスが引くと、横にいた男性が前に出てくる。
クラスの人数がもっと多ければこんな事にはならなかったであろう。
望月教官は一人一人目で威圧しながら顔を確認している。
大きな体から溢れ出る寒気にも似たこの雰囲気は、まるで守衛所にいた鬼軍曹と同じように思える。
目を閉じて息を吸うと、廊下にも響きそうな声で自己紹介を始めた。
「俺は望月玄徳だ、今日からお前らの教官になる。仲良くするつもりはない、安全のためにも厳しく訓練していく、覚悟しろ新入生!」
玄徳の喝は窓を揺らし、フェルンが怖がりすぎて少し目頭が熱くなるほどだった。




