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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第一章 『揺らぐ気持ち』
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覚醒する力

 地下7階で降りると、目の前には白い壁に囲まれた通路しかなく、その奥に頑丈そうな灰色の扉が見えるだけで他には何もない。レイシスのローファーが床と当たる音が通路に良く響く。

 扉の前まで行くと、レイシスはこちらに向き直る。


「この扉の向こうが、君たちの特殊能力を開花させる場所だ」


 そう言ってレイシスは胸ポケットから黒いカードキーを取り出し、扉の横にある黒い箱にかざす。

 すると、ガコンッとロックが外れる鈍い音が通路に響き、重低音を響かせながら扉が横に開く。


「さてと……それじゃ、行こうか」


 レイシスは笑顔で中に入り、天羽たちも続いて中に入る。

 照明が明るすぎて中の様子が見えなかったが、次第に目が慣れてくると別の意味で二人は驚いた。


「ここが、能力を覚醒させる場所……?」


 部屋の中は一面白のタイルで埋め尽くされ他には何もない。

 全身を固定して検査するような怖い椅子とかあるものかと思っていたが違うらしい。本当に何もないのだ。

 部屋を改めて見渡すが、やはり何もない。


 まさか、タイルの後ろからドリルや注射器が付いた機械が突然出てくるとかないよな……?


 心配になった天羽はきょろきょろと周りを見ながらレイシスに聞く。


「あの、本当にここの部屋で合っているんですか? 見たところ何もないようですが……」

「合っているよ? それに、学園長の私が間違える訳にはいかないよ」


 レイシスは得意げに答えた。

 そりゃ、学園長が間違えるなんて、そんなことはない。


「そうですよね、あはは……」


 笑い返す天羽は、恥ずかしすぎて死にたくなっていた。

 麻耶の方をふと見ると、何言ってるのあんた! みたいな目で睨まれ、天羽の横っ腹に肘打ちを入れる。


「さてと、それじゃあ始めようか。まずは凛堂さん、真ん中あたりに立ってくれる?」


 レイシスが指をさすと、麻耶は元気よく「はい!」と返事をして歩いて行った。


 でも、何もない部屋でどうやって能力を覚醒させるのだろうか?


 そう思っていると隣にいたレイシスが麻耶の正面に行き、お参りをするかのように手を合掌させる。


「今から君の能力を覚醒させる。覚悟はいいね?」

「はい! いつでも大丈夫です!」


 麻耶は大きな声で返事をすると、ヴァルナは笑顔で頷く。

 合掌していた手を大きく広げると、二人を囲むように虹色に輝く魔法陣が無数に形成されていく。


「我、ヴァルナ・レイシスの名の下に命ずる。解き放て、汝の力を!」

「……!」


 レイシスが詠唱をすると虹色の魔法陣が高速で回転し、回転しながら麻耶に接触するとパリィンとガラスが割れるように魔法陣が崩壊した。

 魔法陣の破片が四方八方に飛び散りとても綺麗だが、何が起きているのか天羽と麻耶には全く分からない。

 ふうとレイシスは一息ついて、


「これで、君の特殊能力が覚醒したはずだ。何か不思議なものを感じないかい?」

「はい、何か……言葉に表現できないような力を感じます」


 麻耶が自分の両手を見ながらそう言うと、レイシスは笑顔になった。

 胸の奥から湧き上がる不思議な力、それこそが能力の根源、魔素(エナ)というもの。

 どうやら能力の覚醒は成功したみたいだ。


「じゃあ次は君の番だ、麗城君」


 と、レイシスはこちらを見て麻耶と天羽が入れ替わる。


 さっき見たことと同じことが起きるとしたら少し怖い。凛堂は魔法陣が当たって痛くないのだろうか?


 そんなことを考えながら天羽は中央に立つと、レイシスはまた合掌し虹色の魔法陣を天羽の周りに形成する。


「覚悟はいいかな?」

「……はい!」


 レイシスは片目を開いてこちらに確認を取る。

 天羽も麻耶と同様に返事をすると、レイシスは「よろしい」と小声で言って手を広げた。


「我、ヴァルナ・レイシスの名の下に命ずる。解き放て、汝の力を!」


 魔法陣が回転して天羽に当たった瞬間、お互いの呼吸音が聞こえるくらい静かな部屋の中で、耳が痛くなるような鋭い音が鳴り響いた。


『キィーン……!!!』

「っ……なんだ!?」

「え……?」


 反射的に目を瞑った天羽はこの状況を理解できず、自分の足元を少し見た後にレイシスを見ると、目の前で起きたことが信じられないと言わんばかりに目を丸くしていた。

 何故なら、天羽の周りを囲んでいた魔法陣が跡形もなく全て”消滅”したのだ。

 魔法陣が光の粒となって宙を舞う。

 見とれていると、レイシスは天羽と自分の手を交互に見ながら驚いている。


「そん、な……バカな! 私の特殊能力が通用しない、だと?」


 レイシスの手が小刻みに震えている。


 これは、失敗だったのか?


 やっぱり俺に能力の適正なんて無かったんだなと安堵し両手を上にあげた瞬間、天羽の頭の中に不思議な記憶が流れ込んだ。


『……だけは……ず……!』


 目の前に映るのは小柄で金髪の女性。

 その周りにも複数人誰かがいた。


「今の……うっ!」


 すると、天羽の意思とは関係なく、白と金の魔法陣が何層にも重なり形成され輝き始めた。

 何だと思い腕を下げようとするが下がらない、ましてや少しも動かすことが出来ない。

 それは拘束具で腕を持ち上げられているような感覚に近かった。

 レイシスと麻耶を見ると、レイシスの顔には焦りの表情が出ていた。


「あんた、それは?」

「これは一体? ……まさかっ!」


 レイシスは何か嫌なことを思い出したかのように、麻耶のもとへ詠唱しながら走り出す。


「我、ヴァルナ・レイシスの名の下に命ずる。絶対防護の守りの盾よ、我らを災悪から守りなさい!」


 レイシスは固まって動かない麻耶を抱きしめながら転がり込み、四方八方に現れた巨大な光の盾が二人を中心に何重にも重なり合う。


 何をやっているんだ、あの二人は?


 と思っていたその時、天羽の頭の中で勝手に言葉が浮かび上がり、何者かに操られたかのように天羽はそれを読み上げた。


「約束されし勝利の槍よ、今、(なんじ)を長き眠りから解放し、(ふたた)び我らに勝利をもたらせ。現れよ、幻槍・グングニル……」


 魔法陣から金に輝く槍が出現すると、轟音と共に一気に天井を貫き、空いた穴からは青空が見えた。

 瓦礫(がれき)や土が宙を舞いガラガラと音を立てながら天羽の周りに落ちていく。

 しばらくすると、洗脳が解除されたかのように天羽の意識が戻った。


「今のは、一体……?」


 麻酔をした後のように意識がもうろうとする中立ち尽くしていると、瓦礫を跳ねのけて盾の中から出てきたレイシスは俯いたまま低い声で話しかけてくる。


「なぜ君がその特殊能力を使える……答えろ! さもなくば、君を殺すことになる」

「っ!」


 レイシスの目はマジだ、尋常じゃない殺意のオーラを天羽は感じていた。

 訳を話そうとするが言葉が浮かばない。


「いや、あの、その……」


 返す言葉に迷っていると、麻耶が盾の中から出てきて助け船を出してくれた。


「ま、待ってください学園長! どうしてそんなことをしないといけないんですか?」

「……あぁ、すまない。取り乱したな」


 その質問で我に返る。

 まさか麻耶に命を救われると思いもしなかった天羽は、少し安堵して深く息を吐いた。

 レイシスは少し困った顔で、無理やりの作り笑いをしながら答える。


「実は、さっき麗城君が見せた能力と全く同じ能力を使っていた奴がいてな……私はそいつと一度、殺しあったことがあるんだ。もう何年も前の話だけどね」

「殺しあう……」

『す、必ず……殺す! 』

「っ……!」


 さっきの記憶が(よみがえ)る。

 能力者同士が殺しあう、そんなニュースは珍しくない。

 兵器で殺すよりも能力の方が簡単で残酷だ。天羽には教会の件もあり、だから能力とは関わりたくなかった。

 目線を逸らしたレイシスは再び天羽を見て話を続ける。


「君が今使った能力は神器召喚(ゴッドブリンガー)と言って、神話上の武器や人物を召喚することができるんだ。一定時間が経つとそれは消滅してしまうが、神話の武器や人物の影響力は凄まじく、下手をすればこの世界を滅ぼしてしまう。それくらい、その能力は危険だったんだよ」


 真剣な眼差しで天羽の目を見るが、ここで一つ疑問が生じる。

 レイシスはこの能力のことを「危険だったんだよ」と過去形で言った。

 つまり、その人は能力が使えなくなったか、レイシスとの戦いで死んだと考えられる。


「そんな危険な能力を、俺が……?」

「同じ能力が使えたのはただの偶然なのか。麗城君、何か変わった事は無かったか?」


 顎に親指と人差し指を当てながらレイシスは聞いてくる。

 何か変わった事といえば、不思議な記憶が突然見えた、それくらいだろうか。


「実は、記憶が見え……て?」

「麗城君!」


 レイシスに言おうとした瞬間、急に目の前が暗くなり、天羽の意識は闇の中に落ちていった。

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