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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第二章 『境界に踏み込む者たち』
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学園生活の始まり

「……さん」


 聞きなれた女の子の声がする。

 俺を呼んでいるのだろうか?


「あ……さん……」


 体が揺れている。

 地震でも起きたのか?


「天羽さんってば!」

「……ん?」


 目を覚ますと、フェルンが必死に天羽の体を揺らしながら名前を呼んでいた。


「おはようフェルン。そんなに慌てて、どうかしたのか?」

「どうかしたのか? じゃないですよ! 天羽さんが起きないせいで、朝ごはんを食べる時間も無くなっちゃったじゃないですか! 私、必死に起こしたんですよ!」


 まさかと思いつつ、フェルンが指さすデジタル時計を見ると『am8:20』と表示されていた。

 焦った天羽はガバァッ! と掛け布団を横にどかして起き上がりながらフェルンに聞く。


「マジかよ! 学校始まるのって、確か……」

「9時に教室で朝礼です!」


 書類に書いてあったことを思い出す前に本気(マジ)泣きしそうな顔で怒鳴られ、さらに天羽は焦った。

 学園を回った時にレイシスに言われた言葉と目を細めたにやけ顔を思い出す。


『くれぐれも初日から遅刻なんてのはやめてくれよ?』


 まずい、このままでは遅刻してしまう!


 天羽は歯をみがきに洗面台へ行き、ご飯は食べる時間も作る時間も無いのでパスし、クローゼットを開けて制服を引っ張り出す。


「私服だったらこのままスッと行けるのになぁ……」


 文句を言いながらクローゼットを閉め、床に放置されたスクールバッグを持ち部屋を出る。


「早く行きましょう!」

「おう、すまない!」


 急いでエレベーターに乗り、寝ている玲を確認して並木通りを走る。

 始業までの残り時間は二十分といったところか、このまま行けば十分前には着けるだろう。

 呑気(のんき)に歩く他の生徒を抜かしながら校舎に向かって走っていると、フェルンが小石につまづいて転びそうになった。


「危なっ……!」


 転ぶ寸前で前から体を支えることが出来、なんとか転ばずに済んだ。

 普通ならここでお約束のラッキースケベが発動するが、そんなことを考えている余裕は残念ながら天羽には無かった。


「あ、ありがとうございます」

「校舎まであと少しだし、歩こうか」

「……はい」


 校舎が見えるくらいまでは近づいている。


 ここまでくれば歩いても数分で着けるだろう。


 初日早々制服を汚して教室に入ったら皆の笑われ者だ。

 それに、クローゼットの中にも制服は上下一着ずつしか入っていなかった。

 クリーニングを出すとしたら金曜日の放課後に出さないと月曜日に着るものが無くなってしまう。

 外でもそうだが、校舎で滑って転んだりしたら大変だ。


 俺は転んだ時の摩擦熱(まさつねつ)で何回か中学の制服に穴開けているしな……


「……」


 横目で見ると、さっきのことが怖かったのか、フェルンは俯いて表情を隠している。


「しっかり歩かないとまた転ぶぞ?」

「……はい」


 手をつなぐとフェルンは顔を上げ、思った通り涙目になっていた。

 しかし、こうなった原因は起きるのが遅かった天羽に非がある。

 もっと早く起きていればと後悔した。

 校舎に入ると手を放し、顔を赤くしながら天羽の隣を歩く。


 そりゃ他の生徒たちにコソコソと色々言われながらここまで来たんだ、正直なところ俺だって恥ずかしい。

 氷が入ったバケツがあれば被りたいくらいだ。


 エスカレーターを使い書類の内容を覚えているフェルンの案内で5階の教室へ向かうと、前後のスライド式ドアには『新入生初日合同教室』と書かれた紙が貼られていた。

 後ろのドアから教室に入ると席は二人用の長い椅子と机があり三行二列になっている。

 見ると、昨日集まった麻耶たちに加え、三組の知らない生徒たちがいる。


 俺たちがA組なら、あの三組はB組と言ったところか。


 席は左列の真ん中が開いており、前には麻耶と鳴子、後ろにはナンシーと瑠璃子が座っていた。

 席に座ると鳴子が後ろを向いて、


「おはよう麗城君、フェルンちゃん! またギリギリだったねぇ、麗城君寝坊した?」

「うっせぇな、たまたまだ」

「はぁ……」


 にっしっしーと笑うなるに対して、麻耶は溜息をつく。

 教室内を見渡すと黒板が前後にあり、丸い時計が前の黒板の上にある。

 教卓は丁度麻耶の前にあり、上には何も置かれていない。

 ふと時計を見ると、時針(じしん)が丁度9時を指した。

 すると、前のドアが開いて一人の女性が入って来る。

 水色の髪、ポニーテールで服装はデートに行くときに着るような大人びた白い服だった。

 女性は黒板の真ん中あたりで立ち止まると、こちらを向いて自己紹介を始める。


「一年生の皆さん、おはようございます。今日から皆さんの学年主任を務める夕霧(ゆうぎり)蒼葉(あおば)です。能力者としてまだまだ未熟な皆さんをしっかり育てていけたらと思いますので、これからよろしくお願い致します」

「「「よろしくお願いします」」」


 蒼葉は深く頭を下げて挨拶をすると、天羽たちも返事をするように挨拶をする。

 そしてここから、天羽たちの普通じゃない学園生活が始まるのであった。

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