能力を持つ者
メイドたちに四方を囲まれながら咲を先頭に巨大な校舎に入ると、そこは校舎ではなく大企業のオフィスのような内装と設備があった。
校舎内には沢山のエスカレーターとエレベーターがある。
真ん中が吹き抜けになっていて、そこを囲むように教室が並んでいる。
極めつけは、生徒も先生も美人揃いときた。
思春期真っ盛りな俺には最高のご褒美です。ありがとうございます神様!
見渡したところ自動販売機が数台に、食堂と仮眠室に総合病院まである。
普通の高校にも自動販売機と食堂はあると思うが、総合病院はやりすぎだ。その存在に能力者が関わっていることは間違いないだろう。
「ねぇ、ちょっと! もうエレベーターの前まで来てるわよ」
「うわぁ!」
急に麻耶に声をかけられ、何にとは言わないが集中していたあまり変な声が出てしまった。
先生や生徒はくすくすと笑い、注目を集めてしまったあまり恥ずかしくなり目をそらす。
「最上階に学園長がいらっしゃいます」
咲はエレベーターの横にある四角い箱の形をしたカードリーダーにカードキーをあてると、ガチャンという大きな音と共にエレベーターのドアが開いた。
「どうぞ、お乗りください」
天羽たちの乗ったエレベーターはすごい速さで上っていき、乗ってまだ数秒しか経ってないのに最上階に着いた。
目の前には金縁の大扉があり、咲が開けると遠くに座っているスーツを着た長い黒髪の女性ヴァルナ・レイシスの姿が見えた。
レイシスは立ち上がると、天羽たちに向かって歩いてくる。
「ようこそ、麗城天羽君、凛堂麻耶さん。私は聖ヴァルナ・ノワール学園の学園長、ヴァルナ・レイシスだ。よろしく頼む」
レイシスは笑顔で挨拶をして咲たちに下がるよう手で命じると、一礼をして学園長室から出て行った。
三人になったところで「どうぞ」と言って天羽たちをソファーに座らせると、レイシスも向かい合わせに座り腕を組み難しい顔をした。
「さて、と……質問は多々あるだろうが率直に言おう。なぜ、君たちをここに呼んだかというと、それは君たちが能力を持っているからさ」
「「……」」
学園長の言ってる意味が分からず天羽たちは唖然とした。
俺たちに能力は無い。
証拠は、年に一度行われる学校の能力診断で国の承認の元に結果が送られてくる。
記憶違いでないなら、俺が受け取った診断結果の能力の項目はいつも通り空白だったはず。
そう思った天羽は確かめるために勇気を出してレイシスに質問する。
「お言葉ですが学園長、能力を俺たちが持っているだなんて、何かの間違いじゃないですか?」
「毎年の診断書にもそうは書いていませんでした。私たちに能力なんて……」
麻耶も天羽の後に続いて便乗するが、レイシスは全く動じない。
「いや、君たちは能力を持っている。それは紛れもない事実だ。二人の血液から微かに魔素の反応があってね、今はまだ能力が覚醒してないだけだよ」
レイシスは涼しげにそう言うと、天羽たちの頭の中は「?」でいっぱいになった。
その様子を見てレイシスは笑みを浮かべながら立ち上がり、大扉に向かって歩き出す。
「自分たちに能力の適性がある、という証拠が欲しいのだろう? なら、一緒に行こう。ついて来てくれ」
そう言われ、天羽たちは来た時に乗っていたエレベーターに再び乗り下がっていくと、一階を通り越して地下に下がっていった。
『地下5階』と書かれたところで天羽たちは降ろされると、そこには研究室と思われる白い壁の部屋がたくさん並んでいた。
通路に面している壁の上半分はガラス張りになっていて、部屋の中の様子が見れるようになっている。部屋の広さは6レーン25mプールくらいだ。
レイシスは先頭を歩きながら天羽たちに説明をする。
「ここの階は、能力が覚醒して間もない子たちを訓練するために作られた。座学で教えることも沢山あるが、能力を正しく使いこなすためには基礎体力も必要なんだ」
ガラスの奥を見ると、腹筋をしていたり息を切らせながら走っていたりする生徒がいた。
レイシスは懐から出した携帯端末で何かを調べ始めると少し笑みを浮かべ、
「ちょうど能力の使用訓練を行っている生徒がいるようだ」
と、さらに奥へ歩いたところに窓が無く大きな扉のみがある部屋が見えた。
この部屋はドラマでよくある手術室のように上から見下ろせるような作りになっているらしく、天羽たちはそこで見学することになった。
ドア横にある階段を上りガラスが張られた見学用の部屋から中を見下ろすと、中央には体育着姿の少女と壁際に先生らしき人物が立っている。
少女は銀髪のツインテールで赤色の目、小柄で可愛い女の子だ。
しばらく見ていると、彼女はそっと瞳を閉じた。
「始まるよ」
レイシスが真剣な目をして言うと、少女の足元に赤黒い魔法陣が形成されていく。
「創造の世界、煉獄の大地」
少女が静かにそう言うと、途端に少女の立っている床が赤くなり氷のように溶けだした。
見学用の部屋で見ている天羽たちにもその熱が伝わってくる。
「これが彼女、フェルン・ヴァリオスの能力、煉獄の大地だ」
「フェルン……?」
「どうかしたのか?」
「いや、別に」
天羽には、フェルンという名前に聞き覚えがあった。
昔、天羽が孤児院の教会にいた頃に連れてきた黒髪の少女に付けられた名前……でも、彼女は銀髪じゃなかったし、ヴァリオスなんていう名前でもない。
そもそも、その教会は五年前の襲撃事件で無くなり、天羽はそこから逃げてきた。知っている限り、生存者は天羽しかいない。
この事件は、裏で他国の政府が関わっていたと言われていたが、地上波のニュースに取り上げられることはそれっきり無くなった。
人違い、だよな?
レイシスはフェルンの能力を見てうんうんと深く頷く。
「それじゃ、能力を見たことだし君たちの能力も覚醒させよう。地下七階に専用の実験施設がある、こっちだ」
そう言って部屋を後にすると、天羽たちは早歩きをするレイシスについて行き地下七階の実験施設に移動した。