学園生活
レイシスの後ろにあるモニターには授業の時間割が表示され、黒い指示棒を伸ばしてモニターに当てながら説明を始める。
「まず、授業がある日は月曜から金曜で、土曜と日曜は基本的に休みだ。たまに呼び出して補講等を行う時もあるけれどね。授業内容は一般的な高等学校とさほど変わらない。ただ、君たちは能力を持っている。その気になれば人を殺すことも容易い。だから、ちゃんと正しく能力を使えるようにするのと、使うようにするための体力を鍛えてもらわないといけない。一般的に体育と呼ばれる授業が能力関係の授業になっている。ここまでで質問のある人は?」
「はい」
手を挙げたのは、さっきから真面目にメモを取っていた瑠璃子だった。
天羽はと言うと、ノートとシャーペンを広げただけで一文字も書いていない。
レイシスが指を指すと瑠璃子は立ち上がり質問する。
「授業をする先生はどういった方なのでしょうか? 一般人の先生なのか、能力を持った先生なのか、教えていただけますか?」
「普通科目を教える先生は外部の人、つまり非常勤講師なんだ。能力についての理解と知識はあるが、彼らは能力を使えない。でも、さっき言った体育の代わりとなる授業……特別演習と言うのだが、それだけは能力を持った先生たちが複数人で教えている。何かあったらのためにも、能力が使える人がいないとダメだからね」
「わかりました、ありがとうございます」
瑠璃子は一礼をしてから席に座り、レイシスは話を進める。
「授業の時間割は、当たり前だけれどクラスごとに違う。教室はこの校舎の五階にあるよ。君たちはAクラスで504教室だ。そして、君たちは明日から聖ヴァルナ・ノワール学園の一年生となる。この学園では一年生から三年生まで高等教育を、四年生から七年生までは専門教育を受けてもらう。ここで言う専門教育とは、君たちが持っている能力の教育の事を言う。さっき非常勤講師が普通科目を教えるって言ったけれど、専門教育では全ての授業を能力を持った先生たちが教えるんだ」
モニターに手を触れて上に動かすと画面が切り替わり、フローチャートが表示された。
「一年生から三年生まで高等教育を受けるから、その後は学園を出て普通の大学に通うこともできる。私から受験する大学に連絡を入れるんだ、うちの生徒があなたの学校を受けに行くってね」
「あの、質問です」
話の途中で手を挙げた麻耶を指示棒で指すと、立ち上がり質問をする。
「その……四年生に上がる時に入学試験みたいなものはあるのですか?」
「良い質問だね凛堂さん。本学園で三年生から四年生に上がることを希望した場合、試験等は一切なしで四年生に上がれるんだ。理由は、専門教育を受けたいという生徒に対して大学のような試験をしても仕方がないからね。専門教育で行う授業は普通の授業と全然違う。君たちがこれから受ける特別演習の授業をもっと突き詰めたような授業をする。だから、試験をやってもあまり意味が無いってわけだ」
「ありがとうございます」
「これで授業内容と、学園の仕組みについて分かったと思う。わからないことがあったら個別に後で私に聞くと良い。次に学園の行事についてだ」
一礼をしてから席に座ると、続いて行事について話を始める。
「まず、皆知っているだろうが、一番大きい行事として学園対抗の魔闘大会がある。これは、本学園と同じく能力者が集められている学園が他に三校あり、お互いの生徒同士を対決させて能力向上を図ろうという行事だ。毎年一回夏に行われ、開催場所や細かい日にちは各学園長が集まり話し合いで決める。その三校の学園の名前はディヴィアント学園、岸波斑鳩女子学園、ダグラス・クロウリー学園だ」
モニターに手を触れて上に動かし、各学園の名前とそれぞれの特徴等を映し出す。
「最初はディヴィアント学園について話そう。学園長の名前はグレゴリオ・ディヴィアント。特徴は、能力に関してありとあらゆる研究をしている最先端の学園……なのが表の顔だが、実際は生徒を命令のまま動く能力戦闘員に育てていること。グレゴリオ学園長は何をするか予想がつかないから、この中で一番警戒されている学園だ。君たちもこの学園の者と接触するときは気を付けるように」
「なんだか、不気味だね」
映っているディヴィアント学園の写真には、鳴子の言う通り青黒くて気味の悪い高層ビルが立ち並んでいた。
まるで闇が学園に取り付いているような、そういう表現が正しいだろう。
レイシスは再びモニターに手を触れて上に動かす。
「次に岸波斑鳩女子学園。学園長は岸波雄山と斑鳩ひつぎの二人だ。元々は岸波学園長だけだったが、女子学園のため女性の学園長が欲しいとのことで、当時副学園長だった斑鳩ひつぎを二人目の学園長として特例で就任させた。この学園の特徴は、生徒同士の仲間意識がとても強い事だ。女子学園ということもあって、各学年にお姉さまと呼ばれる特別な人もいるらしい。そして、一番すごいのは岸波学園長だ」
モニターに手を触れて横に動かし画面が切り替わると、青地に白が混ざった浴衣を着た白髪の男性雄山が映る。
「岸波学園長は、世界で六人しかいない七竜王との契約者なんだ」
「七って言っているのに六人しかいないんだね」
「斎藤さん、良いところに気が付くね。そう、そもそも皆は七竜王の存在を知っているか?」
「「「……?」」」
皆が互いの顔を見て沈黙する中、天羽とフェルンは別の沈黙をしていた。
二人には一体だけだが、思い当たる竜がいた。
体が蔦で作られた大樹のような竜、
「ゼビルズ……」
「……っ!」
天羽がその名を口にした瞬間、レイシスの目つきが変わった。
七竜王とは世界を統率する存在の一つと言われている。
ゼビルズと同じであれば竜は巨体であるが、実際にその姿を見た者は少なく運よく見つけ出し契約することが出来れば、無能力者でも国の一つや二つを簡単に支配出来るほどの力を持つとされている。
その結果、契約したい者たちが七竜王の目撃情報等を金で取引している始末だ。
アルマが契約していた竜がそのうちの一体、大樹の王・ゼビルズであり、教会襲撃の目的も竜に絡んでいたと天羽は考えている。
すると、フェルンの質問をかき消すように、レイシスはまたジークの能力を使ってしまった時のような低い声で質問してくる。
「天羽さんは、やっぱりあの時の……」
「その名前、どこで知ったんだい? 七竜王の情報の殆どは公には出回らない。ましてや名前まで知っているなんて……君は一体何者なんだい?」
「……俺は、ただの学生です」
「そうか……いやすまない、ただの確認さ」
その時、レイシスは一瞬だけフェルンを見た。
まるで、フェルンの事も天羽の事も全部わかっているかのような目つきだったのだ。
同じ寮室になったのも偶然ではなく、学園長とフェルンが仕組んだ必然だったのか?
考えていると、レイシスは指示棒でモニターを軽く叩き注目を集める。
「話を戻そう。七竜王とは、この世界を作ったとされている実在する竜の総称なんだ。その中でも岸波学園長は水を司る七竜王の一翼、腐潮の王・ニヴィンとの契約者だ。能力はその名の通り腐食と水を操る。岸波学園長はとてもお優しい、岸波斑鳩女子学園に行く際は聞いてみると良いだろう」
もう一度モニターに手を触れて画面を戻すと岸波斑鳩女子学園の校舎の写真が映る。
瓦屋根に障子窓と全体的に和のような雰囲気で、高級旅館と間違えてもおかしくないような風情のある学園に見えた。
レイシスは皆が見たことを確認すると、モニターに触れている手を上に動かして続ける。
「最後はダグラス・クロウリー学園。この学園の特徴は、能力の歴史についての研究が盛んに行われていることだ」
ダグラス・クロウリー学園は、とても不思議な雰囲気を醸し出していた。
写真を見ると、大きな白い塔と校舎と思われる白と金に輝く宮殿のような建物が映っている。
近代的、昔風と来て、これは幻想的だ。
雲一つ無い青い空がやけに美しく見える。
まるで、学園が空を飛んでいるかのようだ。
「そして、学園長はダグラス・クロウリー。この女は性格こそ温厚だが、油断の出来ない特別な能力の持ち主だ……」
レイシスはモニターに手を触れ横に動かすと、二十二枚の縦長の絵を表示させながら話を続ける。
「君たちはタロットカードというものを知っているか?」
「んーと、アルカナ? って言われていて、占いとかでよく使われてるやつっすよね?」
「そうだ」
質問に答えたのは、腕組みをして聞いていた鳴子だった。
「斎藤さんの言う通り、今ではタロットカードは占いによく使われている。そして、このダグラス学園長はそのタロットカードを使う、七竜王と同じくらい特別な能力者なんだ」
「タロットカード……」
ルネスからはタロットカードの能力を、森羅万象を司る危険な能力とだけ教えられていた。
天羽はタロットカードの能力者と直接会ったことは無いが、使用できる能力は尖ったものが多いらしい。
レイシスは何故か天羽を少し見てからモニターに目線を移し話を続ける。
「タロットカードは全部で22枚存在し、同じく能力の使用者も22人存在する。この学園にもタロットカードの能力を使える者が一人だけいるが……このダグラス学園長はタロットカードの中で最強と言われている世界の能力を使えるんだ」
「世界……?」
「能力は全てを完成させる。つまり、自分の思うように世界を操ることが出来るんだ」
「いや、学園長。つまりって言われても意味が分からないっす……」
「そうだな」
天羽同様、皆はジト目で質問する鳴子に同情した。
これでもわかりやすく説明しているのだろうが、全く意味が分からない。
レイシスは腕を組みながらダグラス学園長の能力を説明する。
「例えば、犬を飼っていて急に猫を飼いたいと思ったとする。その時、世界の能力を使うと、犬が猫に変化して自分は最初から猫を飼っていたことにすることが出来るんだ。もちろん、その人が犬を飼っていることを知っている人の記憶も上書きされる」
「それ、やろうと思えば世界も自分の思うままじゃないっすか?」
「今のところそのようなことは起きていないけれどね。ただ、そういうことをやらないとは言い切れない。交流する際はこのことを覚えておいてほしい」
レイシスはそう言うと、腕時計を見てからモニターを消し指示棒を短くしてから胸ポケットにしまう。
「私はもう席を外さなければならない。皆、今日は集まってくれてありがとう。ここはまだ使ってもらって構わないから、出る時にここの電話でメイドに連絡してくれ」
「残ってもやることがなぁ……」
「顔と名前は覚えただろうから、私としては少しお話でもして交流してから帰ってほしいな」
「ソーユーことなら、皆で何かスル?」
「そうしてくれると助かるよ。それじゃ、お先に失礼する」
「「「ありがとうございました」」」
出ていくレイシスに一礼をしてから皆の方を見る。
何かをするといっても何も思いつかない。
仕切り役がいてくれたらなと思っていると、ナンシーと鳴子が率先して動いてくれた。
「とりあえず、机どかして円になって座ろうよ」
「良いですネー! さ、皆集まっテ!」
言われた通りに机をどかし椅子を真ん中に持って行き座ると、皆と顔を合わせ何をするか話し合う。
「それで、皆で何をするんだ?」
「うーん、六人で出来ることだよね。麻耶何か思いつく?」
「私に振るの!? えと……ごめんなさい、私も思いつかないわ」
「あ。なら、王様ゲームをしまショウ!」
「「「王様ゲーム?」」」
ナンシーの提案に天羽たちは少し考えたが、隣に座っているフェルンは天羽の服の裾を掴んでやりたそうな目線を送っている。
ま、何も思いつかないし良いだろう。
天羽は小さく頷いて皆に言った。
「俺は良いと思う。フェルンもやりたいみたいだしな」
「……!」
フェルンは喋らずに小刻みな頷きだけで自分の感情を皆に伝える。
それにナンシーは喜び、グッドサインを二人に送る。
「天羽君とフェルンちゃんは賛成ネ、三人はどうかナ?」
「うん、良いんじゃない? とりあえず王様ゲームで」
「私も構わないわ」
「……でしたら、私も構いません」
「決まりだネ!」
そうして天羽たちは、ナンシーの意見で王様ゲームをすることになった。




