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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第一章 『揺らぐ気持ち』
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ご一緒に……

「……」

「……すー」

「……んお?」


 目を覚ますと、窓の外には綺麗(きれい)な星空が見え、テレビからは夕方の情報番組が流れている。


「昼寝しちまったか……いや、もう昼寝ってレベルじゃないな」

「……ん」


 天羽の正面には、気持ちよさそうに寝ているフェルンがいた。

 テレビ台にある時計を見ると、もう夜7時になるところだった。


「起こすのは……飯を作ってからでいいか」

「……」


 肩に手を当てる寸前で止めてキッチンのほうに向かい、適当な魚と野菜を取り出し調理していく。

 魚に塩と胡椒(コショウ)を振りかけフライパンで焼いていると、カウンターの影からフェルンの声が聞こえる。


「天羽さん……?」

「匂いに釣られて起きたか? 夕飯作っているから先に風呂でも入ってこい」

「わかりました」


 フェルンは立ち上がってふらふらと寝ぼけながらも風呂場に向かった。

 黙々(もくもく)と料理を続けて焼き魚と軽めの野菜炒めが完成する。

 魚のお供と言ったらご飯だが、炊飯器の中身は当然空だ。

 せめてと思って豆腐の味噌汁を作っていると、水色の寝間着に着替えてバスタオルを首にかけたフェルンがやってきた。


「作り終わったものを運んでくれないか、これとこれな」

「はい、お箸と飲み物も出しておきますね」

「ん、頼む」


 小さな手でこたつに運んでいくフェルンを見ながら、味噌汁の味を確認して器に分ける。

 味噌汁両手に行くとフェルンは窓側に座っていて、天羽の分の料理は先ほどまでフェルンが寝ていたところに置かれていた。

 テレビを見やすくするためという気遣いだろう。

 とりあえず、フェルンの前と自分の前に味噌汁を置いて座布団に座る。


「「いただきます」」


 手を合わせて箸を取り魚を口に入れるフェルンは、昼間と同じような笑みを浮かべながら、魚の骨を上手によけて野菜と交互に食べている。

 

「「ごちそうさまでした」」


 食器をシンクに置いて皿洗いを済ませ、天羽は風呂をいただくことにした。

 しかし、寝間着は持っておらず下着も今着ているやつしかない。

 風呂場の正面にある寝室に何かあるはずだが、既にフェルンの部屋になっているなら踏み入れて良いものか迷っていた。

 手を(あご)に当ててフェルンを見ていると、気が付いて目線を合わせる。


「どうしました?」

「いやな、風呂に入りたいのだが……」

「……あぁ、着替えですね。少し待っていてください」


 そう言うと、フェルンは例の部屋に行って白に黒のラインが入ったジャージの上下と下着とタオルを持ってきてくれた。


「寝室のクローゼットに色々と入っていました。天羽さんに合えばいいのですが」

「あぁ、ありがとうなフェルン。じゃ、風呂入ってくるよ」

「はい、ごゆっくり」


 着替え一式をフェルンから受け取り風呂場に行き、今着ているものをドラム洗濯機の中に入れて浴室のドアを開ける。

 中に特別な物は無いが、湯船は肩まで浸かり余裕で足を伸ばせるくらいの大きさだ。

 シャワーを浴びてから湯船に浸かると、気持ち良すぎてついオヤジ臭い言葉が出てしまう。


「気持ちいなぁ。疲れが吹っ飛ぶぜ……」


 色々あって風呂にも入れなかったし、体中に汗が染みついていて気持ちが悪かった。

 両腕を上にあげて前髪と共に頭の後ろに持っていく。


「今日はいい夢が見れそうだな」


 鼻歌混じりに独り言を言っていると、何故か浴室のドアが開く音がした。


「天羽さん、お背中お流しします」


 入ってきたのはボディタオルを片手に持つフェルンだった。

 よいしょと言ってドアを閉め湯船の前に立つと、天羽をじっと見つめてきた。


「なんで?」


 あまりの出来事に頭はついていけない。

 天羽の質問にフェルンは首をかしげて答える。


「一緒に住むのですから、これくらいは普通の事だと聞いたのですが」

「それ誰に聞いた?」

「レイシスです!」


 即答だった。


 あの学園長め、フェルンになんてこと吹き込んでやがんだ……!


 深く考えると頭が痛くなりそうなので、天羽は溜息をついた後、大人しくフェルンに従うことにした。

 前をタオルで隠しながら湯船を出て、シャワーの前にある椅子を自分の方へ寄せて座る。


「それじゃ、よろしく頼むよ」

「はい、頑張ります!」


 フェルンは鏡に吸盤でくっついているソープディッシュ上の固形石鹸をボディタオルにつけて泡立て、俺の背中をゴシゴシと洗う。


 気持ちがいい。

 でも、フェルンの吐息が首元に当たってくすぐったい。

 それに、なんかハァハァ言ってて色っぽいし……って、ダメだ! こんなところ神崎さんに見られたら大変なことになるぞ!


 見えないのに玲がいないか周囲を見ていると、フェルンがお約束のような質問をしてくる。


「お背中、気持ちいいですか?」

「え? あぁ、気持ちいいよ」

「それは良かったです」


 鏡越しに見えるフェルンの笑顔につられて天羽も笑顔になった。

 洗い終えると、背中にお湯をかけて泡を洗い流す。


「どうでしたか、上手く出来ていましたか?」

「上手く出来ていたよ。ありがとう」


 実際にやってもらって気持ちよかったし、上手く出来ていたと思う。

 フェルンは褒められた事が嬉しかったのか、そそくさと浴室を出て小刻みに腕を振っていた。


「さっさと出て寝るか。多分というか絶対そうだろうけど、眠いしもう一緒の布団でも良いや」


 全身を洗って髪を乾かしリビングに行くとそこにフェルンの姿は無く、少し待つと寝室からフェルンが出てきた。


「お布団の準備をしていました。整っていますのでいつでも寝れますよ」

「もしかして、ベッドが二つあるのか?」

「はい。二人用の寮室ですから」

「そうなんだ」


 天羽はなんだか残念なような嬉しいような複雑な気持ちになった。

 フェルンと一緒に寝室に行くと天羽が思っていた以上に広く、宿泊施設にあるようなシングルベッドが二つ置かれていた。

 見ると他には小型の照明や時計等が置かれていて、フェルンの私物と思われるものは何も見当たらなかった。


「良い感じに眠くなっているから、俺は歯を(みが)いて寝るとするよ」

「そうでしたら私も寝ます」

「フェルンはまだ起きていても良いんだぞ?」

「いえ、私も眠くなってきましたので」

「そうか」


 二人で洗面台に行き歯を磨いて寝室に戻ると、天羽は奥側のベッドに寝転ぶ。

 もう一つのベッドで横になっているフェルンに一言だけ言って寝ようとすると、フェルンが俺の方を見て恥ずかしそうに頼みごとをしてきた。


「あの、今日はこちらで寝ていただけませんか?」

「ん? 場所を交換しろって事か?」

「そうではなくて、その……一緒に、隣にいてほしいんです」

「……」


 笑みを浮かべながら天羽は黙ってフェルンの布団に入り、向かい合わせになるように横になった。

 恥ずかしがって視線を逸らすフェルンの頭を撫でると、安心したように抱き着いてきた。


「ありがとうございます」

「……おう」

「……」


 背中を優しく叩いていると、フェルンはすぐに寝てしまった。

 すると、どこからか視線を感じたが、気にしないで天羽も寝ることにした。

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