お湯に流します
蓮の部屋から帰り鳴子がいる寮室のドアを開けると、左側にある浴室の中から声が聞こえた。
「麻耶、帰ってきたのー?」
「ええ、帰ってきたわよー」
聞こえるように靴を脱ぎながら少し大きめの声で返答すると、鳴子は浴室から前を隠さないまま裸で出てきた。
「一緒に風呂入ろうぜ!」
「え……って、うぁあああ!? 」
麻耶は驚きのあまり足を滑らせ転んでしまい、
「ふぎゃっ……!」
「大丈夫、麻耶?」
転んだ麻耶の上に裸の鳴子がのぞき込んできた。
「いいから、前隠しなさい! 前!」
「えー、女の子同士なんだから気にしなくていいじゃん?」
顔を手で隠しながら注意するが、鳴子は不思議そうに首をかしげ、顔を隠している手を掴み無理やり浴室に連れていく。
「ほら、一緒に風呂入るよ! 脱いで脱いで!」
「え、あ、ちょっと!」
あっという間に服を脱がされ、いつの間にか麻耶たちは向かい合うように浴槽に入っていた。
浴室内には、この通り二人が余裕で入れるような浴槽に、横に長い鏡が麻耶たちを映している。
ボディソープやシャンプー類は鳴子が買ってきたものだろうか。
色々ありすぎたせいで途中で見るのを止め、麻耶は深い溜息をつく。
「はぁぁぁ……」
「?」
鳴子はくつろぎながら麻耶を不思議そうな目で見ていると、ゆっくりと口を開いた。
「……話し合いはどうだった?」
「……っ!」
質問に体がビクッと反応すると、麻耶は湯船に映る自分を見ながら答えた。
「うん……私の聞きたかったことは聞けた。でも、まだ気になる所はあるかな」
「そっか」
兄さんと会って思ったけど、やっぱり何か変だった。あれから時間も経っているし、自然なことなのかな。でも……
そんなことを考えていると、突然鳴子が頭を優しく撫でてくる。
「頑張ったね、えらいえらい」
「……ありがと」
麻耶は無理やりな笑顔でそう答えた。
しばらくすると、鳴子が浴槽から出てこちらを振り返る。
「体、洗いっこしようぜ!」
「……しょうがないわね」
少し呆れながらも、お互いの体を洗いあった。
洗いあったと言っても背中だけ。
前も洗ってやるよと言われたが、さすがに恥ずかしいと思い麻耶は拒否した。
「嫌なことは水に流しましょー、なんてねっ」
鳴子は麻耶の頭の上から、風呂桶に溜めたお湯を勢いよく流す。
麻耶もお返しと言わんばかりに、お湯を勢いよく流した。
浴室から出てバスタオルで体を拭いていると、大事なことを思い出す。
「そういえば私、替えの下着とか洋服が無いわ」
「大丈夫だよ。寝間着とかは寝室のクローゼットに入っていたから」
そう言って、鳴子は軽く足を拭いてからまた裸のまま外に出て寝室から服類を持ってきた。
「とりあえず今日はこれを着て、明日にでも外で好きなのを買ってこようよ」
白地の下着とバスローブを渡され、麻耶は仕方なくそれに着替えた。
鳴子の寝間着はというと……
「……なるって、寝るときは下着だけなの?」
「うん? そうだけど、どうかしたの?」
「あぁ、そう……いや、何でもないわ」
世の中にはそういう人もいるって聞くし、仕方ないわよね。
麻耶は全てを諦め受け入れることにした。
「それじゃ、リビングでお茶飲みますか」
鳴子は下着姿のままリビングへ行き、二人分のコップに麦茶を入れテーブルに持って行く。
麻耶は鳴子のように髪が短くないので、乾かすために一人洗面台付近でドライヤーを探していた。
しかし、洗面台の扉の中等を探しても見当たらないので、リビングにいる鳴子に聞こえるように質問する。
「なるー、ドライヤーがどこにあるか知らない?」
「ドライヤー? うーん、わからないなぁ……洗面台の扉とかに入ってないの?」
「入ってないわ」
「……寝室にもリビングにもそれらしきものは見当たらないよ」
遅れて聞こえてきた声に、絶望にも似た感情が沸いた。
タオルで拭いただけじゃ髪が痛んでしまう。どうにかしてドライヤーを手に入れないと……
洗面台の前でどうするか考えていると、鳴子がこちらに来てこんな提案をしてくれた。
「じゃあさ、メイドさんに聞いてみたら? ドライヤーありますかって」
「あ……そうね」
麻耶は少し考えてからその提案に乗り、リビングにある電話機で電話を掛けメイドに聞いてみることにした。
電話機の横にはホテルの電話表のようにラミネート加工された紙があり、そこに『メイドに御用の方→0001』と書いてあった。
その番号に電話を掛けて五秒もしないうちにメイドが出て、ドライヤーがどこにあるのか教えてもらう。
麻耶は教えてもらった場所を探すと、確かにドライヤーが見つかった。
「あった! でも、これ普通気付かないわよ……」
「こんなところにあったんだね」
クローゼットの中はハンガーラックの横に引き出し型洋服箱が三段あるのと、その上に十センチ程度の高さの棚に分かれている。
メイドから聞いたドライヤーの場所とは、その上の棚の奥だったのだ。
引き出し型洋服箱の中には下着類が、この学園の制服が掛かっているハンガーラックの方には端に掃除機が置かれている。
その他、日常で使うような延長ケーブルや照明の変え等はドライヤーと一緒に上の棚にあった。
とりあえず目的のドライヤーのみを引っ張り出して、クローゼットの扉を閉めてから洗面台へ戻る。
「見つかった事だし、髪を乾かしましょ」
「じゃ、私はリビングでテレビでも見ますかね」
ドライヤーの音でほとんど聞こえないけれど、笑い声が聞こえるからお笑い番組を見ているのだろう。
髪を乾かし終わってリビングに向かうと、予想の斜め上を行く映像がテレビに映っていた。
「何見ているのなる……ひっ!」
「麻耶見てよこれ、幽霊にすごくビビっているよこの人! はーはー……お、お腹痛い、いひ、ふひひ、あはは!」
鳴子が見ていたのは心霊番組だった。
芸能人が廃墟の病院に行って幽霊の写真を撮るという企画らしい。
実は、麻耶は幽霊とか妖怪とかがすごく苦手だ。
どれくらい苦手かというと……
「あ、あ……あ」
「あはは……あれ、どうしたの麻耶? おーいってば、麻耶! もしもーし、聞こえてますかー?」
腰を抜かして気絶してしまい、鳴子の声は聞こえなかった。
「え、ちょっとマジで!? だ、誰かー!」
それからというもの、鳴子は慌てて病院に連絡しリリエル含む夜勤の先生方が急いで来てくれたが、気絶しているだけだと呆れて帰ってしまわれた。
そして、麻耶が意識を取り戻したのは翌日の朝でした。




