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普通の学園生活って何ですか?  作者: 有木千夏
第一章 『揺らぐ気持ち』
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理由

「さ、上がりな、麻耶」

「おじゃまします……」


 蓮の部屋は811号室で、間取りは麻耶の部屋と同じだ。

 リビングの白いテーブルの上には、白身魚のムニエル、ご飯、みそ汁、サラダが二人分用意されていた。

 美味しそうと思いつつも蓮を警戒する。


「温かいうちに食べよう。メイドが作ってくれる料理は美味しいからね」

「メイド?」

「事前に頼めば作ってくれるんだよ。俺の作った料理では警戒されかねないからね」

「……」


 蓮はテーブルの下の椅子を引っ張り出して腰掛け、麻耶もテーブルの下の椅子を引っ張り出し腰を掛ける。

 料理からは湯気が出ていて、とっても良い匂いがする。

 嗅いでいるだけで、口の中が唾液でいっぱいになった。

 目を閉じて手を合わせて、


「いただきます」

「……いただきます」


 ちらっと麻耶をにやけ顔で見てくる蓮は箸を持ち料理を食べ始め、それを確認してから箸を持ってムニエルを口に運ぶ。

 すると、魚はすぐに口の中でほぐれ、ソースの味もしつこくなくて完璧。これ以上ないくらいに美味しい。

 みそ汁にはあさりが入っていて味の濃さもあさりの味を邪魔せず丁度良く、サラダには胡麻(ごま)ダレがかかっていて箸が進む。

 料理を食べ終わる頃には、蓮は既に開いた自分の食器を重ねていて、麻耶の顔をずっと見ていた。


「美味しかったろ、お腹はいっぱいになったか?」


 蓮は笑って話しかける。


「うん、なった……」


 麻耶は箸を止めて顔を下に向けながら答えた。

 どうしても顔を合わせて話が出来ない。

 怒りとかもあるけれど、麻耶は蓮に照れてしまっているのだ。


「食器を片付けてもらおう。もしもし、俺だ……」


 蓮は浴衣の袖からスマートフォンを取り出し電話をすると、1分も経たずに部屋のインターホンが鳴る。

 ドアを開けに行くと、昨日病院で会ったフェティーが入ってきた。

 フェティーは麻耶に小さく手を振って食器を外に運び、テーブルをきれいに拭いてから一礼をして部屋を出て行った。

 蓮は出て行くのを見送ると、再び席について腕を組む。


「さてと……それじゃ話をしようか、麻耶」

「ええ、そうさせてもらうわ」


 麻耶は蓮を睨むが、心は冷静でいるように意識する。


 兄さんは能力で私の考えていることはすぐに分かるはず。

 でも、今だけはその能力を使わないで欲しい。

 今だけは私の口から言いたい……いや、言わないといけない。


 そう考えていると、蓮が口を開く。


「先に言っておく、俺は能力を使わない。麻耶の口から聞かせてくれ」

「……なんで家を出て行ったの?」

「俺も麻耶たちと同じさ。素質があるって言われてこの学園に呼び出されたんだ」


 麻耶の問いに表情を全く変えず、真剣な目で見つめる。

 嘘は言ってないと思ったので、麻耶はこのまま話を続けた。


「なら、なんで私は兄さんが出て行ったなんて母さんから聞かされたの? 誤解を生まないような、もっと別な言い方もあったはずじゃない!」

「あえてそう言うように、俺が父さんと母さんに頼んだのさ」

「頼んだってどういう事よ……父さんと母さんも兄さんが出て行った理由を知っていたって事!? なんで私には……!」


 麻耶は感情のあまり椅子から立ってしまった。

 蓮は麻耶を見上げ申し訳なさそうな顔をする。


「俺の説明不足だったな。すまない」

「……ッ!」


 頭を下げる蓮を見て椅子に座り直し、呼吸を整えてから改めて話を始めた。


「ちゃんと最初から説明して」

「わかった」


 蓮は再び腕を組み、真剣な顔に戻る。


「俺はその日、学校には行っていなかった。前日に須藤校長から呼び出され、学園に来てほしいという伝言を受け取ったんだ。疑念は色々とあったが、次の日に学園に行くことにした。学園に着くと正門の前にはメイドが五人いたんだ。名前を聞かれ答えると、すぐに学園長室に案内された。俺は学園長と挨拶を交わし、能力を使えるようにするために地下室へ連れていかれた。そこで開花した能力が心読み(リーディング)というわけだ」


 蓮の目に嘘の文字は無いように見えた。


 今のところ話の内容は私たちと同じだ。でも、私が聞きたいのはこんな話じゃない。


 蓮は表情を変えずに話を続ける。


「それで、俺が出て行ったと言っている件についてだが……俺が能力者である以上、この学園に留まる必要があった」

「どういうこと?」


 麻耶はわざと威圧感を出しながら聞くと、蓮は不思議そうに答えた。


「知らないのか? 学園のルールで能力者は基本、学園外に出れなくなるんだ。出るにしても条件が厳しいし、帰りたくても帰れなかったというのが正しい」

「そう、なんだ」

「それで、父さんと母さんには学園側から連絡が行っていたみたいだが、その時学校にいた麻耶にだけは連絡が行っていなかったんだ。俺はそれを知って、父さんと母さんに麻耶に教えないように頼んだ」

「……どうして?」

「もし、麻耶がこの理由を知ってしまったら、意地でもこの学園に来たがると思ったからだ。あの頃の麻耶はよく俺の後ろについてきていた。学校に行くときも途中まで一緒、俺が遊びに出かけるときでもついてこようとしていた。だから、このままではいけないと思った俺は、これを機に俺から麻耶を離れさせようとしたんだ。俺がいなくても生活できるようにね」

「……」


 蓮の言葉に言葉を失い俯いてしまった。

 実際、あの頃の蓮は友達がいなかった麻耶の遊び相手になってくれていた。

 そして、麻耶はいつも蓮の後ろを歩くようになり、麻耶のそばに蓮がいることが普通になっていた。


「麻耶にはつらい思いをさせてしまったね、ごめんな」


 蓮の優しい声と言葉で泣きそうになったが、バンッとテーブルを叩くと同時に席を立ち玄関に向かう。


「ごちそうさまでした……」


 そう言って玄関のドアを開けようとした瞬間、後ろから(つる)の形をした折り紙が飛んできて捕まえた。


「俺の電話番号とメールアドレスが書いてある。何かあったら連絡するといい」

「わかったわ……」


 麻耶は折り紙を片手にドアを開け、途中で少し涙を流しながら部屋に帰った。

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