ゆめの夢「大勇者」
三題噺『悪魔』『橋』『真の城』
登場人物
ゆめ(女子高生)
真白(女子高生)(友情出演)
「お姉ちゃん、勇者でしょ」
と、藁葺きの家屋の中で、小柄な黄色髪の少女はゆめにたずねた。
たずねた黄色髪の少女は言う。
「だってお姉ちゃん、鎧を着てるし剣を腰に下げているし綺麗な顔をしているんだもの。
もしも女子高生だったらノーメイクでインスタに自撮りを上げても炎上しないくらい麗しい顔つきをしているもの! 絶対に勇者よ!」
そこまで言われたゆめは、自分が勇者であることを疑わなくなった。
「そうだよね! 私は勇者。女子高生とは仮の姿だったのだ! あっはっは」
まるでテントみたいに小さな家を壊すくらいの大声でゆめは笑った。
小さな家にはどこかの民族が模様を描いたお皿や家具、布編みの絨毯がある。それと、ゆめが座るベッド。
ゆめに対して跪く少女。
「お願い、勇者様。悪魔を倒して欲しいの」
「いいよ。どこにいるの?」
軽い勢いで引き受けた勇者ゆめ。
「この街を出て三里ほど歩くと森を抜けるわ。そこのお城に棲みついた怪物が、ときどきわたしの弟を泣かすんです」
「あ、村を壊すとかじゃないんだ」
「そんなことをしたら村の大人が黙っていませんから。わたしの弟を泣かすのが関の山の怪物です。わたしはそいつを悪魔と呼んでいます。お願いします、勇者様――」
「うん、いいよ。その悪魔をこらしめればいいんだね! 弟君のために頑張るよ!」
そう言って、ゆめは三里を歩くことにしました。
三里がいくらの距離かわからないゆめは、わからないので三里は一キロに満たないことにしました。
それでも長いと感じたので、城は村の目と鼻の先にあることにしました。
「やいやい、悪魔!」
村の目と鼻の先にあったお城は、湖の上にありました。湖の中心のお城はとっても大きく、なんかもう、すっごく大きいのです。
その大きなお城を見て、ゆめは探索するのが面倒だと思いました。
ゆめがそう思うと、湖と村の岸辺を繋ぐコンクリートの橋に、黒い兎が現れてくれました。
「どうも、ブラックラビットです。皆からは黒兎だからくろうさと呼ばれています」
「いい名前だね」
「どうも」
「やいやい、黒兎。お前があの嬢ちゃんが言ってた悪魔だな。黒いし。全くもう、年下の子を泣かしちゃいけないんだぞ!」
ゆめは剣を抜きました。刀身の白い部分が日光を反射してきらりと光りました。
黒兎は陽の光が嫌いだったから。素直にあやまりました。
「ごめんなさい、なんのことかわからないけれど、もうしません」
「うんうん、やったね、一件落着。ゆめってば大勇者なのだ!」
ゆめはにこやかに笑いながら、剣を腰にしまいながら来た道を戻しました。
小さい頃に読んだクレヨンの物語みたいな家々を目端に情報として捉えながら、ゆめは少女の家に戻りました。
「もうしないって、くろうさちゃんが言ってたよ」
そうゆめが言うと、少女は首を振る。
「くろうささんはいい人です。引きこもりですけどいつも湖畔から収穫した最新の白身魚を村に分けてくれるんです」
「兎って魚を獲れるんだ?」
「いいえ、獲れません。魚を獲るのが私の言う悪魔――シャークマンです」
「ああ、シャークマンの間を取ってアクマね。文字だと伝わらなそうだ」
ゆめはそっかーちがったかーと全然何も悔しそうな態度は見せず、
「ほんじゃまた、ちょっくら行ってくるぜ!」
と、真の城主に会いにいきました。
村を出て、お城。
お城の橋の上で、悪魔を呼ぶゆめ。
「あーくーまーさん、お嬢ちゃんの弟くんを泣かしたあーくーまーさん」
ゆめがそう言うと、橋の下の湖畔から泡がぶくぶくと噴き出て、水柱を立てながら誰かが湖から橋に出てきました。
「しゃー! 俺の名前はシャークマン。趣味はシャーペンの芯の常飲。最近はじめた趣味をいじられて巷でミシンの素人と呼ばれているぜ! 来たな、勇者!」
「おうおう! わたしの名前はゆめ! 花の女子高生をやってるのに中学生になった弟と最近家庭菜園を始めたお父さん以外の男に話しかけれない清い小娘とはわたしのことだ!」
ゆめは大声で叫びました。叫んだ後にわたしは何を言っているんだろうと不思議に思いましたが、反省や後悔という言葉はすぐに掻き消えてしまいました。
「やいやい、シャークマン。尾ひれだけで立つなんて凄いじゃないか! でもお嬢ちゃんの弟を泣かすのはやめるんだ」
「へっへーん、だ。おれが何しようが勝手だろう」
ゆめはぷくっとほっぺを膨らませました。
「むう! 人の気持ちを考えられない鮫肌ヤロウめ! 傷心の嬢ちゃんに代わって、この天元突破、大大大勇者のゆめさまが月に代わって……あ、これ著作権的にだめだ。えーっと、じゃあ、お箸に代わってお仕置きよ!」
やあ。
とゆめの頭の中で日本の菜箸が踊りました。
「ふざけやがって! 受けてみろ、俺のシャークロケットスーパーアルティメット銭湯から出てきた親父の背中アタック!」
シャークマンがそう言うと、彼の全身の白い部分がパカリと外開きして、ミサイルが発射された。
白煙を空に描きながら、まるで九尾の尾っぽみたいにミサイルは青空へと飛び散った。
ゆめは考えました。
わたしには何が出来るだろうか。
ゆめは考えた結果、何もできないことに怯えました。
ああ、空からミサイルが降ってくる!
よっしゃあ、ミサイルを食べてやる!
ゆめがそう決起して土俵入りする力士のようにしこを踏んでいましたが、ミサイルは降り落ちることはありませんでした。
「あれれ?」
ゆめが空を見上げると、空に描かれた白煙が文字を書いていました。
『ごめんね』
シャークマンは頭を下げていました。
「ごめんなさい」
「やったね。勝ったなガハハ!」
ゆめは高笑いをしました。
シャークマンは一緒に遊ぼうと誘いました。
ゆめは頷いて、黒兎やお嬢ちゃん、お嬢ちゃんの弟と一緒に湖畔を泳ぎました。
黒兎の上に乗ってシャークマンのミサイルで八艘飛びをしていると、頭にミサイルが当たりました。
ひとつ、また一つ。
こてん、こてん、と。
「なんだなんだ。なんだって来い! できないことはないんだから。新橋のサラリーマンに代わってお仕置きよ。何て言ったってゆめは――」
ゆめは落ちてくるミサイルをお嬢ちゃんで打ち返そうとしました。でも、それは運命で決まっているかのように、スイングされたお嬢ちゃんの体をすり抜けて頭上に当たりました。
痛い、と思うゆめは、口にしていました。
「鬼神の上司、ゆめ様なのだー……」
不可解な言葉を。
ゆめが目を開けると、そこは五蔵高校の教室でした。
そして目の前には、私の頭を丸めた教科書で叩く世界史の先生。
「……おっす、おら睡魔。ゆめならまだ夢のなかにいるぜーって、これ文字じゃないとわかんないですね」
「いいや、わかるね。羽島、そのネタ使うの二回目だから」
羽島というのはゆめの苗字である。
世界史の先生はにこやかな顔をしながら怒る。凄い、わたしは感情が顔に出ちゃうからそんな器用なマネできない。
「はっはー……、授業中、ですよね?」
「ああ。お前がぐっすり眠っている間に、もう終わったけどな」
世界史の先生は言うだけ言って、教室から出て行った。
どうやらもうチャイムが鳴って、授業終わりの号令もしたようだ。
「ゆめ、ぐっすりだったね」
わたしの机の前にやって来たのは、わたしと同じ女子高生の真白。
「真白……なんで真白の文字の間には“の”の文字がないの?」
「何を言っているの……?」
お昼ごはんだ。給食だ。高校だから給食はない、購買で買ったパン。
ご飯を食べながら、私は真白に夢の話をした。
勇者になって、なんか黒兎とか鮫と戦った……闘ったのかな? お話を覚えている範囲。
覚えていない部分は、適当につなぎ合わせる。それでもいいよね。夢でも作り話でも、私の考えた事だから。
何が面白かったのか、夢の話をすると真白はお弁当を口の中で爆発させるぐらいに笑った。
その笑顔を見て、私も笑った。
「まるでビックバンだね!」
わたしがそう例えると、真白はいつもみたいに怒った。
わたしは、こうやって怒る真白が好き。
「ゆーめー!」
あとがきその1
今回のお題の使い方です。
傍点(文字の上に付ける黒点)の数が多くて見にくくなったので、こちらにまとめます。
『真の城』はほとんどが「しん」「まこと」「しろ」「じょう」で遊んだものです。ネタとしては『橋』より使いやすかったです。
『悪魔』→「悪魔」「シャークマン」
『橋』→「橋」「菜箸」「新橋」(たぶん他にも使っているかも。意図したのはコレラ)
『真の城』→「中心のお城」「刀身の白い部分」「最新の白身魚」「真の城主」「シャーペンの芯の常飲」「ミシンの素人」「傷心の嬢ちゃん」「全身の白い部分」「鬼神の上司」
あとがきその2
ジッサイの夢らしく話が飛ぶシーンを多く作りましたが、結構これは読んでいると胃に重たい話ですね……。
消化しやすい軽い物語を作りたいときは、説明を省くんじゃなくて簡素にしたらいいかもしれません。次回からの参考にします。