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(ええええええ―――――?! う、うそだあああああ!)
少女がアランの手渡した服に着替えている間、当のアランは絶叫したい気持ちを必死に抑えていた。目の前でいきなり着脱を始めたということも勿論あるが……。
「……どうかしたの?」
苦悩するアランの前にすっかり着替え終えた子どもがひょっこりとやって来た。真新しい純白のボレロにうす桃色のリボンをあしらったものを着ている。思った通りよく似合っているようだ、が。
(うーん、まさか、勘違いしていたなんて……)
やってしまった、とアランは自分の思い込みの強さにショックを受けた。羞恥で顔が赤くなる。
「だ、大丈夫? ……君」
その変化に気付いた子どもは心配そうに顔を覗き込む。
遠慮がちな子どもの口調から、座り込んでいたアランははっと気付いた。まだ名乗っていない。
「―-アランっていうんだ。君は何て呼べばいい?」
「ふひぇぇ」
何だろう、今の奇声。聞かなかったことにするか。
「……ニ、ニコル。似合わないかな……?」
ただ名前を言うだけなのにどうして怯え戸惑っているのか。多分、普段あまり人と接しないんだろうな……そう少年は解釈することにした。さっきの奇声もそのせいだろう。
子どもはびくびくしながら一呼吸分置いて名乗った。似合っているか、なんてほぼ初対面の人間に分かるはずないじゃないか。やっぱり女の子みたいだなとは思っちゃったけれど。
とにかく、何か喋って打ち解けなければならない。何でもいいから、話題を考えよう。えっと……。
「~~な、なに?」
じろじろと隈なく見つめられて、彼――ニコルは身じろいだ。
(うーん……そうだなあ)
初めて見たときから印象的な目の色だと思っていたけれど、こうして近くで見るともっときれいだ。すんなりと口から言葉がこぼれる。
「変わった瞳の色をしてるんだね、君って。翠玉みたいな」
「え……っ?」
ニコルはきょとんとして長い睫をさかんに瞬いた。えめらるど、薄いくちびるがちいさく動く。すぐには言われたことを理解できないようだ。
(褒められたこと、ないのかな)
もしかすると褒められたとも思っていないのかもしれない。俯き真意を測りかねているニコルに近づき、アランはゆっくり話しかけた。なるたけ優しく優しく。
「君の瞳は変な色って言ったわけじゃないよ。とてもよく、似合ってるね」
「――あ、あり、がと……ん、そうなの?」
彼はどことなく不思議そうにアランを見上げた。アランはちいさく笑って言う。
「きれいだよ、その色。僕は大好きだ」
「ふひゃっ」
(今の、悲鳴だよね?)
何故そんな反応を返されるのだろう。少し心に傷がついた。何故褒めようとしたくらいで、こう……。
大目に見てやるべきだ。自分は年上であるし、それに、彼は人馴れしていないようなのだから。と、少年は自分に言い聞かせた。そうでないと己が可哀想すぎた。
アランはふるふる震える彼の頭を撫でつ、さてこれからどうするか先が思いやられるな、などと考えあぐねてため息をついた。