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あんなので大丈夫なのだろうか、と彼を疑っていたけれどそんなの心配しなくてよかった。杞憂だ。自分たちより一まわりも二まわりも背の高い城の警備たちを前にして、まったく委縮する様子が見られない。むしろ……相手をけしかけている?
(うーん……戦えるんだなあ、この人)
てっきりニコルと同じで逃げる専門の人だと思っていた。争いごとはできるだけ避けて、と考える人間だと。
「あ、でもそしたら……ぼくのこと助けたりしないか」
よく、分からない。
ニコルには知らないことだらけだ。何故彼はこんな自分と行動しているのだろう。見ず知らずの、いかにも何か犯罪を犯した風体の自分と。
目の前の兵たちは苦戦を強いられて苦虫をつぶしている。こんな子ども相手に息切らせて。その当人は息を乱すどころか汗も流していなかった。口元が笑っていた。穏やかな声で彼らに提案する。
「僕たちを見逃してくれませんか。迷い込んだだけなので」
侮辱された、と一人がふるふる全身を震わせ、うずくまっていた仲間たちの許から離れた。
「それとも、まだ続けますか? どうしたって勝てっこないと思うのですが」
また、一人が「ちっ」と舌打ちをして立ち上がった。最初に侮辱された方がアランから離れていく。
「あれ、ちょっと、いっちゃうんですか……二人置いて? ずいぶんと薄情な――」
アランが一人に注目している隙に、置いて行かれた二人が一斉に斬りにかかった。ひょい、それをかわして彼は二コルのいるであろう方向を見据えた。
そして。
「あれ……? 何なの。どうしていないんだよ! ちょっと!」
さあ、お分かりいただけただろうか。そう、忽然とお坊ちゃんの姿が消されていたのである。
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一人の衛兵は、恐ろしく腕の立つ子どもから逃げ去るように別方向めがけて走った。途中、ふと視線の先にもう一人の子供がいるのを認め、足を止めた。あれは……何だ? ぼうっと、あの少年を見つめているぞ。彼女か。だったら、おそらく自分にとって脅威ではないはず。
無防備にもほどがある。あんな、草木に隠れてやしないなんて。
もしやこれは使えるのではないだろうか。彼は子どもの背後にまわり、腕を引いた。人質にはなるだろう。人質となる当人はようやく男の存在に気づき、目を丸くした。
その瞳の色が、今まで一度も目にしたことのない、きれいな緑をしていたから男は驚いてぎょっとした。それは金の髪とよく似合っていた。
(可哀そうだが、仲間のためさ)
そう思ってきょとんと見上げてきた子どもの首筋に剣先をぴたりと当てた。ぴくり、子どもは身を縮みこませた。
……いや、違う。
子どもはひるみ震えているのではなかった。それは、全身を震わせていたのは、笑い。くすくす、くすくす……静かに笑っている。
(恐怖で頭がイカレでもしたのか?)
まあ、いい。大人しくしてくれるんなら好都合だ。喚いて大声をまき散らすのが普通だからな。衛兵は依然笑い続ける子どもを連れて、もう一度仲間の許へと歩みだした。




