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スターレットでの出来事

バトルが終わり5日がたった。

怪物GT-Rを倒したことで碓氷のG4は一気に群馬と長野の走り屋の中で有名になった...が、当の本人には自覚など無く、極端に背の小さい事を除けば普通の女子高生だ。


「GT-Rの次はいったいどんな敵が来るんだろうなぁ...」

「さぁ...」

「...なぁ一樹。お前なんか最近考え事してねぇか?」

ガソリンスタンドでいつもの二人が話している。

「え...そんな事無いっすけど」

「そうか?なんか元気ねぇし、へんだぞ?」

「そうっすかねぇ」

そういって笑う一樹。しかし、あることをずっと考え込んでいた。


「お先に失礼します!」

仕事が終わると急いで家に帰る一樹。

「珍しいな...一樹があんなに急いで帰るなんて」

「そうなんですよ店長。なんかあいつこの前のGT-R戦から変なんですよ」

「どうしたんだろうなぁ」


夜も深まった午後11時。一樹は葵に電話をかけた。

「もしもし」

「み...南君!?どうしたのこんな時間に」

「これからあいてる?」

「う...うん。空いてるけど」

「いまからそっちに行きたいんだ...だめかな」

「え...えぇっ!?まぁ別に良いけど...なんで?」

「事情はついてから話すよ。じゃ、一旦切るよ」

「えっ...わっ」

いつもは明るい一樹があまりにもまじめに話すので、葵も困惑している。

15分ほどすると、赤いKP61スターレットが明日川メカニックに止まった。

「南君...どうしたの?」

「一緒に碓氷に来てほしいんだ」

「わ...分かった。じゃぁ私もG4を...」

「あ、俺のスターレットに乗ってくれないか?」

「え?う...うん」

重たい雰囲気のまま、一樹と葵を乗せたスターレットは走り出した。


「話ってなに?」

「...お前さ、スーパーコメットに入ろうと思わないか?」

「え?いや...わたしはいいよ。正直まだ走り屋のことはまだ分からないし」

「そっか」

「うん」

暫く沈黙。

「...じつはな、俺スーパーコメットでは下り担当なんだよ。一応先輩より速いんだけどな...」

「へぇ!凄いじゃん!」

「凄くねぇよ。今は葵が俺の代わりに走ってるようなもんだし」

「えっ...でも私はスーパーコメットのメンバーじゃないし...南君の代わりなんてそんな事」

「あるんだよ」

「ぅ...」

「先輩だってこれからスーパーコメットにダウンヒルバトルを申し込まれたら絶対葵を出すに決まってる。俺とお前じゃテクニックなんて天と地程の差があるしな。このままじゃ俺は要らないメンバーだぜ。」

「だからそんな事っ」

無い。そう言いかけて止めた。一樹の言ってることは間違えではない。葵はどうフォローすればいいのか困っていた。自分のせいで一樹がこうなるとは思ってもなかったからだ。

胸が締め付けられる。息苦しい。どうすれば良いのか分からない。大好きな走りをやめるしかないのか...

「それでな」

「ん...」


「走るのをやめてくれ」


そういわれると思った葵。しかし

「俺のスターレットで下りを走ってほしい」

予想外の言葉にきょとんとする。

「え?」

「お前のテクニックを隣で見てみたいんだよ。少しでもお前に追いつきたいんだ!」

「南君...」

「俺はこのままで終わりたくない。俺はお前にタメ張れるくらいの走り屋になりたいんだ!」

真剣な一樹の目。断る理由などない。

「わ...分かった!まかせて...!」

「さんきゅ!」


県境の駐車場で一旦スターレットを止める一樹。

一樹のスターレットを見て葵は驚いた。

前後バンパーは外され、しかもスムージングされている。さらにウインドウもフロント以外はアクリル。

前シートはフルバケ。リアシートは払われ、ロールバーがついている。昔のTSレースマシンを思わせるリップスポイラーと大きなリアフェンダー。エンジンも4K改5Kで、140馬力。

「凄いチューニング...私のG4よりもいいよ...」

「スターレットは安いし小さいからチューニングも安くて出来たよ。エアロとかは自作品なんだぜ!」

「凄いね...」

「金の節約だよ」

そう言って笑う一樹。ようやくいつもの明るさを取り戻した。

「じゃぁそろそろ走らせよっか...?」

「おう!頼んだ!」

楽しそうな一樹。しかし、葵はどこか無理をしている。そして、そんな二人を乗せてスターレットは走り出した。


コーナーをゼロカウンターで抜けるスターレット。

一樹は以前から気になっていることを聞いてみた。

「お前カートとかしてたの?」

「うん...実は3歳から...」

「えっ!?まじかよ...15年もやってりゃあんなテクニック持てるのも無理ないや」

「それにお父さんも元走り屋で...物心ついたときから夜は必ずお父さんの車の助手席に乗せてもらってたの。それでテクニックとかラインとか全部覚えちゃって...」

「やっぱりか...」

「それに私も実は小学生の時から碓氷攻めてて...」

「は?」

「誰にも言わないでよ!?...もうかれこれ6年かな...あのG4で毎晩走ってたの。誰にも見つからないように」

「まじかよ...」

「いじめられてたから友達もいなかったし、それだけが楽しみだったなぁ...」

「...」

「あっごめん...つい暗い話を」

「大丈夫だよ」

「で、今年18になってすぐに免許とって、今に至ると...」

「なるほどなぁ...すげぇよお前」

「そうかな...」

「まぁカート以外は違法行為だけど」

「うん..」


「...俺のスターレットってこんなに速かったかな」

コーナーが恐ろしく速い。しかし妙にふらつく。葵はどこか集中出来てなさそうだ。

緊張しているのかと思い、一樹は葵に話しかける。

「なぁ葵...なんでお前ワンハンドステアなんだ?」

「え...なんとなく...?」

「へぇ...それになんか足の動きが変じゃね?」

「えぇと...私ヒール・トゥの時は左足でブレーキとクラッチを踏むの...でもスターレットはちょっと離れててやりにくい...」

苦笑いする葵。いつもの葵ならもっと明るくていろいろな事を話すはずなのに...

不思議に思いながらも話を続ける葵。

「へぇ...でもなんでまた」

「そういうのは教えてもらわなかったからね...」

「そうなのか?」

「うん...」

「なるほど...」

「...あ、ちょっと飛ばすね」

そういってペースを上げる葵。なにかがおかしい。

変だな。と一樹は思いながらも、葵の走りを真剣に見る。


麓まで降りたスターレット。

「すげぇ走りだったよ。ありがとな!」

「い...いえいえ...」

「...明日川。具合悪いのか?」

「ん...違う」

「じゃどうしたんだよ」

暫く黙ってから葵はゆっくりと深呼吸をしていった。

「実はね...南君が私が走ることをやめてほしいって思ってるんじゃないかと思ってる...」

「はい?」

予想もしない展開に戸惑う一樹。

「な...なんで」

「碓氷を登ってる時に一樹君がこのままじゃ要らないメンバーだって言ったときに、もしかしたら私がいることが邪魔なんじゃないかって...だから私がやめれば南君は気持ちよく走れるのかな...って」

「お...おい、そんな事」

「だからね...?もし私にこれから走るのをやめてほしいなら...正直に言ってほしいの」

葵はそう言って下をむく。目には涙すら浮かんでいる。一樹は暫く黙ってから大声で言った。

「やめてくれなんていうかよ!!」

「っ!?」

あまりの声の大きさに軽く飛び跳ねる葵。

「俺はお前にやめてほしいなんて思ったこと一度もねぇぞ。こんなスーパーテクニシャンがすぐそばにいるってめちゃラッキーなのによ!!」

狭い車内に大きな声が響く。

「もしお前が俺より先に走るのやめたら、ぜってー許さねぇからなぁ!!」

そう言うと、優しい口調で

「だから、もうそんな事考えるなよ?」

そう言って、葵の頭をぽんぽんと叩いた。

「うん...ありがとう南君」

ほほえむ葵。目から涙がこぼれる。

「さっきまでずっと不安だったの。南君が私に走らないでほしいって思ってるんじゃないかって。そのせいで全然運転も集中出来なかった...でも南君の気持ちが分かったからもうその不安もなくなった!」

「そうか...!そうだ!今度は俺が走らすからさ、隣でレクチャーしてくれないか?」

「うん!いいよ!私もまたこのスターレットを運転してあげるよ!」

「さんきゅ!これからもお互い頑張ろうな!」

「うん!」

葵は涙を拭って力強く返事をした。


「お...ついたぜお前んち。今日はありがとな!」

「こちらこそありがとね...じゃぁ、おやすみ」

葵を車から降ろすと、クラクションを鳴らし、一樹とスターレットは帰って行った。

「ありがとね...南君」

そう言うと、葵はスターレットに向かって手を振った。

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