怪物とのバトル
「よし...LOブーストに切り替えだ。安定感抜群の4WD言えど流石にこの碓氷じゃ450馬力は使いこなせん。」
カチリ。LOブースト時には380馬力。それでもG4の4倍弱だ。
「タイヤとブレーキを持たせねぇとな。焦ってペースを上げりゃ命取りだ。」
172コーナーをクリアするGT-R。その頃G4は178~177コーナーの直線だった。
「うわぁ...GT-Rって重いんじゃなかったっけなぁ...」
流石の葵もこの前のFD以上についた差に少し参ってるようだ。
とはいえ、まだ真剣にはなっていない。ギャラリー達には分からないが、葵にはまだ余裕がある。
「まぁ...勝負は後半だからまだいいんだけど...」
「G4はコーナーがやべぇ!だけどGT-Rのパワーはそれ以上かもしれねぇ!」
頂上のマッドスピードメンバーにギャラリーの報告がはいった。
「やっぱ豪さんのGT-Rはすげぇよな」
「レースの王者は峠の王者だぜ」
「しかもあのグリップ走行!ドリフトはグリップにはかなわねぇよ」
そんな下っ端の声。
「速いドリフトならグリップにだってまけないっすよね?先輩」
「うーん...だが、レースシーンでドリフトをするやつはいないだろ?基本的にはグリップが速いんだ」
「うげぇ...俺も基本グリップですけど...ヘアピンとかではドリフトするし」
一樹と輝之も不安げにそんな事を話している。
「兄貴。このバトルどう思う?」
「やる前から勝負は決まってるさ。下りはG4が絶対勝つ。」
「なっ!?でも今んところはGT-Rとの差は詰まってねぇんだぜ?」
ざわざわとした人だかりのなかに、ナイトエクセレントの工藤兄弟がいた。
「それに、133コーナーから110コーナーでは直線区間が増える。G4には絶対不利だぜ?」
「直線。は、な。」
「えっ」
「GT-Rの弱点はその直線区間で一気に牙をむき、その後のコーナーセクションで大幅なペースダウンを強いらせる。考えてみろ。わからないか?」
「GT-Rの弱点...?」
大きなスキール音と共にコーナーをクリアするGT-R。
163コーナーをクリアしたところだった。
一方のG4は168コーナーをクリア。いくらか差は詰まったが、それでもまだ4秒は差がある。
「うーん...思ったより速いなぁ...ちょっとペース上げよっか、G4」
すうっと息を吸い、深呼吸。真剣モードだ。
スピードが乗りすぎるため普通はアクセルを抜く166コーナーから163コーナーをアクセル全開でクリア。
「おわぁ!!なんで全開で抜けれるんだ!?」
驚くマッドスピードのメンバー。
続く162ヘアピンをゼロカウンターで綺麗にまとめる。
「うーん...見えないか...」
中々追いつかないGT-R。だが葵には余裕がある。怪物相手に短剣一本で向かっていくような状況の中、不思議なほどに余裕だ。
「でも感じる...多分159コーナーあたりにいるはず」
そう。GT-Rは159コーナーを曲がっている最中だった。
「いいぞ...かなり走れている。FDの時よりかなり離せているな。」
余裕が出てきたのか、ここでタイヤとブレーキをいたわりペースダウン。
「後半でG4は必ず追い上げてくる。タイヤとブレーキを持たせつつ、これから増える直線区間でアレを使ってさらに突き放す!」
豪快なアウターファイヤーと共に青いボディは闇の中を突き進んでいった。
「GT-Rが少しペースを落とした!多分タイヤとブレーキを持たせるためだろう。」
「G4は逆にペースアップ!すげぇコーナーリングだぜ!」
マッドスピードの報告が頂上にいる者達の耳にも入った。
「いつものやり方だ。冷静だな豪さんは!」
「コーナー速くてもストレート遅すぎだったし、G4なんて目じゃねぇってw」
「ドライバーも女だったし、無理無理」
「豪さんにはどうあがいても勝てないよ」
マッドスピードのメンバーが口々にいう。それを聞いて弱気になった一樹は
「どうなりますかね...先輩」
と一言。
「勝算薄いっすよね」
「でも、前のFDとのバトルでも全員が負けると思ったバトルに勝ったろ?葵ちゃんならやってくれるさ!」
「そ...そうっすよね!」
「葵ちゃんを信じよう!」
だらだらとコーナーが続く159コーナーから145コーナー。
「ちっ...ペースダウンしたが流石にここは重いこいつには結構きついぜ。」
思うようにコーナーを攻めきれず、中々アクセルを開けられないGT-R。
一方、重量級のGT-Rとは正反対の超軽量ボディを生かし、するするとコーナーをパスするG4。
そして145コーナーをクリアすると一瞬ではあったが、144コーナーを駆け抜けるGT-Rの後ろ姿をついに捉えた。
「GT-R!追いついてきたよG4!やったね!」
テンションが上がる葵。
「お...ペースダウンしたとはいえ、そこまで来るとは驚いたな。」
つづく143から142コーナー。GT-Rはタイヤがたれ始め、ペースが落ち始めた。
「アンダーが出てきやがった...さっきのコーナーセクションで予想以上にタイヤを使いすぎたか...」
立ち上がりのアクセルONが遅れる。
「焦るこたぁねぇさ。もうすぐ直線区間が増える。みとけ...性能の差を思い知らせてやるぜ!」
ジリジリと近づくG4。その差は2.5秒ほどまで近づいた。
138コーナー。テンション上がりっぱなしの葵はG4を猛プッシュ。なんと1速すら使い追い上げてくる。
極限までアクセルを踏み込みプレッシャーをかけるG4をバックミラーで確認しながら冷静にコーナーを曲がるGT-R。
そして134、133の連続ヘアピン。
G4は攻めまくるものの、あと一歩及ばず。
そして133コーナー。ここで突然GT-Rが4WDドリフト。
「ドリフト...!?」
GT-Rのドリフトに驚く葵。G4も立ち上がり重視のラインを取り、出来るだけ離されないようにつとめる。
「この豪快なドリフトが突き放しにかかるときの俺の意思表示。さて...いくぜ。リミッターOFF!」
カチリ。
「こちら133コーナー!GT-Rがドリフトした!突き放しにかかるぞ!」
マッドスピードメンバーの報告の直後、激しいアウターファイヤーと共にGT-Rの爆音が碓氷に轟いた。