新たなる敵
次の日、輝之と一樹の働くガソリンスタンドでは、昨日の話題で大いに盛り上がっていた。
「凄かったなんてもんじゃないっすよ店長!見てくださいよこの写真」
「凄ぇな。まるで竜太が走らせているみたいだ。カウンターの舵角がとても小さい。」
冷静に言ってるつもりの店長。しかし鼻息が荒い。
「でも何で免許取り立てであろう葵ちゃんがあんな走りが出来るんだ?」
輝之の一言に全員が考え込む。
「親父さんの運転を助手席からずっと見てたんじゃないっすか?」
「え?」
きょとんとする輝之。
「どうしたんすか?」
「葵ちゃんて、竜太さんの娘さんだったなのか!?」
「今更すか!?そういえばでも誰も言ってなかったすね。竜太さんの子どもっすよ」
「へぇ...」
仕事が終わり、家に帰る途中の一樹は、何かを考え込んでいた。
次の日。いつものように仕事をする一樹と輝之。
すると、青いR34GT-Rが止まった。
降りてきた大男。一樹を見るなり近寄ってくる。
その圧倒的なオーラにビビりまくりの一樹。
「おい。お前、碓氷スーパーコメットのメンバーがここで働いてるって聞いたが...メンバーか?」
「は...はぃ」
「おいおい、怖がらないでくれよ。俺は榛名マッドスピードのリーダー。矢上豪。おとといFDとG4のバトルを見させてもらった。そこでバトルの申し込みをしたい。」
「で、でも、あいつはスーパーコメットのメンバーじゃないんすよ」
「これは個人的なバトルの申し込み。チーム単位の交流戦ではない。」
「古川先輩...大丈夫ですかね?」
「もし葵ちゃんがOKならいいんじゃないか?」
「そうっすね...じゃぁ、仕事終わったら聞いてみるんで、それまで待っておいてください」
「分かった。もしバトルをするなら、3日後の午後10時30分。いいな?」
「分かりました。」
その後、携帯の番号を教えた豪は、GT-Rと共に帰って行った。
「あのGT-R...相当パワーあるぞ。」
「ひぇぇ...怪物っすよあんなの」
仕事が終わると、早速明日川メカニックへ電話。
「はい...なんだこの前の古川とか言う奴の友達か...葵?ちょっと待っとけ」
(うっきらぼうだなぁ)
そう思っていると、受話器から葵の声。
「もしもし...?」
「あ、明日川か?俺だよ、南。」
「南君!どうしたの?」
「実は...」
「そっか...34型のGT-R乗りが私にバトルを...」
「どうするんだ?今回は個人的なバトルだし無理にはいいって向こうも言ってたけど」
「うーん...私は別にいいけど?」
「え」
そんな軽く引き受ける!?一樹も漏れた声が聞こえた輝之も店長もびっくり仰天。
「うん。それになんか逃げたって思われるのもやだもん」
「そ...そっか。じゃぁバトルするんだね。時間はあさっての10時30分だからね」
「はーい」
がちゃり。電話を切る一樹。あまりにもあっさり行きすぎてまだ頭の整理がついてなさそうだ。
「なぁ、竜太」
「んぁ?なんだ?」
バトル前夜。店長と竜太は電話をしていた。
「今度の相手はGT-R。それも34。勝てると思うか?」
「勝つね」
「どっからそんな事言えるんだよ。4WDにターボ、おまけにアテーサET-S。最新のハイテク機能満載の王者GT-Rに、どうやって勝とうってんだ。」
「まぁ見てなって、後半にあいつが追いつけば楽勝だ。峠はパワーと最新機能がすべてじゃねぇんだぜ」
そしてバトル当日。個人的なバトル。といっていたにもかかわらず、豪はチームメンバー全員を連れてきている。
「ほんとに個人的なバトルなんですよね?」
「あぁ。ただあのG4の走りを、メンバー達にも見せてやりたくてな。」
「なるほど...お、先輩!G4が来ましたよ!」
「今日は間に合ったな」
この前と同様、UターンしてGT-Rの隣に停止。巨大なGT-Rのせいか、この前よりもG4が小さく見える。
「よいしょっと」
降りてきた葵。豪とは違い、普段の葵には強そうなオーラなど皆無だ。
(随分若くて小さいな...しかも女とは驚いた...こんな奴が本当にあんな走りを)
興味ありげに葵とG4を見る豪。一方の葵は身長180cmはあるマッチョマンにビビり気味。
「榛名マッドスピードの矢上豪だ。そっちは」
「あ...明日川葵です。宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しく。中々格好いい車だな。気に入ったよ」
「ほんとですか!ありがとうございます!」
まさか自分の車を褒められるとは思ってなかったが、かなりうれしそうだ。
「礼は要らんよ。早速始めよう。俺GT-Rについてこられるかな」
「望むところです!」
「一応言っておくが、どんなに非力な車だろうと全力で行くのが俺の礼儀。悪く思うなよ」
そういって、GT-Rに乗り込む豪。
「意外といい人だな」
「人は見かけによらないってこういうことっすね」
「まぁ、とにかく頑張れよ!」
「俺、明日川が勝つって信じてるぜ!」
「うん!ありがとう!」
そして、振り返ると
「よし、私たちも頑張ろうね!」
そう言って微笑みながらG4をそっと撫でると、葵も車に乗り込んだ。
「カウントダウン始めるぞ!」
合図と共に唸る2台のエンジン。
GT-Rはアウターファイヤーをだし、ただ者ではないパワーを見せつける。
「5、4、3、2、1、GO!」
葵の絶妙なクラッチミートにも関わらず、いきなり突き放すGT-R。
「は...速い」
流石の葵もこれにはびっくり。ぐんぐん離れるGT-Rの後ろ姿。
「悪いな。だがこれは真剣勝負。手加減はしない!」
ぎりぎりのブレーキング、そしてそこからドリフトではなくグリップでコーナーをクリアするGT-R。
「俺は決してオーバーなアクションはしない。勝つための走りをするんだ!」
そして四駆の強力なトラクションをいかし、コーナー間のわずか数十メートルの直線を爆音と共に突き進む。
GT-Rが第一コーナーをクリアし、G4が突っ込んでくる時にはもう6秒もの差がついていた。
「負けないよG4...!レッツゴー!」
繊細なステアリングとアクセルワーク。そしてとんでもない速度のゼロカウンタードリフトでコーナーを駆け抜けるG4。
怪物GT-Rとのダウンヒルバトルが...幕を開けた。