バトル開始
「バム」
ドアの閉まる音と同時に
「あ...明日川!!?」
という南の声。
「あっ、南君。遅れてごめんね?ちょっと足回りのセッティングしてて...」
そういってにこっと微笑む小さな女の子。
身長は140cmあるか。というほど小さく、顔もあどけなさが残っていて、中学生とも間違えられかねない。
「南、その子知ってるのか?」
「俺の同級生っす」
「なにぃ!!?」
驚きのあまり思わず大声を出してしまった古川。周囲の視線に赤面。
「えぇと、明日川葵さんだっけ?あんたが竜太さんから頼まれたのか?」
「はい。碓氷峠でダウンヒルを走れと...」
まさか。本当にこんな小さな女の子が碓氷下り最速の男に認められた奴なのか?
古川が戸惑っていると、
「おい、そこのチビ女」
少々キレ気味の工藤の声
「私は明日川葵です!...あなたは?」
「ナイトエクセレントNO.2の工藤隆人。車はあのGTウイングがついた黒いFD。400馬力ある。一応聞くがお前の車何馬力だ」
「私のG4はグロスで...100馬力」
「ひゃ...!?」
周囲がざわめいた。南のKP61スターレットでさえチューンして140馬力だというのに、100馬力では話にならない。
工藤は鼻で笑い
「おいおい冗談はよせ。こっちは400馬力だぜ。馬鹿にするのもほどほどにしろよ」
と半ばにらみながら言った。
「...まぁいいさ。格の違いを思い知らせてやるよ。始めようぜ」
そう言って、FDに乗り込む工藤。
そのただならぬオーラにビビった南は
「明日川。お前ほんとにあんなのに勝てるのか...?」
思わずそんなことを言ってしまった。そんな弱気な南の質問に、葵はニコッと笑い
「大丈夫!意地でも勝ってみせるよ。南君たちのためにもね!」
そう言うと、車の方を向いて再びニコッと微笑み、
「がんばろうね、G4」
と、G4のボディをぽんと叩き、乗り込んだ。
「対向車来たら教えろ。今からFDとG4のバトルを始める。よし...カウントダウンはじめるぞー!!」
合図と共に2台のエンジンが吠える。
「グワォオオオォオン!!!」
勇ましいFDに比べると
「ブォン...ブォン」
と、なんとも頼りないG4
「5、4、3、2、1、GO!」
FD、G4共に絶妙なクラッチミート。
「いけーっ!!」
叫ぶ南を後ろに、二台は飛び出した。
碓氷専用の超クロスレシオのギアに変えているG4はジリジリと離されつつも食らいつくが、
3速に入れた瞬間、一気にFDが突き放した。
「うわー...FD速いなぁ」
やけに余裕な葵。しかしFDはもう第1(184)コーナーだ。
「見とけよチビ女。俺のドリフトを!」
ブレーキングと共に3速へシフトダウンし、素早いステアリング操作で豪快なドリフトを決めた。
「すげぇ!FD超はやっ!」
「とんでもねぇドリフト...お、G4だぜ」
「遅っ...あれじゃFDに追いつくどころかどんどん離されるだろ」
「それにドライバーは女だからなぁ...」
時間にして4秒程だろうか。かなり遅れてG4が突っ込んできた。
すうっ、と息を吸い込む葵。これが彼女が真剣になるときの合図だ。
コーナーへ侵入する直前、ほんの一瞬ブレーキランプが点いたかと思うと、「ブォン!」と言うエキゾーストと共に3速へシフトダウン。
そして、FDを遙かに超える速度で見事なゼロカウンタードリフトを決め、そのまま2コーナー、3コーナーをドリフトしたまま駆け抜けていった。
「...なんだよ今の」
「...っこちら第1コーナー!やべぇぞあのG4!壁からもガードレールにもあと数cmってとこで綺麗にながして行ったぞ!!」
「あいつドリフトだけでで一気に3つのコーナーをクリアしやがった!」
「ありえねぇ!!ほんとに女が走らせてんのかよ!?」
「あいつレーサーなのか!?」
一斉にギャラリーの興奮した声がトランシーバー越しに聞こえる。
その頃FDは6コーナーをクリアし、短いストレートを進んでいた。
そのストレートが終わり、7つめの177コーナーに進入し、ドリフト状態に入ったその時、一瞬だがバックミラーにコーナーを立ち上がろうとしているG4のヘッドライトが写った。
「なっ!?近づいているだと!?...んな訳ねぇか。こっちは国産最強のコーナーリングマシン。あんな旧車とは格が違う。」
そういって、ドリフトを決める工藤。碓氷最速チームNO.2の実力は十分に出せている。
しかし、明らかに後ろから追いかけるG4の方が速い。
「いい感じいい感じ...息ぴったりだねG4!」
まるで車と話をしているかような葵。顔はにこやかだが、ドライビングは恐ろしくキレている。
一方、頂上では
「先輩、あいつ、FDより速いらしいっすけど、信じられます?」
「正直信じられない。だが、これは現実だ。自分の手足のように車を操っている証拠だろう」
「でもなぁ...下りとは言ってもテクニックで300馬力の差を埋めれるもんすかね?」
「ううむ...」
古川と南がそんな事を口にしている。
「けどもし明日川が勝ったら、あの工藤博人がバトルするんすかね...」
「どうだろうな...」
「博人」
ナイトエクセレントのメンバーの一人が声をかける。
「ん?」
「今、170コーナーをG4が通ったらしいが、このままいけば、隆人が追いつかれるかもって」
「そうか...まさかまだ碓氷にあんな奴がいたとはな。誤算だったよ。うちのチームが碓氷最速って事を証明出来なくなりそうだな」
「まいったよな...なぁ、仮の話だが、隆人が負けたらどうするんだ?」
「それは勝敗が決まってから決めることだ。今は竜太を応援するしかないだろう」
その頃、170コーナーを過ぎたFDは、シケインのような169~163コーナーを超え、ペアピンに突っ込むところだった。
そんなFDのバックミラーに164コーナーをクリアしたG4のヘッドライトが再び写った。
続く163コーナーをなんとアクセル全開でクリアし猛追してくるG4。先ほどより確実に差が詰まっている。
「あ、FD...近づいてる。よーし!いけるかも!」
そう言ってテンションを上げる彼女の目には、はっきりとFDの赤いライトが映っていた。
中途半端に終わらせてしまった...