ドッグファイト
溝落としを上手く使い、ジリジリと追い上げる葵のG4。
独特なコーナーリングで立ち上がり加速で逃げる翠のハチロク。
後半に入り縮まったマージン。葵にとってこれ以上のチャンスはない。
猛プッシュして追い上げていく。
そして榛名名物。5連ヘアピン。
「ハチロクが先行!だけどすぐ後ろにG4がマークしている!」
「一つ目のヘアピンにつっこんでくるぜ!」
2台がフルブレーキング。軽さで有利なG4がやや強引にインに入った。
「わっ!G4がオーバーテイク!インを刺したぞ!」
「ごめん翠ちゃん!でも...負けたくないもの!」
「わっっ...!?そっちがその気なら...!」
しかしハチロクも限界ぎりぎりのライン取り。あわや接触と言うところまで攻める。
「あぶねー!立ち上がりは互角!二台ならんで二つ目にはいるぞ!」
「今度は私がイン側...いくよ...!」
ブレーキングでG4がわづかに前に出る。しかし、
ギャキキッ
「!?」
その音の直後、G4のイン側を凄い速さでハチロクが駆け抜けていった。
「うおっ!!?ハチロクが前に出た!」
「兄貴...今のは」
「立ち上がり重視の溝落とし、だな。」
なんと翠も溝落としを繰り出した。
「な...でもまだ勝負は終わってない!」
ハチロクの後ろを追いかけるG4。
3つめ、4つめのヘアピンは2台とも溝落とし。
うしろから猛追するG4は明らかにオーバースピードだが、立ち上がりで流れたリアとガードレールをこすり当てその反動でトラクションを回復させるという荒技さえ使い追いかけ回す。
そして五つ目のヘアピン。
ここでもやはり2台とも溝落とし。しかし立ち上がりで離されてしまうG4。
「このままじゃ勝てない...勝つにはあのハチロクより速くコーナーを飛び出すか、アクセルを踏ませないかのどっちかをしないとだめなんだ...」
しかし相手が加速に優れる上に溝落としまで出来るとなるとどちらも不可能だ。
どうすれば...あきらめかけたその時
ポツ...ポツ..サァァァァアア
「あ...」
「雨...!」
雨が降ってきた。
「気を付けないと...降り始めが一番怖いんだ...」
慎重に前を行くハチロク。
コーナー手前のブレーキング。G4が詰め寄せてくる。
更に、コーナーではハチロクにアンダーステアも出始めた。
「道路のμが低いからかな...さっきまで気にならなかったアンダーがはっきり分かる...」
ハチロクがアンダーに苦しみ始める中、G4は綺麗にドリフトを決める。
「ハチロクにアンダーが出てきてる...いけるかも!」
コーナーでラインが膨らむ上に、立ち上がりが思うようにいかない翠のハチロク。
一方、普段からドリフトをしている葵のG4はペースダウンすることなく、ハチロクの後ろに張り付く。
「たしかもうすぐ最終コーナー...!」
最終コーナーのひとつひとつ手前のコーナー。ハチロクはアンダーを消すためにドリフト。
G4は限界ギリギリのコーナーリング。立ち上がりでアクセルオンが遅れたハチロクに並ぶ。
「うおっ!!G4が並んだ!!」
「すげぇ!!」
「けど最終コーナーは左に曲がるんだ!G4はアウトだぜ」
「くそーっ!ここまで来て駄目なのか!」
ざわめくギャラリー。
「兄貴!G4が並んだけど次はハチロクがインだ...!」
「焦るな隆人。もう勝負は決まってるんだ」
「...G4が負けるなんて考えられねぇよ」
「なにいってるんだ隆人。G4は負けないさ」
「えっ...?」
「目を離すなよ」
後ろから追うエキシージの前には、四角と丸のテールランプが写っている。
二台が同時にブレーキング。横並びのままコーナーへ突っ込んだ。