出会い
……昔から男子と遊び、野を駆け回っていた私は、未だに女の子の輪に入る事が苦手だった。だって、意味のわからないことで憎んで、自分に嘘をついてまで話を合わせて……要するに、そういう事がとにかく嫌いだった。
「……どうしよう」
私は一人、うわの空に絶望の一言を放った。
歩美の連れてきた"久美子"は、ひどく根暗な性格だった。
元体育会系の私から言わせれば、なんだこいつ。
何が面白いのかつまらないのか訳が分からない。
なぜ吹奏楽に興味を持ったのか、疑問に思うくらい。
先輩の話を一通り聞いて、体験入部の説明を受ける。
先輩の手にある楽器は、どれも私には未知の世界のもので、宝もののようにキラキラと輝いて見えた。
「麻里はどこいきたい?」
突然降ってきた言葉に顔を引き釣らせると、さっきまで別のところにいたはずの歩美が、すぐ後ろに来ていた。
「……うーん……トロンなんとか、かな」
「トロンボーンね!久美子、トロンボーン行こう!」
「うん!」
……なんでこの子は歩美にだけこんなに明るくなるのだろう。意味が、わからない。
「ごめんね、もう楽器余ってないから、別のパート行ってもらえる?」
「今少し学期のメンテナンスしてるのー」
「マウスピース足りないんだけど、使い回さないと……」
どのパートも定員オーバー。
三人でため息をついていると、不安定な、でも大きな音が体を震わせた。
音のした方に視線をやると、将生が身長くらいありそうな大きな楽器を抱えて、パッとした顔をしていた。
……やってやった!そんな顔。
「歩美、あれ何?でかくない?」
「あれはチューバだよ……って、麻里!」
「でっかい!面白そう!」
……男子になんて、負けてやるものか!
小さい頃からそんなふうに過ごしてきたせいか、ただの負けず嫌いなのか。気づくと私はガタイのいい穏やかな先輩の元へ駆け寄っていた。
「ま、麻里……」
「あっ……ごめん、置いて行って。次の楽器に移れるまでまだ時間あるし、やっていこうよ!」
──結果、撃沈。
マウスピースというよく分からない部品で音を出すことは出来た。けれど、チューバという楽器はとにかくでっかい。腕が回らないし、息を入れてもスカスカと息の音がするだけで、将生のように音が出ない。
「お腹から息を出す感じでやってみな」
先輩のアドバイス通り、お腹に意識を集中させる。
───スカ。
「……でません」
幸か不幸か、そこで体験が終わりになった。
楽器の体験はローテーション式で、一日に色々なパートを回るのがルールになっていた。
「……チューバ難しい」
「体操部だったなら仕方ないって。俺小学校のブラバンでトロンボーンやってたから、マウスピースに慣れてるんだ。初心者でマウスピース鳴らせたんだったら、上出来だよ」
「でもさぁ……」
純粋に悔しかった。
初心者って、なんか嫌な身分。
落ち込んでいた時、ライトー、という声が後ろからして、チューバの先輩の近くに二人の女の先輩が近寄った。
1人はラッパを持っていて、もうひとりは丸い楽器を持っていた。
「……あの先輩、ライト先輩っていうのかな」
「え?光のライト?なんかやばいね」
……その時の私は知らなかった。
その女の先輩か、私の運命を変える事になった。