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叶わないと知りつつも。  作者: 戸塚栞
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序章 はじまり

あの時こうしていれば良かったとか。

何であんなことしたんだろうとか。

何でああしなかったんだろうとか。

人にはそれぞれ後悔があって、それを受け入れて進むんだろうけど。

私にはまだ、受け入れきれないでいた。

動画サイトのマイリストにあふれる文字、友達と話す過去の話、私に散りばめられたピースは、まだ消えないで残っている。要するに、未練タラタラなのだ。





そう、あれは……もう、7年も昔のこと……。









私の小学生時代は、それはそれは男らしい毎日だった。

幼い頃からど田舎育ち、現代において首都圏ではほぼ見なくなってしまった砂利道ばかりの道路を、生まれた時から走り回っていた。今でこそ虫は苦手だが、カブトムシを捕まえたり、ザリガニを釣ったり、近所の子供と秘密基地を作ったり。そんな小学校生活も、高学年になってくると変わってきた。

春から秋の朝は、自主参加型の体操部の練習のために六時すぎに家を出て、一時間かけて小学校へ向かう。朝一のバスは7時に家の前に来るが、朝練の開始は7時だ。母親も送ってくれるような人ではなかったから、雨の日も晴れの日も、炎天下の日も、毎日片道一時間、体操服を着て、水筒をランドセルの中でガラガラと鳴らし、歩いていたものだ。

幸いなことに体が柔らかく、また周りの生徒よりも才能に恵まれたため、部活に加入していた2年間はマット、鉄棒、跳び箱、全てをこなす6人の選手を抜いた44名の中で2人しか選ばれないマット競技専門の枠に収まることができた。二年間とも選手に選ばれ、好成績を残したとして賞状まで頂いた。冬は体操部がないため、陸上部に所属した。要するに、一年中体を動かしていたのだ。小学校の時の私にとって、オシャレや女のコらしさは、一年中体操服を着て過ごす上で、とてつもなく邪魔な物であり、必要のない概念だった。



しかし、それも小学校までのことだった。

進学先の中学校には、体操部が存在しない。

私の唯一の誇れる特技はここでは全く意味をなさないものになった。体操部がない、ということは小学校の時からわかってはいても、やはり、「なんで体操部のある学校に行かなかったんだろう」と、ネガティブになってしまうのは、どうしようもないことだったのかもしれない。







私の苗字は珍しい。『猪苗代麻里』という独特の苗字は、7クラスあるうちの6クラス目のリストに見つかった。

出席番号は17番。隣のクラスになった小学校自体の友人の苗字が『八代』なのに出席番号一番なのを見ると、誕生日順なのだろう。

ひと学年250人、ごちゃごちゃする掲示板前からいなくなろうと足を反対に向けると、とん、と人にぶつかった。

「あ、すみません!」

「こ、こちらこそ」

随分恰幅のいい女の子だ。名前が気になって胸元の名札を見ると『野崎歩美』と書かれていた。……たしか、6組の女子の最後は……。

「あのっ、……同じ6組ですね、宜しくお願いします、野崎さん。」

「え?……あ、ほんとですね。えっと、いの、なえ……?」

「『イナワシロ』です。私、猪苗代麻里っていうの。」

「そうなんですか。宜しくお願いします!」

……友達と呼べるかどうかはわからない。初対面だし、挨拶するだけしておこう、そんな感じだった。


入学して数日、クラスの雰囲気もだいぶ慣れてきた。

最初は着にくく、スカーフを整えるのが面倒だったセーラー服も、数回脱ぎ着すれば慣れてしまった。入学式で出会った野崎さんは、別の小学校から来た生徒だった。この中学校は、市内二つの小学校の真ん中にあり、二つの小学校の生徒が集まって構成されているのだ。しかし、同じクラスになってしまえはま小学校の違いなど、美味しい話のネタ以外の何者でもない。彼女とは既に、『歩美』『麻里』と呼び合う仲になっていた。

「ねぇ、歩美は部活、何に入るの?」

「うーん、何個か回って決めようかなって。一応、テニス部、吹奏楽部、家庭科部、美術部を回ろうと思って。」

「じゃあ私もついていく。部活何に入るか全く決めてないし」

「今日は吹奏楽部に行く予定なんだ。3組の久美子……あ、小学校の時の友達なんだけどさ、吹奏楽部の部活見学したいからって私を道連れにするの」

「おもしろそうじゃん」

体操部もないし、母親からは帰宅部にならなければいいと言われている。父親は好きなことをすればいい、だけど部活は入っておいた方がいい、というのだから、なにか部活には入らなければいけないのだろう。どのみち私から体操をとってしまえばただの、体の柔らかい女の子だ。どの部活に入ろうと、初心者であることに変わりはない。


「吹部いくの?俺もだよ」

「っ!……って、将生か……。てか、スイブって?」

「吹奏楽部の略。俺、姉ちゃんが吹部でホルンやってんだよね。俺も小学校の時トロンボーンやってたからさ」

突然話しかけてきたのは藤堂将生。入学式の次の日の自己紹介で、誕生日が同じだということで意気投合した男子生徒。目鼻立ちが濃くて、頭が爆発している。といっても、アフロなわけではない。寝癖を直さずに学校に来ているだけと見てとれた。

「じゃあ将生も一緒に行こうよ。歩美もそれでいい?」

「いいもなにも、小学校の時のクラスメイトどうしだもんね、断る理由もないよ」

「野崎も吹部なの?ま、いいや。まぁ、どうせ男子少ないだろうけど……」

「男子少ないの?」

「当たり前だろ」


その当時の私は知らなかった。

この世に、あんなに女が集まっている空間があるという事を……。



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