《普通の血統者》
「あー、もう!
また暫く会えないなんて!!!」
授業が終わると、アミに抱き締められた。
あんまりにも強くて死にそう……悪魔には殺されなくてもアミには殺されそう…
「アミ、エミヤが泡吹くわ。」
泡までは吹かないよセイラ。
そう?とセイラがわざと惚けた顔をした。
「“くれぐれも”体調には気を付けるんだよ?」
くれぐれも、という所をとても強調してヒナが言った。
「…そうね、貴方だけの体じゃないから。」
セイラの言う意図がなんとなく解って、思わず顔がにやけた。
「何ニヤニヤしてるの~?
ほれほれ~」
言いながらアミに頬を突っつかれた。
「お前は何も言わないのか~?」
そこから少し離れた窓際で、3人は集まっていた。
「俺はどうせ家で会える。」
俺は真顔でそう言った。
態々、橘達の時間を奪うこともないだろう。
エミヤの事に関しては、正直一番信用してる。
ハヤテさん達よりもな。
「なんか腹立つね。」
鎌井 入也は優しげな笑みを浮かべながら、かなりの力で俺の頬を掴んだ。
「いた…痛い、痛い いたいたいたい!!!!」
パッと手を離すと、入也はふと真面目な顔になった。
「でもね、あんまり余裕ぶっこいてると知らないよ。」
痛む頬を押さえながら、入也に言われて克己の事を思い出していた。
昨日の光景を思い出すだけで、軽く殺意がわいた。
だが、アイツに手出しはできない。
エミヤがアイツの事を友達って言うからだ。何もしちゃだめ。とは言われてないが…
でも、エミヤの友達を傷付けるのは、無理だ。
自分的に、許せない。
その上に、対象はアイツだけじゃない。
この前もストーカーとか…………本当に一体何々だ…。
もっとも、そのストーカーよりも、また護衛するやつよりも、エミヤは余裕で強いんだが。
だから一番危険なのはエミヤが油断してるときだ。
「お前とかな!!!!」
ギッ!!と入也の事を睨んだ。
誰に対して一番危機感を抱いてるかってお前だからな!!
今の肉親じゃない分、ユウヤよりも余裕で危険だ。
「あははは
子供に手出したりしないよ」
「…どうだかな……?
俺は野外学習の件忘れてねぇからな…?!」
マジでお前、そういうところあるぞ変態紳士!国はちげぇけど!
その気がなくても挨拶でキスするだろお前ら!知ってんだぞ!
「俺は俺は~?」
孝彦は何故か嬉しそうな顔をしながら、自分を指差した。
「お前はなんか大丈夫な気がする」
「僕もそう思うよ」
そこに関しては入也も同意見だった。
孝彦は何か、大丈夫な気がする。…っていうか、お前は榎本一直線だろ。
囲い込み作戦だろー……あー、こわ。
いい加減、聞かなくても解るぞ。絶対あの柊の肉親だ。
それも、志野さんより悪質な感じだから志保さん寄りだな。
榎本は多分、囲い込まれて囲い込まれて、いつの間にか逃げなくされる。
柊 亜美になるのは必死だろうな。
ドンマイ。
「え~、何か無いのかよ~?」
なんか…
「味方だから心強い。」
孝彦にグッジョブした。
だからって何も協力してくれないだろうが。
コイツは榎本以外への興味が若干…いや、かなり薄い。
それなりにやる気出せば何でも出来る癖に…
くそっ、羨ましい…!
「それはそうと、タイガ勉強とか大丈夫なの?
うち結構レベル高いんだよ。」
知ってた?と入也が首をかしげた。
お前は俺の心を読んだのか!
そうなのだ。結構本気で死に物狂いで町を守ったものの、俺はしがない中学生。
っていうかもうすぐ高校生。
つまりは受験生。
「ぐっ…」
途端に俺は頭を抱えた。
俺の周り…つか、このクラスが異常に優秀すぎるんだよ…!
いや、優秀な生徒のクラスに能力者も一緒に入れてるだけなんだろうが…。
このクラスが一番、外への階段に近いしな。
孝彦と入也と一樹と橘、あとエミヤは糞頭良い。
エミヤは無条件では入れるはずなのに…!
ちなみに榎本は俺と同じくらいの知能!(アミの方が頭良いです)
…ただし、運動が吃驚するほど出来る。榎本はそれの特待生。
俺は、榎本に近いな。
だが榎本ほど運動できねぇ…!
更に言うと、入也と橘は文武両道でいらっしゃる。
二人はマジで怪物レベル。
なんっっっっでも出来る。
の割に本気を出さねぇ。
チートってアイツらの事言うんだぜ。
「お前ら、出来ないことないの?苦手なこと」
頭を抱えながら、入也と孝彦に聞いてみた。
「え………………」
うっっっっっわ、こいつら本気で悩みだしやがったよ!!!!!
そうだよな!!
孝彦も孝彦で出来ねぇことはないもんな!!!
「いやいや、お前出来ないことは?」
おいおい孝彦、嘗めて貰っちゃ困るぜ?
「社会、英語、美術、家庭科、いやつかペーパー全般。
あと家事全般。」
むしろ何が出来るんだってレベルだぞ。
「………お前、あんま愛雅に苦労掛けんなよ」
珍しく孝彦に榎本以外のことで…。
「うるせぇ…」
考えてみれば能力以外の特色が俺にねぇ…!!
「“コンプレックス持ってる奴は
強いぜ”」
と、入也は演技っぽく言った。
「…別にコンプレックスではないし。」
入也はたまに、アニメの名言を唐突に言う。
しかも伝わらない。
俺も何のアニメなのか解らない。
多分、若干の時代錯誤があるんだと思われる。
「君たち偶にはアニメ見たら?
ていうかテレビ見てる?有り得ないよ?」
何故、アニメのことでそこまで責められなければならないのか…。
イナ○レぐらいは見てたぞ?たまに。
………………たまに。
いや、見てたって、………ホントダヨ。
…嘘です。はい。
「…タイガ。」
ふと、エミヤに肩を叩かれた。
「お―」
プニ
…………振り返ったら人差し指で頬を突かれた。
……おい、うるせぇぞ。孝彦と榎本。何笑ってんだ。
あと橘、無表情はやめろ、傷付く。なんで俺が悪いみたいな顔すんの?贔屓?贔屓なの?
入也と一樹は…………何だその表情。
「帰ろ。」
んでエミヤはほっぺ引っ張んなよ。
さっきの入也のせいで、まだ地味に痛いんだよ。
そして不用意に触るな。
男はみんな、おおかみ~♪なんだぞ、この野郎。
……………時代錯誤があるのは俺か。絶対父さんのせいだ。
「解った解った。
…榎本はマジで煩い。」
いつまで笑ってるんだお前は。
孝彦だってもう笑ってな――何うずくまってんだ孝彦。
お前らツボりすぎだ。
笑いすぎて死にそうになってきた二人はほっといて、俺はエミヤと家に帰った。
「…で、お前また……えっと……なんだっけ」
可愛い。
……………我ながらそろそろ病気だと思う。
タイガが思い出せなくて、怒ってるのに私に助け求めてるという一連の動作が可愛い。
「…?」
可愛いのでついつい解らない不利をしてしまった。
「男だよ!
ユウヤ…イリヤより若干軽い感じの!!」
…ああ、タイガにとってそういう認識なんだ。
言い得て妙だ。
確かに、御兄様やイリヤくんよりは全然軽いけれど、飄々としてる感じは似てる。
克己の方が全っ然軽いけどね。
「もしかして、克己のこと?」
最初から解ってたけど。
「そう!多分ソイツだ!」
絶対克己だから大丈夫だよ。
「で、ソイツとまた会ってただろ?!」
…解ってても名前は呼ばないんだ。
タイガの言う通り、会っていたので私は素直に頷いた。
「でも、何もされてないよ
克己も私をそういう対象として見てないし。」
見ているのなら、近寄るはずもない。
その声からも表情からも言動からも、私への好意は感じられなかった。
ただ、遊んでるだけ。
互いに利用価値があるから、愉快だから付き合いを持っただけだ。
「………だったら昨日のは何だってんだ」
タイガは睨むように私を見た。
「それは……、本当に解らない。」
私には理解できないけど、多分、克己にとってはあれも遊戯だったんだろう。
タイガが居たことも含めて作戦か。
だとしたら克己の目的は…?
何にしたって楽しんでるだけだろうけれど。
「解らないような相手に一人で会ったのか?」
タイガは一人で、というところを特に強く言った。
「うん」
どれだけ訳の解らない相手でも、克己に負けるはずもない。
昨日だって、タイガが声を掛けなければ歌で眠らせていた。
口を塞がれたとして、私の力は音だけじゃない。
「……負けないとでも思ってんだろ」
タイガの言葉に、私は思わず黙った。
まるで違うような口振りだけど、でもどう考えたって…
タイガは深くため息を吐いて、ソファーに座った。
「確かにお前は、マジで本気でやれば、ユウヤにだって負けねぇ。
経験の差ってのはあるが、それでも余りあるくらいの力の差がある。」
タイガの言う経験の差は、私と御兄様との間の差のことだろうけど。
「………」
じゃあ、なんで前回は引き分けちゃったんだろう。
御兄様には勝てる気がしない。
同じように負ける気もしないんだけど…。
「問題はお前の気持ちだろ?
お前が本気なら、ユウヤにだって勝てた」
それは違う。そんなはずはない。
「私は本気だった。
…本気で…!」
御兄様を、ここに留まらせようとした。
どれだけ苦しくとも、悲しくとも、こっちの世界に居た方が良いと思った。
それで私が魔界へ行ったって構わないと、確かに思った。
結果は、何も変わらなかったけど…
タイガは手のひらを組んでテーブルに肘をついて、そこに頭を乗せた。
「……じゃあ、お前は此処には居たくないのか」
タイガのその声は、疑問系でもなかった。
…探るような声だった。
そんな風に思われていたことは驚いたけど、確かに口に出したことはなかったかも知れない。
改めて考えたことも、なかった。
……此処に。
此処に居たくないと思ったことは、1度もない。
魔界へ行きたいと思ったこともない。
ただ、求められるなら、その通りにしようと思っただけ…。
「居たくないと思ったことはない。」
居たいと思ったことも、ないはずだけど……
…いや、………どう、だったかな…?
どう思ってるんだろう………
「それなら…、そういうことだろ………?」
まさか、私が魔界へ行きたくないと思ったから?
そんなことで御兄様はここに居られなくなった……?
でも、もし、あのとき本当に勝っていたなら…
思わず、血の気が引いた。
どちらにしたって、御兄様と私2人が同じ世界に居られるなんて有り得ない。
それは、魔界の死を意味する。
多くの人が死ぬことになるはずだから。
「私の気持ち次第だってこと?」
「…ああ。
ソイツの事だって、眠らすんじゃなくて
触られる前にぶん殴ってやれば良かったんだ。」
ぶ、ぶん殴るって……
確かに相手が知った人じゃなければ、触れられる前に避けたけど。
どっちにしてもぶん殴りはしない…!
触っちゃうじゃん!
「そんなことして、タイガの評判が下がったら不愉快じゃない」
能力者の評判が下がるのはつまり、能力者だって公言してるタイガの評判が下がることになるのだ。
一個人であればなおさら。
「…………俺か?」
「…………そうだよ?」
タイガ以外に誰がいるの?
「能力者じゃなくて?」
「そんなのどうでも…
ハッ、どうでもじゃないけど…!」
言い掛けてちょっとビックリした。
どうでも良いけど、どうでもじゃない。危ない。危ない。
「能力者の評判も大切だけど
私は能力者の評判と一緒にタイガの評判が下がるのが嫌。
一昨日、微妙に怖がられてたから」
ずっと仏頂面をしていたから、少し嫌な噂が立ってた。
タイガの周りは入也くんと孝くんでがっちりホールドされてるけど。
でも、それで全ての噂が消えたりしない。
「………そんなことのため…」
タイガは呆れ返った様子で溜め息を吐いて、項垂れた。
「そんな事なんかじゃないよ!
私にとっては最優先事項。」
当然だ。
能力者の事なんて、人の事なんて、世界の事なんて、個人的に言えばどっちでも良い。
一番優先したいのはタイガの事だ。
もちろん、助けられるなら助けたいと思ってるけど。
「なら、こっちも解ってくれ。
俺にとってはお前の身の安全が、“サイユウセンジコウ”だ。」
タイガの取って付けたよう台詞に吹き出してしまった。
「本気だぞ?」
………
私は頬を膨らませながら、タイガの両頬を引っ張った。
「何、ニヤニヤしてるの。」
「いや~?」
…………なんか、なんか負けた感じがする。
不満に思いながら、私はタイガの頬を引っ張っていた手をタイガの首へ回して抱き付いた。
そして、仕返しとばかりに
「佳代さんとも、誰と比べても変わらないよ
私もタイガのこと、愛してる…。誰よりも。」
言ってから、というか言ってる最中にも自分の顔が赤くなってるのが解ってるから、私は抱き付いたままでいた。
まさに顔から火が出るほど恥ずかしいけど…
それでも、言葉にしないと伝わらないことってあると思うんだ。
それに
「…ヤバイ。
今離されても離されなくてもヤバイ。」
タイガは片手で自分の顔を抑えてそう言った。多分、私と同じか…それ以上に顔が赤いのだろう。
見たい……見たいけど…見たからには自分の顔を見られてしまうので見れない…!
……ん?でも離されなくてもヤバイ意味が解らない。
とりあえず、もう片手でタイガが抱き返してくれたので、顔は熱いけど心は暖かった。
それから2年とちょっとの月日が流れ…。
決して赦されぬ大罪を負った。
私は沢山の人の犠牲の上に生まれ、そして生きている。
愛する人と生きたいが、ただ、それだけのために。
傲慢に強欲に嫉妬深く。
そんな罪深い私は、7月7日に結婚をした。
私の愛する人の誕生日に、だ。
結婚式は、その三年後の春にひっそりと行った。
「ねぇ…ラムセスさん、ありがとう。
こんな私でも…。
幸せになっても………いいかな…?」
赦されるはずなんてない。
赦されなくたって構わない。
ずっとそう思ってきたつもりだったのに、どうしてもラムセスさんの前だと……。
それはきっと、ラムセスさんに甘えてるんだろうと思う。
「ああ、赦すも何も。
……人は、幸せになる為、生まれてきたんだよ。」
それでも、ラムセスさんの言葉には一切の穢れがなくて。
心からそう思っているのだと肌で感じられる。
本当にそうなんじゃないかとさえ、思えてきてしまう。
「…ありがとう!ラムセスさん!」
それが嘘でも本当でも、どちらでも良い。
ただ、ラムセスさんがそう言ってくれたことが堪らなく嬉しかった。
俺はそっと愛雅から離れ、一人呟いた。
「ねぇ…リヴィ。
これで…、良かった…よね?」
だって、彼女はとても幸せそうなんだから
2018年四月20日。
私達の元へ来てくれた貴方に言えることは、ただひとつ。
…って良いながら、色んなこと言うのかもしれないけど…
でも、これだけは覚えていてほしいの。
後悔しないで。
私が言えることは、きっとそれだけだわ。
死ぬな。とも、裏切るな。とも…、何も言えない。
ただ、貴方には後悔のないように、初めから自分の望むことをしてほしい。
貴方ひとつの命掛ける、私ひとつの望み。
覚えていてね。
私の愛しい――――
異端のLejitima
これにて異端のLejitima…音澤 愛雅の物語は終わり。
お付き合い頂き有り難うございました( ノ_ _)ノ




