《12カ国の担当者》
今朝は何もないので、朝からタイガと登校。
何だか、凄く久しぶりな気がする。
嬉しいけど、くすぐったい感じだ。
ウキウキって感じだ!
「エミヤちゃん」
私の名を呼んできた彼に対して、私はとんでもなく嫌な顔を浮かべた。
それはもう、嫌悪感丸出しの…
二度と話しかけたくなくなるような。
……………………無論、すべて心なかで。
「はい?」
現実世界では笑顔を張り付けますよ。
これも無論、少し嫌みなね。
「君って本当に可愛いよね
ね、少しでも良いから一緒に遊びに行かない?」
策士め。
嫌みを気づいていながらのその行動。
でも、純粋な馬鹿でない分、心が痛くならないから良いわ。
かといって、余計に無下にも出来なくなるのだけど。
「―」
「駄目に決まってんだろ。」
どのように穏便に済ませようかと思案していたら、横に居たタイガが不機嫌丸出しに言った。
「そ…」
そんな直球過ぎるよ!!?!
仮にも私、広報部……………
と…、思ってたら、…………一瞬タイガに睨まれた気がした。
…………なんで……?
聞くまでもなく、(するつもりなんてないけど)彼に弁解するまでもなく、引きずられてしまった。
特に抵抗はしないけれど……すごく、困った。
「で…、ずっと不機嫌なわけ?」
そういう訳です。と頷いた。
タイガはあれから四時間目が終わってもなお、仏頂面のままで居る。
そういう顔も好きではあるけど、それを外で見せびらかされるのはいい気分ではない。
し、私個人としてはどちらでも良いけど、能力者って公言してる身として大丈夫?とも思う。
大丈夫だけど。
「可愛いなぁ」
故に、そんな顔は家でだけで十分だ。
外ではずっと無表情で居ていたたぎ……むしろ、覆面を被って……いや、着ぐるみと変声機を。
「行き過ぎ。」
………ごもっとも。セイラ。
「とにもかくにも、どうしたら良いと思う?」
と、私は3人に意見を求めた。
「謝り倒す!」
「理由を聞く!」
「放置。」
意見が割れましたなぁ…。
う…、うーん……様子を見て理由を聞いて謝り倒す?
………………いや、様子を見てる時間なんてない。
「ータ」
「エミヤちゃん」
今度こそ、嫌な顔を浮かべそうになった。
…無表情。
ここで笑みを浮かべられるほど、人間できてないわ。
私は、顔を伏せて思いっきり(といっても鼻から)溜め息したあとに、笑みを浮かべて彼の方へ行った。
無論、嫌みなね!!!
私は人の少ない裏庭へ向かった。
私達の旧部活がある校舎の裏にあるのだ。
人は誰も寄り付かない。
こんな場所があるとも知らないだろう。
「で…?
なんですか」
彼は満面の笑みを浮かべた。
「やっと答えてくれる気になった!」
満足気な。
彼は、どうしても私に振り向かせたかったらしい。
けれど、そういう意味で振り向いた覚えはないし
これからも振り向く予定はない。
「手っ取り早く終わらせたいので」
と、笑みを浮かべてみた。
すると、彼はニヤと笑みを浮かべた。
「ふふっ…酷いなぁ、エミヤちゃんは!」
その笑みに、私も思わず不適な笑みを浮かべた。
「ドMさんなようで」
「まさか」
少し、面白くなってきた。
…………けれど、
「でも私は遊び相手にもなりませんよ。
身も心もね」
そう言いながら笑みを浮かべた。今回は嫌みは入ってない。本心だからだ。
今度こそ、違えたりしない。
裏切ったりしない。
裏切らせたりしない。
人に背いても
世界に背いても
自分の気持ちだけには、背かないと決めたから。
自分の望みを見つけてしまったから。
彼は少し間を開けてから、目を細くして笑った。
「じゃあ、せめて友達になってよ」
彼の提案に、私は目を丸くした。
「………友達?」
「…あ、ああ…………」
友達………友達………友達ね。
「……よ」
「えっ……?」
私はニンマリと笑った。
「うん。
友達なら良いよ!よろしくね!
えっと…名前は何て言うの?」
彼は心底驚いた顔のままで、口だけを動かした。
「………克己…です……」
「ふふっ…敬語になった!」
最初のときと立場が逆になったしまった!
「…なっ…てねぇし?!」
克己はやっと驚いた顔から元に戻って、そう吠えた。
「ふふふっ…!
あっ、じゃあね~」
気づけばもう午後だ。
午後からは会議があるので、能力者の家に行かなければならない。
因みに、命名したのは私。
「………………詐欺だ…!」
と、克己が顔を真っ赤にしていた事に関して、エミヤは知らないし興味もないのであった。
柊邸、3重にもなるあまりに厳重な結界の貼られた一室には、二人の人影が。
「……さて、アリアさん。
今回の報告を始めましょう。」
本名で呼ぶのは避けるよう。と僅かな殺意を潜めて言ったけれど、この人はまるで聞かない。
強気に見せ掛けた、純粋な か弱き少女の心を持った20代後半の容姿の老女。
と思っていたが案外に喰えない。
伊達に歳をくってないようだ。
「今回は前例なく大量になりそうですね。
音澤 愛雅を見つけたときの比にならない。」
ここ十数年は私が担当しているが、いつもは報告書一枚。多くとも3枚まで。
一番多かった音澤 愛雅の代でも、5枚程度だった。
あの代は、属性王や異端がほぼ揃っていたことも一因だ。
「あの子に関する情報は渡していませんからね…」
柊 志野は確かな殺意を込めて私を見た。
忌み子と言っていたのはどこの誰だったか……
本当に喰えない。
彼女の真意は私には到底図りかねる。
けれどひとつ言えることは
「あら、あれを見つけたのはうちですよ」
うちが見つけなければ、音澤 愛雅は対策を打つ前に連れ去られていたことだろう。
いくら、柊家や枷家、神氷に、そして弥扇家が探していたとしても、彼女を特定するのは不可能。
何故なら、彼女には前科も何も存在しないから。
彼女自身が、自分を能力者と自覚していないのだから。
にも拘らず、何故私達が突き止められたかは…企業秘密♡
「………そうでしたね。」
柊 志野も、やっと少なからず恐怖を抱いてくれたようだ。
飽くまでこちらが利用する側だ。
「Win-Winでしょう?
あれはうちの手には余る。」
あの余りに強力で、甘美なものは。
下手をすれば巻き込まれて滅びてしまう。
それは私達にとってプラスになることはない。
「世迷い言を…
利用するつもりなだけでしょう」
…柊 志野は、次の瞬間には恐怖を忘れてしまったようだ。
「すべての現象は互いに利用し合うものですよ。」
そうして世界は廻っている。
「そうですよ。お互いに…ね。」
これはこれは…痛いところを突かれた。
「ふふっ。
さて、異能を公にするのでしょう?」
戯れはこの辺にして、本題に移るように促した。
「ええ。
それを鴉を介して、我らが神…神皇陛下に、軍隊に、政府に改めて報告します。」
初めから秘密になどしていない。
我々は、遠い昔から協力関係にある。
…そう、協力関係にね?
この国において、我らが神の名の元に。
「…久しいですね」
私は彼女に軽く会釈して隣を歩いた。
「ええ。決戦以来ですか?」
そんなはずはないけど、私は嫌みをたっぷり込めて言ってやった。
最近、志野さんとは嫌みを言い合うのがマストになっている。
「ええ。
国を巡れど、相変わらずのようですね。」
「お陰様で」
と、ニコニコ笑い合いながら喧嘩するのが楽しくなりつつある私達だ。
互いに鬱憤があるので丁度良い。
「あ、隆壱さん。
隆覇さんの体調はどうですか?」
志野さんの反対、右隣に居るのは、枷家次期当主で、隆覇さんの息子である隆壱さんだ。
「まだまだピンピンしてるよ。
ただのぎっくり腰に騒ぎすぎだって、親父も言っていたくらいだ。」
そうなのだ。
隆覇さんがぎっくり腰になったことで、周りの人(家の人)が心配して、代わりに隆壱が来るようになった。
当たり前だけど、隆壱さんの方が若々しい。ワイルドな感じがする。
刺青が首からチラチラと見える。
龍かな?たぶん。
「見舞いに行けず申し訳ありません。
今夜か明日に都合が合えば良いのですが。」
けれど、それはいくらなんでも急すぎるだろう。
隆覇さんにも用事があるだろうし。
「ちょくちょく連絡してるらしいじゃないか。
それだけで十分だろう。」
と、隆壱さんは人の良さそうな笑みを浮かべた。
刺青が見えようとも、所々に傷のようなものが見えようとも、
隆壱さんも…隆覇さんも、優しい人だ。
志野さんに対してどうかは知らないけれど、少なくとも私には友好的。
「今夜の予定はないのですか?」
「ええ。残念ながら」
志野さんの問いに、そう首を竦めて見せた。
「…そうですか。」
とだけ言って、志野さんは大きな部屋の襖を開けた。
純和風の建物とはミスマッチした、近代的な部屋だ。
壁際にはモニターが映されている。
全部で12のモニターには、人が映ってたり映ってなかったり。
そのなかのΓモニターに映る二人。
『ああ、エミヤ!
先日の件、感謝するぞ。』
サバサバした感じの女性が、私に向かって笑みを浮かべてきた。
《Γ(ガンマ)国担当トップ
ルルツ・アデーレ。》
もう一人の少し若い男性、ハインも、少し間を開けて口を開いた。
『…俺からも、礼を言う。』
《Γ国担当実質ナンバー2
ハイン・ヨーナス。》
私は二人に笑みを浮かべて返事をした。
「こちらこそ、お世話になりました。」
この二人は、つい先日まで居た国の人だ。
衣食住、すべて用意してくれた。
『次は我が国だからな。
努々(ゆめゆめ)忘れるでないぞ。』
椅子に腰掛けた女性、が無表情のまま、睨むような顔をして私に言った。
《υΕ(ウプシロン=エプシロン)担当トップ
エヴァ・ド・グラッフェンリード。》
けれど、声に敵意はないので、何か怒っているわけでもない。
「もちろんです。
その時には、よろしくお願いします」
と、微笑みかけた。
エヴァさんは、少し間を開けて頷いた。
『怒ってる訳じゃないから、気分悪くしないでね~?』
と、エヴァさんの後ろで椅子にもたれ掛かった男性がニコニコと笑みを浮かべながら言った。
《υΕ(ウプシロン=エプシロン)担当トップ補佐
レオンハルト・キエーザ。》
私は同じように笑みを返した。
ガチャ
ひとつのモニターで、扉が開き人影が現れた。
『遅かったね、エリック。
まだ続きそう?』
と、穏やかな笑みを浮かべる女性が人影に問いかけた。
《ΧΦ(キー・ファイ)国担当2人将
ジョイオティス・ナデラ・カウラ。》
『ああ。だが、今はまだマシだろうな』
男性はネクタイを邪魔そうに緩めながら、二つあるうちの1つの椅子に腰掛けた。
《Λ(ラムダ)担当リーダー
エリック・ブラール。》
『よぉ、カミーユ。
随分“速い”御到着で?』
と、普段は優しい男性が、嫌みたっぷりの正にゲス顔を浮かべた。
《ΗΒ(エータ・ベータ)国担当最高責任者
バーネット・ジリアン。》
普段は本当に心優しい……………?
いや、時と場合によっての変化が大きすぎるだけかな。
『ふふっ、私のようなものに気を掛けるほど、“余裕”があるのですね。
バーネット卿?』
聖母のような風貌の女性は、全てを赦すよう笑みを浮かべるながら、嫌みを吐いた。
《Λ(ラムダ)担当リーダー補佐
カミーユ・シガン。》
バーネットさんよりは解りづらいが、つまりは暇人ですねということだと思う。
『まあまあ。このくらいなら遅刻にも入らないさ。
問題は………』
穏やかで不思議な魅力を持った男性の言葉に、全員の視線はひとつのモニターに集まる。
《Δζ(デルタゼータ)担当リーダー
サウラ・ヨセフ・アグノン。》
『毎度毎度…アイツはぁぁぁあ!!!!』
怒りに任せて今にも能力を使ってしまいそうな女性。
《Το(タウ=オミクロン)リーダー
ハティス・チェリク。》
そして、ハティスさんの後ろにはそれを見て楽しそうにケラケラと笑う男性。
《Το(タウ=オミクロン)ナンバー2
オスマン・イルドルーム。》
『やれやれ。
ろくに時間も守れないとはな。』
男性が、煙管らしきものを吹かしながら、やれやれと溜め息を吐いて見せた。
《ν(ニュー)国最高責任者
ヘイカン・オウ。》
その言動に、私は思わず吹き出してしまった。
『アンタも大概だからな!』
と、女性が突っ込んだ。
《ΗΒ(エータ・ベータ)最高指揮官
ブレディー・セルマ。》
その突っ込みにヘイカンさんは満足気に…ドヤ顔をした。
その後ろの女性も自慢気なお顔。
《ν(ニュー)国次期最高責任者
シンニー・リ。》
「で、残りの3組の方々から連絡は?」
私は頬笑みを浮かべて全員に聞いてみた。
既に予定より30分も過ぎている。
『例の如く、来てないわね。』
と、溜め息混じりに言う女性。
《Δζ(デルタゼータ)ナンバー2
アンネ・ギンズバーグ。》
「ならばもう始めましょう。
時間が惜しい。」
私は誰も居ない3つのモニターに睨みを効かせながら言った。
「キヒ…荒れてますねぇ?」
と、不気味な笑顔を向けた男性。
《ΧΦ(キー・ファイ)国2人将
アーハン・アローラ。》
絵で描いたようなマッドサイエンティストだ。
悪い人じゃない。
…たぶん。
「では始めようか。
君に怒られてしまっては、話が進む気がしない。」
と、隆壱さんに頭を撫でられた。
撫でられたことで、とりあえずは怒りを溜め息で逃がした。
私は一刻も速く帰りたい。
不毛な時間など一秒でも必要ない。
「では―」
『わっっっるい!!!!!
遅れたぁぁぁあ!!!』
と叫びながらドアを突き破ってしまった男性。
《Ιτ(イオタウ)国担当大隊長
カッツィン・ルイス。》
もっとも、そのドアは前回、前々回でも壊されていたため作りが雑になっていたけど。
そしてその後ろから妖艶な笑みを浮かべながら優雅に入ってきた女性。
《Ιτ(イオタウ)国担当リーダー
ペルトット・ルアーナ。》
「………」
私はペルトットさんにぶつけそうになった怒りを深いため息で逃がした。
今までは怒らなかったのだ。
今回だけ怒るのはおかしな話だろう。
『ご…ごめんなエミヤちゃん……』
カッツィンさんだけ謝ったことにまたしても怒りを覚えそうになったが、私はそれを持ち前の演技力で隠した。
「いいえ。
カッツィンさんは既に謝ってくれたでしょう?」
私は言いながら微笑みを浮かべた。
『あらぁ…、今日は随分とご機嫌斜めなのね?』
ペルトットさんは面白いものを見たとばかりに厭らしい笑みを浮かべた。
『…久しぶりの祖国…………いや、あれだな。
確か………そう』
カッツィンさんは思い出したように口を開こうとした。
『『タイガ!』』
カッツィンさんとは違う2つの声が混じった。
『すまない、遅れてしまって。』
『ふん、もう少し遅れても良かったな』
と、別々のモニターでそれぞれ二人が扉から入って椅子に座った。
「解ってるんなら迅速に行動していただきましょう。」
私は疑問系でなく、敢えて確定的に言った。
正直、腸煮えくり返っている。
タイガのところに速く帰りたいと解ってるなら尚更。
ついでにこのメンバーだと、そういう感情は基本的に隠すべきではない。
そして隠せるほどの余裕がない。
『……………すまない。』
男性は、端正な顔を申し訳なさそうに歪めた。
《α(アルファ)国トップ
ハリス・シュワルツェネッガー。》
『……………悪かった。』
さらに女性は、同じくらい端正な顔を屈辱などに歪めた。
《ΡΩ(ロー・オメガ)トップ
ギールス・エレーナ。》
二人は、表面だの裏面だのはともかく、私のことを嫌っている。
理由は実に簡単だ。
私が悪魔だから。
二人が私のことを正確に認識しているとは思えないけど、まあ認識は大方間違ってはいない。
間違っていたとして、態々それを正そうとするつもりもない。
他の人達もそうだ。
私を全く嫌ってないのなんて、バーネットさんくらい。
みんな少なからず、それぞれの蟠りを抱えてる。
それは私も同じだ。
『あんまり深く考えるなよ』
ΗΒのモニターから声が響いてきた。バーネットさんだ。
モニター越しにでも解ってしまうらしい。
バーネットさんに初めてあったとき、知ったとき、最初に思ったのは同じだなってことだった。
バーネットさんの方がずっと大変なんだろうけど…
『エミヤ。』
………ちょっと怒られてしまった。
「すいません。
今度こそ…始めましょうか」
私はみんなに向かって微笑みかけた。
あまりにも、残酷だ。
『………』
でも、それでもやらなきゃいけない。
この世界のみんなのためにも
また、御兄様達のためにも
…悪魔のためにも。
かなりの人数の人が登場しましたが、全部覚える必要はないです。
沢山の人が居るんだな~と思ってくれれば。




