《気を置くまでもない仲》
『勝手に追加颯天』
…………………………?
エミヤと連絡を取るため、と買った“スマホ”に表示された文字に、僕はしばらく首をかしげた。
……………あ、ああ。ハヤテか。
片手で数えるほどしか会っていないけど…。学校も入れ替えで入ったし。
それでも分かったほどに、本当に面倒くさがりって言うか…。
ある意味、彼こそ怠惰の王だ。
とにかく、怠惰の王は『勝手に追加した。俺は颯天。』のようなことを言っているのだろう。
…なんで僕が察しなきゃいけないんだ…………。
『解ったけど、指先くらい何とかしなよ。』
そう打って、┐(´~`;)┌と絵文字をつけた。
こんなような物…っていうか、これとほぼ同じようなものが魔界にあるから、慣れたものだ。
たださすがに機器自体は違うので最初は戸惑った……が、慣れてしまえばこんなものだ。
『めんど
つかお前こそ何でそん』
あともうちょっとじゃないか…。
“くさい”ぐらい…!
“な”くらい…!!!
怠惰の王め………。
『僕は君が使いこなせない意味がわからないね』
『そか?』
ここのまま話が続いてしまうそうな気がして、僕は首を振った。
『いつまでも君とは駄弁りたくないよ。』
予期せぬ出来事だけど、良い機会だ。
『それより、君に聞いてみたかったことがある』
『?』
…………ハテナだけ…。
良い。イチイチ突っ込んでられない。
『君は、エミヤやマーヤについて何を知ってる?』
『なに?』
『それを探っているんじゃないか。』
『それは俺も言える』
確かにそうだ。
僕もハヤテも相手が知っている以上のことを教えたくないのは当然だろう。
別に悪用とかしないんだがな。
…たぶん。
『お前ほどは知らんとおも』
僕が返す前に、更にハヤテが送ってきた。
…相変わらず怠惰の王だな。
警戒しておいて話し方はこんなの…。
本当に知らないのか、知っててなお、なのか…。
だけど、ハヤテは誤解してる。
『僕だってすべて知ってるわけじゃない。』
『というか、謎だらけだ。』
知ってるんなら、危険をおかしてまでハヤテにカマをかけたりしない。
ハヤテはバカじゃない。
本気でやりあえばどっこいだろう。
なんせ、あの“絢斗”の息子なんだから。
『謎?』
『君に教えていいか分からない。
だけど、例えば何故 絢斗だけが帰って、
そして、ナゼそのときエミヤは一緒じゃなかったのかとか。』
そう、絢斗だけが帰ったんだ。
しばらくの間が空いて
『知らん』
『つか』
『なんだい?』
僕はニヤリと広角をあげた。
『いや、何でもない』
…………
『信用も信頼するな』
僕は敢えて命令口調で言った。
僕はそのうち、君達みんなを…この世界をきっと、裏切るかも知れないんだ。
『だが断る』
ふざけた口調に僕は怒るつもりが吹き出していた。
信じることも、信じられることも。今まで経験したことなんてなかった。
ずっと、相手が王でも道端の人でも、はたまた人じゃなくったって、…誰も居なくたって警戒を完全に緩めたことなんて無かった。
それなのに……、この怠惰の王ときたら………
「…断らないでよ……っ」
僕は誰も居ない部屋で、笑いながら小さくそう呟きながら、目から何かが落ちる感触を思い出した。
ブブッとバイブレーションの音が聞こえた。
『それ以前に俺生まれてな』
ハヤテからの文に僕は顔をしかめた。
『生まれてない?
それはおかしいだろ』
というか有り得ない。
『?』
『絢斗がマーヤと魔界へ来るときには
君の母は妊娠していたんだろ?』
そうでなければ、ハヤテの方が年上というのが有り得なくなってしまう。
だがハヤテの方が年上なのは、まちがいないはず
『ああ』
やっぱりそうだろう?
『それなら、絢斗が帰る頃には生まれてるだろう?』
『?』
何故そこでハテナになるんだ?
『この世界の者は、一年以内には生まれないのかい?』
『十月十日』
『そうだろう?
それなら生まれるはずだろう』
そう打ってすぐに、違う可能性が頭に過り、慌てて文になおした。
『時間軸がズレてるのか?』
自分で言って、すぐにそんな馬鹿なと思った。
いや、だが、考えてみれば…。
ナゼ時間軸が同じだと言える?
そんなことを、誰が証明できるというんだ。
違う。
それを証明したんだ。マーヤたちは。
『絢斗は妊娠何ヶ月で帰ってきた!』
『知らん』
『聞いて!
今すぐに!』
『おけ』
拍子抜けするような返答だったか今は不当にしておこう。
聞き返さずにすぐに了承したところを見ると、ハヤテも可能性に気づいたんだろう。
しばらく落ち着かないままに待っていると返答が帰ってきた。
『不明』
『が、父さんが消え帰ってきたのは、3ヶ月』
…3ヶ月……!?!?!
有り得ない!
僕はそこに居たわけではないけど、少なくとも1年は経っていたはずだ!
3ヶ月なんて、有り得ない…!
『魔界とこの世界は、かなりずれている
僕が聞いた話では1年は居たはずだ。』
『大差だな』
『驚かないの?』
『驚いてふ』
…………本当に驚いていたらしい。
『十分の一の速さなんじゃないか?』
『?』
『この事例だけじゃ分からないな。』
『魔界へ行け』
『帰れってことかい…?』
『一旦。』
ハヤテの言葉に、僕は深くため息を吐いた。
『そんな簡単に言わないでよ。
世界を越えるんだよ?』
『来たときと同じこと』
『あらゆる条件が合わさって来れたんだ』
『役立たね』
『あのねぇ(=д= )』
僕だって偶には怒るよ?
怒らないけど。
『わり』
『今度会って話そ
口で話すほが楽』
『本当にぃ?
行き来も考慮しないよ』
ハヤテの性格上、直接会う方が確実に面倒だろう。
『うわめんど』
それ見たことか。
待ちぼうけはごめんだからね。
『お前来て』
『会ったらまず殴ろうか』
どんだけ面倒くさいんだコイツは。
『(笑)』
笑い事じゃない。
『わりって』
画面の向こうで笑ってそうで、僕はため息を吐いた。
『別に良いけど。
家には行かないからね!』
『ちっ』
『ていうか電話じゃダメなの?』
ピピピッ
言ってしまったが運の尽き。
ハヤテから電話がかかってきた。
今日で何度目かのため息を吐いて画面を押した。
『もしもし?』
すぐさま、ハヤテの声が聞こえた。
『お前天才』
『君が馬鹿なんだろ…』
『うわ、しつれー
俺に対して酷くね』
『その言葉そのまま返すよ』
ハヤテは僕に対して雑すぎると思うよ。
どうせ、これが素なんだろ。
ホントにスライムみたいな奴だな。
するとハヤテは鼻でフッと笑った。
『気が置けない仲なんだろ』
『気を置くほどでもない仲じゃない?』
僕がそういうと、ハヤテはまた笑った。
『そんな感じだな』
僕はため息を吐いた。
今度は少し穏やかで、自分でも吃驚するくらい安易に頬が緩んでいた。
僕はちょっと動揺しながらスッと頬に力を入れた。
気は、もっと置くべきだ。
『で?話したいことは?』
『ああ。
お前は本当にエミヤの兄なのか?』
『何度もそう言ってるじゃないか。』
僕は間髪入れずに答えた。
微笑みを浮かべて。
『…………ホントは?』
『だから―』
『ユウヤ。』
少し悲しみが混じったハヤテの声に、思わず黙ってしまった。
………一瞬でも間が空いてしまったら、もうダメだ。
何をどうしたって疑われる…。
というか、最初の2回でなおも疑うところを見ると、もう裏はあるんだろう。
『ああ。僕はエミヤの兄じゃない。
だけど君よりは―』




