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異端のLegitima   作者: 瑞希
[王の器]
75/100

[愛しているんだから]

ハッと目を覚ますと、僕は病室で眠っていた。

いつもは静な病室も、今は慌ただしかった。

血の臭いが、そこら中からした。


涙が溢れてきて、僕は布団を被ってその中でうずくまった。


布団の中からも外の音は聞こえてくる。

器具の声や、心臓の鼓動を伝える機械音、人の苦しむ声。


ここは地獄だ。


僕がしてきたことは何だったんだ…!

僕、僕頑張ったのに…!

足らなかったの…?!

僕が、死ねば良かったの…?!

ナツカみたいに!!!


耳を塞いでうずくまった。

それなのに、声はより一層、鮮明に聞こえるみたいで。

僕は泣いて哭いて啼いて泣き続けた。

泣きつかれて、眠るか、気を失うまで。




「………」

次に目を覚ましたときには、日が上っていて僕の居る病室にも陽の光が入っていた。

眩しくて、反対の方を向くと優翔…同じ水の家系の水谷みずたに 優翔ゆうとが座っていた。


「何で居んの」

僕の声は、ガラガラで震えていた。

たぶん顔も、見られたもんじゃない。

もちろん、優翔もね。涙でぐちゃぐちゃになってる。

たぶん、碓氷辺りからナツカのこと聞いたんだろ。


「何でって…お前が、…っ心配で来たんだよ…!」

優翔はまだボロボロと涙を流してる。

優翔の涙なんて、たぶん生まれて始めてみた。

そりゃ、そうか。

優翔ってば、もう大学3年だもんね。

僕らも、高校生になったわけだよ…………。


けど

「ナツカは死んだよ。

 死体もない。

 元々、人じゃなかったみたい。」

人でも悪魔でもない、僕らに力をくれる、そう言う存在。

でも、けど、そんなの僕には、僕らには、関係なかった。

僕にとっては、唯一の兄妹だったのに…

悪魔達が、僕の兄妹を殺した!!!!!!


「知っ…てる…っ!

 けど、お前も、死ぬところだったって…!!!」

優翔は僕の手を握って、顔を伏せた。

………まあ、確かに、そうかもね。

あのときナツカが僕に力をくれなきゃ、余裕で死んでたと思うよ。

別に、もう、生死とかどうでも良いし。

悪魔を1匹でもたくさん殺せれば…………


……や、もう悪魔なんかどうでも良い。

とにかく疲れた。なんもかも。


「どうでも良い。

 もう全部終わりだ。」

勇翔いさとは、きっと一人で泣いてる。

だから優翔だけが来たんだ。


「もう帰ってよ!!!

 僕が死ねば良かったんだ!!!!!

 そうすれば………」


「ユキカ。今ここで、んなこと言うな。

 やっとみんな落ち着いて眠ってきたんだ。」

部屋に入ってきた碓氷の言葉に僕はハッと口を閉じた。

僕みたいなことを考えてる人が、ここに大勢居るんだ…


昨日の苦しげな声が呼び起こされた。


…全部、救えたかもしれないのに…!

僕が、僕が、弱かったから

全部…っ失った!!!!!!


「エミヤは、帰ってきたよ。」


「っ…!

 ホント…?ホントに?!!

 エミヤが……」

全身からスッと力が抜けてしまって、僕はベッドに倒れた。

ああ…ああ……良かった。やった。

エミヤが、僕らの元に帰ってきてくれた…!

ああ、じゃあ、もう、何にも要らないや………。


目を閉じれば、次から次へ涙が零れていって、もう止めるのも面倒になった。

何だって良い。

エミヤが、帰ってきてくれたんだ。

今は、ただ、それだけで…!


「エミヤはどこに」

「…今は、会合のところだ。

 志野さんと、隆覇さんと、ハンナと話し合ってるらしい。」

ハンナが居るのは若干謎だけど…

いや、違うか。他の三人の異端ゼノが居ないのが可笑しいのか。


「チッ」

気づけば舌打ちしてた。

こういうとき、自分が異端ゼノじゃないのに腹が立つ。

何でエミヤが、真っ先に矢面に立たされなきゃいけないんだ。

僕がいれば、ぶん殴ってやったのに…!


「ユキカ…?」

不安そうな優翔の声と顔にまた苛立ったけど、僕はそれを押さえて溜め息を吐いた。

そんなこと、今に始まった話じゃない。

それに、ハンナが居るなら、そう言う面では安心だろう。


「で、僕らの会合は?いつ。」

「正式なのは3日後だ。

 それ以上の奴は、志野さんと隆覇さんだけでやると。」

僕らの会合っていうのは、この市に住んでる、みんなで行う会合だ。

でも、県全体とか、国全体、世界全体の奴は僕らは…エミヤは参加しないらしい。

つまり、僕らの正念場は3日後だ。


苛つくけど、それも無駄な争いを減らすためだろ。

本当に苛つくけど。


「それなら、優翔は勇翔についてやりないよ。」

今、僕に構って欲しくはない。


「お前は…!」

そう言ってるのに突っ掛かろうとする優翔に、思わずカッとなった。


「頼むから…!

 今は僕に構わないでくれ。

 一ミリだって優しくできない。」

今は、余裕がないんだ。

僕は僕の事で精一杯で、優翔や勇翔の事を考える余裕なんてない…!


「優しくって…!

 …わかった……また後で来るからな。」

来ないでよ…と心のなかで思ったが、それを口に出しはしなかった。



優翔は帰った。

勇翔も多少は元気になれば良いんだけど………たぶん、無理だな。

「良かったのか」

……………。


「…失望されるより、ずっと良い…。」

こんな人間だったのかって、嫌われるのが凄く怖い。

今まで四人で積み上げてきた信頼とか、絆とかが一瞬で消えるのが、耐えられないんだ。

ナツカは死んだ。

その事実は変えられないよ。

……

でも、僕らは死んでないだろ?

生きてるだろ?話せるだろ?触れられるだろ?

…それなのに、一時の感情に流されて全部壊しちゃうのが怖いんだ。

僕は、優翔と勇翔もエミヤもタイガもユウヤも、もちろんナツカも好きなんだ。

宝物は、亡くしたくない。


「そうかもな。

 だが俺らは失望しない。」

だから…僕は碓氷の事、気に入ってるんだ。

否定はしない。

失望されることなんてない。なーんて無責任なことは言わない。


エミヤも、ユウヤもね。

「知ってるよ。同族でしょ?」

僕らはみんな同族だ。

優翔にも勇翔にもないものを、僕は持ってる。

持っていれば僕は僕のままで居られるけど、打ち付けると何かを傷つける。

あんまりにも硬いから。


「ああ。

 みんな、それぞれの意思を持った同族だ。」

硬い固い。それぞれの意思。

みんながみんなそんなものを持ってたら痛くてしょうがないけど。

持ってない人ばっかりでもいけない。

バランスだよね。


だから

「僕ね、優翔の事も、勇翔の事も大好きで

 ユウヤの事も好きだったし

 それ以上にナツカとエミヤが大好きなんだ。

 でもたぶん、勇翔はエミヤを恨むと思う。

 どっちかって言われたら、言われたら、僕は………」

勇翔の意思は、いわばナツカと結婚することだった。

ナツカの事が単純に好きだったのかは、今じゃ解らないけど。

勇翔はナツカと結婚をして、子供を作って、その子供を王にしたかったと思う。

今じゃ、それが良かったのか

悪かったのか

そんなことさえ、…もう。


碓氷は僕を抱き寄せた。

「碓氷…?」

頭をガシーッと掴まれてる気がしたけど、すごく優しい触り方だった。

僕、壊れ物じゃないんだけど。


「悩むまでもない。

 どっちも。だろ?」

「そんなの……」

碓氷の声には、すがるようなものが混じってる気がする。


「求めるなら、求めるままに動けば良い。

 お前には、俺達にはそれ相応の、覚悟も、力も、ある。」

「そう…かな……?」

だったら、ちょっと嬉しいかもしれない。


「当たり前だ。

 お前が何匹の悪魔を倒して、何人の人を救ったと思ってる?」

昨日聞いた、苦しげな声を思い出した。


「そうかなぁ…っ」

あれほどの、たくさんの、人の向こうに、もしかしたら、僕の救えた人が居たのかもしれない。

だったら…だったら………


「それは事実だよ。

 間違いない。」

っ………!


「……だったら…良い……かな…っ………」

それなら、ちょっとどころか、すごく、報われるかもしれない。

僕がやって来たことは

ナツカが死んだことは

みんなが傷ついたことは

無駄じゃなかったと思えるかもしれない。


「ああ。お前の望むように生きろ。

 んで、そのうち笑え。

 今は泣いてんのはしゃーねから。そのうち笑えれば良い。」

碓氷はそう言いながら、僕の頭をワシャワシャ撫でた。


「そんな日…来るかな……」

ナツカが死んで、今きっと勇翔が泣いているって言うのに…


「案外、近くに転がってるだろ。

 ほら」

碓氷は僕を離して、ドアの方へ視線を向けた。


「………エミヤ…」

眼に映った金の髪と桃色の瞳を、僕は涙で震わせた。


「……おかえり」

僕は思いっきり笑って見せた。


ああ、幸せって、色んな所に転がってる。

けど憎しみとか怒りに囚われた目じゃ、きっと見つけられなかったよ。

今の僕じゃ見つけられなかった。

現に僕は、きっと、さっきひとつの幸せを蹴った。

だけど、碓氷が教えてくれて、人が教えてくれて、試しに拾ってみれば。

それは、凄く心地よくて幸せなものだったよ。

僕はせめて君との幸せは、君達との幸せは失いたくないなぁ…。


ねぇ、碓氷。

僕はどっちかって聞かれたら、やっぱり、両方取ることにするよ。

やっぱり、優翔や勇翔との幸せも、蹴りたくない。

みんなで幸せに生きていきたいと、今、思ったよ。

エミヤのおかげで。

だから…だって…僕は、君の事を…………―――――――――

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