表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端のLegitima   作者: 瑞希
[王の器]
74/100

[異端の人々]

「今日は…ここに泊まることになったから」

和室に入ってから、タイガは私にそう言った。


「……お家、大丈夫かな………」

言ってから、後悔した。

大丈夫かな。なんて、大丈夫じゃないに決まってる。

それに、そうさせたのは、私だ。

私を作ってくれた家を、町を、人を、私自身がこの手で全部壊した。


「壊れてても大丈夫だ。

 また、作れば良い。

 今度は、家族みんなで住めるような家にしよう」

私は息を飲んだ。

タイガが考えている未来は、思った以上に明るかった。

私とタイガや、子供達や、時々帰ってくるヒロくんやメグちゃんとの暮らしが見えるようだった。

それは、私がお母さんと作り出した、あの日々と勝るとも劣らない、幸せな暮らしのように思えた。


「…うん!」

私はタイガに笑いかけ、握られた手をより一層、強く握った。


泣きすぎて、すごく頭が痛くて、あんまり頭とか体がよく動かなくって

私はすぐに眠ってしまった。

タイガの手を離すべきなのは解ってたけど、今はどうしても離したくなくて。

眠ってからも、夢の中でも、ずっと手を握っていた気がする。


………………

…………

……


『タイガ』

今夜もまた、夢の中であの人達が俺の名を呼ぶ。

夢と解っていても、理由が解っても、それでもうなされるのは…俺自身に罪の意識があるからなんだろう。

償えるはずもない。

もう、その相手も居ない。

いつだって届かないんだ。…俺の手じゃ。


でも

『ありがとう』

真綾様は、そう言って微笑んだ。

真綾様がこんな風に微笑むのを見たのは、これで4度目だ。

エミヤが生まれて、…真綾様が亡くなったと聞いて、もう二度と見る機会はないと思っていた。

二度と思い出すことも出来ないと思っていた。


「こっちの台詞ですよ」

こんな風になっても微笑んでくれたこと、エミヤをこの世に生んでくれたこと、今のエミヤを作ってくれたこと。

真綾様のすべてが、ひとつひとつが、エミヤを作り出してくれた。

真綾様のすべてが、俺の親友を救ってくれた。

俺自身を救ってくれた。

だから…、ありがとう。


…………………………

………………

……



ああ。やっぱり。

目の前にタイガの寝顔と、握られた私とタイガの手を見て私は心底安心して、すごく嬉しくなって、また涙が溢れそうになった。


幸せを感じると共に罪悪感も呼び起こされる。

裏切ってごめんね、魔界のみんな。

切り捨ててごめんね、ランさん。ありがとう。

見棄ててごめんね、御兄様…。みんな。

ごめんね。ごめんなさい。

謝ったところで、誰も帰ってかないけど。


それでも私は、目の前に居る愛しい彼を失いたくない。

ここで彼と共に暮らす、幸せを感じていたい。

その為なら、どんな苦しいことだって耐えられるよ。

罪も業も背負い続けるから…。

だから、だから…!











「失礼します」

自分で自分の声に驚いてしまった。

あまりに淀みがなくて通っていてたから。


その驚きも表情に出ることはなく、私は無表情のままスッと前を見つめた。

前に居るのは、ハンナちゃんと柊 志野と、見知らぬ男性。おそらくからさおという人。


昨日の争いから一夜あけた9月10日、午前六時頃。

能力者達専用の会合の場、柊家の近くの山へエミヤは呼び出されていた。

傍らで眠るタイガを起こさぬように、とこっそりやってきたつもりが、タイガはすぐに起きてしまって少し苦労した。

それすら堪らなく嬉しかったのだけど…。

私にはやらねばならないことがあったので、部長ハヤテさん達や、神夜さんと言う人に任せてきた。


私は、ひとつ余っている座布団に座り、枷らしき人に軽く頭を下げた。

音澤おとさわ 愛雅えみやです。」

決して土下座のような姿勢は取らない。

王の血を引く者として。御兄様ユウヤ達の地位を下げぬため。


からさお 隆覇りゅうはだよ。

 あまり張り詰めないでくれ。無理かもしれないがね。」

目尻にシワのよった無邪気な子供のような笑みに、私に対して敵意がないのだと解った。

どうしてなのかは解らない。

けど、だからといって、安易に緩めることはできない。


「正式な決定は後日となりますが、ここで我々の概ねの方向性を決めるつもりです。

 本来であれば、操辻 遙華、千里 紗季、神氷 憐真も居なければなりませんが

 今回はこの四人で行います。

 異論はありますか?」

柊 志野は私に向かっていった。

ハンナちゃんと枷さんには既に確認済みらしい。


「後日また話すのなら問題ないでしょう。」

ハンナちゃんに聞かれるのはどうかと思ったが、どうせ後日話すのなら、遅かれ早かれという感じだ。


「では、始めましょう。

 先の2度に亘る戦争によって、この市、国に甚大な被害が齎されました。

 これが世界へ及ぶのも時間の問題でしょう。」

柊 志野の言葉に、私は少し驚いたが、それを口に出すのは止めた。

悪魔や悪魔関連の被害は、この市だけでなく、国全体に及んでいたらしい。


「被害状況は現在確認中ですが

 仮に名付けた、第一次月下戦災と第二次血桜戦災 併せて負傷者43,792 死者行方不明者6,437名」

合計、五万人くらい?

多すぎて、全く実感が湧かない。

ただ解るのは、私は五万人の上に立っているということだ。

戦災というからには悪魔が直接的でないことが多いのだろうが、そんなことは関係ない。

私は六千人以上の人を殺したのだ。

そして四万人以上の人を傷つけた。


その大罪を刻み込まれるのを感じながら、私は柊 志野を見つめた。

「それで、どうするのですか

 それほどの被害が出ては、もう隠すことも出来ないでしょう。」

今までは小さな被害だったから揉み消していたのだろう。

被害を小さくするための、能力者レジティーマという生け贄だったはずだ。

それも間に合わなくなってしまった今、もう揉み消すことはできない。

少なくとも、私はもう、それを隠しては生きていけない。


しかし、それに答えたのはハンナちゃんだった。

「私、考えたんです。

 英雄ヒーローの軍を、作り上げてしまおうって」

ハンナちゃんの唐突な言葉に、私だけではなく、柊 志野も枷さんも驚いているようだった。

どうやらハンナちゃんは今ここで初めてそれを話して、そしてそれを話すためにここに来たようだ。


「以前、エミヤさんとカレン達が悪魔でない何かと戦ったことがありましたよね?」

名もなき者、と私が勝手に呼んでいた存在だ。

確かに、あれは悪魔ではなかった。

知性があって理性があった。

悪魔以上に自分の意思や欲望に忠実ではあったけれど。

とても素直で優しいヒトだった。

…それも、私が殺したんだけど。


私が微笑んで頷くとハンナちゃんは続けた。

「その何か。が、マキリさんのリミッターを駆使して戦ったそうですね?

 つまり、リミッターには能力レジを制御すると共に、強くする作用もあるのでは?」

ハンナちゃんのやろうとしている事が分かってきた。

確かに、元々、静電気程度の力しか扱えなかったモモナさんは、マキリ先輩のリミッターを使うことで強くなった。

つまり、ハンナちゃんはそれを利用して、力の弱い人にも戦って貰おうと言うのだ。

たぶん、極僅かな力でも良いなら、それは誰しも持っている。

力っていうのは元々、生きるためのエネルギーだから。


…今のは私の勝手な解釈。

本当のところは解らない。


「確かに。ハンナちゃんの言う通り、僕のイシは強くも弱くも出来る。

 悪魔達には触れることすら出来ないが、ヒトであれば扱える。

 エミヤちゃんやユウヤくんでもね…」

枷さんは、悪魔ではないと言いたいらしい。私も、御兄様ユウヤも。

…けれど、事実がどうであろうと、私にとっても、能力者レジティーマ達にとっても、被害者達にとっても、私達も悪魔も大差ない。

同じ、卑しく憎い敵だ。


何故、枷さんがそこまで私に肩入れするのかは解らない。

けれど、それが真実だ。

そこに事実は関係ない。


「それを利用すれば、きっと被害を少なく出来る。

 戦争を、少しでも速く終わらせられるかもしれない…!!!」

ハンナちゃんは、確かな希望を込めてそう言った。


…………確かに、そうかもしれない。

現状での戦力はおそらくあちらが有利だ。

力の大きさ事態はそこまで大きな差はないが、数が違いすぎる。

現状では、市民へ無駄な被害を出し続けて、戦争が長引くだけだ。

速く終わるかどうかは解らないが、だが、市民への被害は確実に少なく出来る。

…もっとも、その市民を軍人ヒーローと言う名の“生け贄”へ変えているだけのような気もするが。


「……うん。いけるかもしれない。

 増幅させるのには限度があるけど、僕たち能力者の力を分ければ。

 それに悪魔は浄化されると大きなエネルギーが生じるんだ。

 それを吸収すれば、本人が強くなれるし

 もしかしたら商売にも出来るかも。

 他にも利用できることがあれば…!」

…気のせいか、枷さんの目にお金マークが見えた。

確かに、組織を作る以上、お金は大切だけど…。


「それを生業とする必要はありません。

 あとはハンナの言う通り、ヒーローとしましょう。」

一瞬、言っている意味が解らなかったが、つまり柊 志野はスポーツ選手やテレビのように、それ関連のグッズやスポンサー、国や市民からの援助を利用するつもりのようだ。

軍をそれこそ、英雄ヒーローに祭り上げて。

気は進まないが、その方が良い。

軍で成り立ってしまったら、戦争がひとつのビジネスになってしまう。

止められるのなら、すぐにでも止めたい程の火の車でないと。


「…はぁ。それもそうか……。

 良いビジネスだと思ったんだがなぁ…」

心底残念そうに溜め息を吐いた枷さんに、苦笑いするしかできなかった。

それに対して怒るつもりはない。

人が当たり前に持っている欲望で、人が生きるために、進化するために、とても重要なことだ。

それを捨ててしまったら、人は人では居られなくなるかもしれない。

なってみなければ、わからないけど。

…きっと虚しいと思う。


「不謹慎ですよ」

柊 志野はそんなことは微塵も考えない様子で枷さんを睨んだ。


「ふっ……ふふっ」

思わず笑ってしまった。


「エミヤさん?」

「…何だか、馬鹿らしくなってきた。」

志野さんは、ただただ純粋なのだ。

純粋に物事を見つめている。

今の私には彼女を悪くしか表現できないが、愚鈍に物事の表面だけを見つめて

その癖、先を想像して冷徹であろうとする。

何とも傍迷惑で、愚かな人だ。

………けど、きっと、そういう愚かさに救われる人も大勢居ることだろう。


「志野は馬鹿だからな。」

「ふふっ」

本当に。

私は志野さんが大嫌いだ。

けれど、その人に、私は少しだけ救われたかもしれない。

大嫌いだし、憎んでいるけれど。

































つくづく“彼”の生み出したSNSと言うサービスは便利なものです。

お陰で海を越えた人々ともこうして一斉に話すことが出来るのだから、“彼”には本当に頭が上がらない。


『ついにこの時が来たんだね』

ハリスの言葉に私は静かに頷いた。

永い永い、永い間。

たくさんの私達が守ってきたことを、私達が壊すときが来た。


『ふっ、殲滅せんめつの時だ。』

ギールスは不適な笑いを浮かべて、手に鱗を現した。

私は首を振って、それ以上、ギールスが変わることを制した。


『あまり…気は進まないが。』

バーネットはとても暗い顔で目を閉じていた。


『仕方がないわぁ。

 これも、市民を守るためよぉ』

仕方がない。と言いながらも、ペルトットはギールスとはまた違った、妖艶的な笑みを浮かべた。


『その通り。悪魔の好きにはさせない。』

エヴァの確固たる言い方に、みな、それぞれの意思が固まった。


『もっとも、貴様らと肩を並べるのは不愉快だがな。』

と、ヘイカンは白い髭を撫でながら本当に不愉快そうな顔をした。


そう言うヘイカンをルルツは睨んだ。

『また始まった、偏屈爺ぃ。』


『まあまあ。そう言いながらも協力してくれるだろ?』

サウラの言葉に、ヘイカンはフンッとそっぽを向いた。

ルルツも溜め息を吐いて、それ以上言うのは止めた。


『今まで戦ってきた、多くの者達の為にも。』

ジョイオティスはスッと私達の方を見つめた。

その美しく貫くような瞳に、私は頷いた。


『殺されていった者達の為にも…!!!』

ハティスは確かな殺意を、まだ見ぬ敵達に向けた。


『動く時が来た。』

エリックの冷静で何の感情もはらまぬような言葉に、

我々は、それぞれの意思を実行へ移した。

世界レベルの軍を立ち上げ、各国が協力して敵を迎え撃つのだ。

世界を守るため

自分の家族を守るため

争いを終わらせるため

悪魔を殺すため

悪魔を浄化するため

能力者がこれ以上傷付かぬため

自らの思惑のため

世界のため


我々は―

志野っちの発言ですが、この戦災での負傷者とかは国全体の話です。

市だけならもっと少ない。

エミヤは今は知りませんが、実際は戦災は世界各地で一斉に起こりました。

そのなかでユウヤや魔界側の攻撃は極一部で、殆どはそれに反応した悪魔の攻撃です。

まさに地震のようなもので、溜まりに溜まった…って感じです。




また、あの悲惨な災害を永遠に忘れぬため。

また二度と起こさぬため。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ