[貴方との幸せ]
けたたましい警報が鳴り響いた。
今度は、戦争の終わりを告げる警報だ。
教科書で見て、読んで、テストやって知ってきたつもりだった。
……………けど、これは。
「あんまりでしょ……………」
僕は何にもなくなっちゃった茶色い地面を見つめた。
死ぬ気で頑張った。
死んだやつだって大勢居た。
それなのに、残ったのは瓦礫と悲しみと怪我人と憎しみと死体だけ…………
何が残った?
失ったものの方がずっと…ずっと多いじゃないか…!!!
僕らは何の為に戦ったって言うんだ?!?!!
ナツカは、みんなは、何の為に死んだって言うんだ!!!!!!
この世界も、魔界も、一体、何を手に入れたって言うんだ!!!!!!
何が残ったって言うんだ…
そんなの…こんなの…!
悪いもんばっかだよ…………良いことなんて何にもなかった………………。
勝って笑ってはっぴーえんど?
笑わせないでくれよ…………笑えないよ…!!!!!!!!!
死んじゃったら、無くなっちゃったら、意味なんて………
「なんにもない。」
子供が笑いあってた。僕らもいつか笑いあってた公園も。
みんなで登下校した道路も。
お菓子を買って貰えなかったお店も。
走り回って怒られた図書館だって
怒られたりお菓子くれたりした近所の人のお家だって
友達のお家だって
…僕が生まれて育った場所が…。
どこ…………?
こんな場所知らない。
全部壊れた。
僕が壊した。
…違う。違う。悪魔が壊したんだよ。
悪魔のせいだ。
そうさ。
だって悪魔が襲ってきたんだ。
悪魔がエミヤを連れ去ったんだ。
…………そうだ。エミヤを連れ戻さなきゃ。
エミヤだけでも。
せめて…せめて……!!!
本当は解ってるんだ。
悪い奴なんて、多分いない。
……けど、だったら
僕、この気持ちはどうしたら良い?!!
なくしたらいい?
忘れたらいい?
だけどさ。それってさ。
ナツカを裏切ることにならない?
僕は無理だよ。
ナツカと一緒にいた日々を、そして殺された瞬間のことを忘れることなんて絶対にない。
絶対に出来ない。
憎くて
憎くて堪らない。
どうして僕が、ナツカがあんな目にあわなくっちゃいけなかったんだ?
僕ら戦ったよ。
それが僕らの役目だからって、みんなの為だって、僕らがやんなきゃいけないからって。
その結果が…あれ?
酷いよ。
……………………やっぱり憎まずにはいられない。
僕は悪魔を憎む。
それがすべての原因だよ。
悪魔さえ居なければ、僕もナツカもエミヤも…ユウヤだって!!!!!!
きっと、きっと笑えていたんだよ!!!!!!
そうなんだよ…
「エミヤ。エミヤ。」
冷静で落ち着いた声に、私は穏やかに目を覚ました。
視界に映ったのは、私と同じ金色の髪と、藍色の瞳を持った女性。
私は何故だかこの女性を、お母さんだと思った。
「起きたか。
を頼めるか?
私はアイツらを起こしてくる。」
と、お母さんは指をポキポキと鳴らした。
どうしてあの人達は、お母さんに怒られるのが解っていて起きてこないのだろう。
…そう言う趣味だったのかな。
「朝御飯なに?」
私が起き上がりながら聞くと、お母さんは私の頭を撫でながら答えた。
「目玉焼き ベイクドビーンズ ベーコン 焼きトマトだ。」
私は大人しく撫でを受けながら聞いた。
今日は憤怒…
一体、どういうスパンで変わってるんだろう。
魚か、肉か。
米か、パン。
ジャンルが違う過ぎると思う。
たまに、それにすら逸れている。
…全部好きだから良いんだけど。
「じゃあ行ってくるよ。」
小さく頷くと、お母さんは微笑んで部屋をあとにした。
私も靴を履いてベッドを後にした。
下へ降りると、台所から良い匂いがした。
分かっては居たけど、あとは盛り付けだけのようだった。
「…物足りない」
盛り付け机に並べ終わって、自分が呟いた言葉に、私は少し驚いた。
いつもこうなのに、どうしてこんな風に思うんだろう…。
「おはよう、エミヤ。」
その声に後ろを振り替えると、みんなが上から降りてきていた。
家族…四人。だった………?
多い………?
足りない………?
「エミヤ。
朝食を食べようか。」
椅子に座るみんなを見て、お父さんに頷いた。
席について、祈りを捧げてから、いただきます。と手を合わせた。
朝食はいつもの通り美味しい。
そう言えば、この国のご飯は朝食とおやつ以外食べたことないなぁ、とふと思った。
今度お兄ちゃんを誘ってお店に行こうかなぁ…。
「私は今日出掛ける。
3人で家を頼めるか?」
それは大丈夫だと思う。
畑のお世話ならいつもやってるし、洗濯とかは得意。
「どこに行くの?」
お兄ちゃんの問に、お母さんは言い難そうに口ごもった。
「ん…。ああ。ギルドの…な。」
「ジー」
「「ジー」」
お父さんを真似て、私とお兄ちゃんもお母さんの事をジーっと見つめた。
正直、私もちょっと不満だ。
お母さんは確かに強いけど、だからって態々危ないところになんて行って欲しくない。
でもお母さんには天使だって聞くと、居ても立っても居られないらしい。
「………平気だから…」
私はハァ…と溜め息を吐いた。
別にこんなことしたところで、お母さんが行くのを止めない。何て事は知ってる。
それでも不満なのだ。
…そんな暇があるのなら、ずっと一緒にいて欲しい。
だからって着いていこうとしても駄目って言うし。
「すぐ終わらせてくるよ」
そう言ってお母さんはみんなの頭を撫で、ギルドへ出掛けていってしまった。
「…じゃあ、お母さんが帰ってきたら、ビックリさせてやろう。」
ニヤッと悪戯っ子のように笑って見せるお父さんに、私とお兄ちゃんは顔を見合わせてニヤッとした。
………………………
………………
………
「おかえりお母さん!」
「おかえり母さん。」
「おかえり真綾!」
満面の笑みで迎える私達に、お母さんは目を見開いてから笑った。
「どうしたんだ?3人とも。」
私達は顔を見合わせてニヤァッとしてから、お母さんを家の中へ引っ張った。
お母さんは笑いながら、大人しく従った。
「…おおっ。
掃除してくれたのか!」
「今日はオショーガツって奴なんだろ?」
お父さんがオショーガツは家中を掃除して、豪華なご飯を食べる日だって教えてくれた。
「…お正月か?
今日は大晦日だろう。」
「細かいことは置いといて!」
置いといて!と私達もお父さんの真似をしながら、お母さんを椅子に座らせた。
今日は私とお父さんでとびっきり頑張って、お兄ちゃんが狩ってきた鶏でローストチキンとケーキを作ってみたのだ。
一瞬、グラッと景色が揺らめいた気がした。
ローストチキンやケーキの匂いが分からなかったのだ。
お母さんは私達を抱き締めた。
「お?どうした?」
お父さんはニコニコ笑いながら言った。
私も顔を伏せて、ギューっと抱き締めた。
何故だか、堪らなく不安なのだ。
何が不安なにかも、どうしてなのかもわからない。
ただただ私はみんなを手放したくなんてなかった。
「それで良いのか?」
お兄ちゃんが私を抱き締めながら言った。
私は答える代わりにギュッと抱き締め直した。
良い。
良いの。
だって私は家族が大好きだもん。
「家族は良いのか?」
より一層に抱き締めた。
家族はここに居る。
お兄ちゃんは…、何を言ってるの?
お兄ちゃんは、私を引き離して俺の目を見た。
「お前には、お前の家族が居るだろう。」
お母さんは手を離さないままだったけど、お父さんでさえ手を離してしまっていた。
私の家族はみんなだけだよ。
どうしてそんなことを言うの?
私達は家族じゃなかったの…?!
「家族だよ。永遠に。ずっと。
けれど君にとっては俺たちだけじゃないはずだ。」
「お母さん。」
「…解ってる。
解ってるんだが…!」
そう言いながらも、お母さんの握る手は強くなるばかり。
私は思わずにっこり微笑んだ。
お母さんが、こんなに可愛い人とは知らなかったなぁ…。
お父さんは優しそうでかっこいい人だったし
お兄ちゃんはちょっとお母さんに似てた。
私は、私とお母さんが満足するまで、長い、永い、間抱き合っていた。
ここは私とお母さんの力が創り出した世界。
有ったかもしれない世界。
どこかにきっとある世界。
幸せだった。
幸せそうだった。
四人で穏やかに過ごす日々は幸せそのものだった。
笑いあったり
泣きあったり
たまには喧嘩したり
やっぱり笑いあったり。
…幸せだったんだろうなぁ……。
…だけど。
その世界にタイガは居ない。
みんなが居ない。
部のみんな、学校のみんな、仕事で出会ったみんな、まだ見ぬみんな、道ですれ違うみんな。
それらすべて今の私を作り出してきた。
私の幸も不幸も与えてくれたすべて。
大切な。大切な。
掛け替えのないものだ。
「だから」
私は覚悟を決めて、お母さんに向き直った。
お母さんは涙の溜まった瞳を細めた。
「愛を与え与えられる、強く優しく美しい雅やかな我が子よ。
愛している。
………行ってらっしゃい。」
私とお母さんはもう一度抱き合って、それぞれの道へ進んだ。
「行ってきます」
私は私の私だけの世界。
君の、みんなの居る、愛おしい世界へ。
藍の使い魔であったエミヤの夢の中で重なったのはお母さん、真綾ですね。
解る人は解ったかもしれません。
死体?が近くにあったので共鳴したのでしょう。




