《黙示録 終》
私立 聖神中学1年C組。
音澤 愛雅。彼女は中学生にしてプロの歌手。
いつも明るい笑顔がエミヤの魅力のひとつなのだが…。
「みんな部活どうだった~?」
昼放課の時間。ほわんとした雰囲気を持つ、
一樹 妃南がいつもの雰囲気で言った。
「うちはね、先輩が優しくて楽しくて
もう、最高だったよ!」
待ってましたとばかりに、榎本 亜美は嬉しそうに言った。
「私は普通だったよ。
エミヤは?何かあったんでしょ?」
「え…。特に何も…帰宅しない帰宅部だったよ!」
エミヤは一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑い飛ばした。
(セイラにはいつもばれちゃうな~。
気を抜かないようにしないと!)
「エミヤ…ちょっと。」
「?。なに?」
「特殊能力部…」
セイラがさらに何かを言おうとしたが。
キーンコーンカーンコーン
ちょうどチャイムが鳴ってエミヤは慌てて前に向いた。
(な、なんの話だろう…
まさか、能力とかがさっそくバレた!?)
キーンコーンカーンコーン
「エミヤ、さっきの話だけど」
授業が終わり、セイラが話しかけた。
「うん。」
「部活で嫌なことが有ったなら
やめたっていいのよ?
ここだけが、あなたの世界じゃない。」
「…嫌なことなんてないよ!?
もうっ、セイラは心配性だなぁ」
(良かった。そりゃそうだよね
話してないんだから、知ってるわけない。)
「今はそうかもしれない。
でも、ここが嫌になったら、必ず言って」
「うん。ありがとうセイラ。」
その言葉に私は安心してそっと微笑んだ。
「エミヤちゃん、セイラちゃん。またね」
「バイバイ~」
今日は五時間授業だったので
帰り支度を済ませたアミとヒナは帰っていった。
「俺たちも行こうぜ」
タイガがエミヤの頭に肘を乗せて言った。
「重い…………」
「じゃあね、エミヤ。」
「あ、うん。ありがとねセイラ」
エミヤがセイラに笑って手を振ると
セイラは微笑み返しながら、帰っていった。
「うん…。行こっか」
「…ああ。」
…エミヤが変だ。
理由はなんとなくは解ってる。
橘と話していたから、なにか言われたんだろう。
「失礼しまーす」
俺は声をかけながら扉を開け特殊能力部の部室に入った。
「いらっしゃ~い」
志保先生が笑いながらそう言った。
部室にはタイガとエミヤ以外は全員居た。
「こんにちはエミヤちゃん、タイガくん」
サキアに遠慮がちにお辞儀をしながら椅子に座った。
「エミヤ!ドラマのやつっていつ?」
ユキカ先輩は興奮気味にエミヤに言った。
「来週の土曜の予定です」
エミヤの出演するドラマの
エキストラ?かなにかが足りなくなり、
俺たちが代わりに出れることになった。
「11時に、駅前の時計塔で集合しましょう」
エミヤがそういうと俺も含め全員異論もないので頷いた。
「とにかく、じっとしていてください。
特に…タイガとユキカ先輩は!」
案の定俺は釘を刺され、ついでにユキカ先輩も言われた。
まぁ、当然だ。これがエミヤの仕事なんだから。
本当はそんなことしなくても、
父さんと母さんが普通に養うんだが、
エミヤは出来る限り自分のことは自分でしたいらしい。
「今日は何もないから
これ食べたら解散しましょうか」
志保先生はそういいながら、ショートケーキを持ってきた。
「わあ、ケーキですか?」
ケーキを見るとエミヤは嬉しそうに目を輝かせた。
「ええ。お祝いにね」
「やったぁ!志保先生ふとっぱら!」
「ふとっぱら!」
俺もユキカ先輩に便乗して言った。
ただでさえテンションの上がるものなのに
それを学校で食べれるのだからい
くらクールな俺もテンションが上がらずにはいられない。
「じゃあ、食べましょうか」
ショートケーキやスプーン、
飲み物をそれぞれ配り終わり志保先生が言った。
「部長さんと碓氷先生って
甘いもの大丈夫なんですか?」
確かに部長や碓氷先生が甘いもの好き~
っていうイメージはあんまりない。
俺は結構好きだが。
「好きではないが食べれる」
「え~、甘いもの美味しいよ~」
碓氷の言葉にユキカがフォークを構えながら言った。
「俺は普通に好きだ」
「そうなんですね!
私も甘いもの好きなんです」
エミヤはそう言って部長に嬉しそうに笑いかけた。
「…そうか」
部長もエミヤにぎこちなく口角を上げた…?
なんだ、あの表情は…。怒ってるのか?
「ハヤテが!?」
「「部長が!?」」
「「「笑った!?」」」
部員全員が椅子から立ち上がって言った。
(あれは、笑ったって言うのか?
ぎこちなすぎるだろ。表情筋死んでるな。)
「なんだよ、俺だって笑うぞ…?」
否定はしているが、自信がないのか疑問形になっている。
「いやいや!
ハヤテが笑ってるとこ初めてみたよ!」
「私もほとんど見たこと無いわ…」
ユキカ先輩はぶんぶんと首を振り
サキア先輩はあっかんと言う感じだ。
よほど珍しいんだろう。
「天変地異の前触れかな…」
ナツカ先輩がケーキ食べながら、ポツリとつぶやいた。
(…そこまでか)
「こんなこともあるのね………」
サキア先輩もナツカ先輩を見て
ため息交じりに席についてケーキを食べ始めた。
「俺が笑うのがそんなに珍しいか……?」
こっちが聞きたい。
何でそんな珍しい表情をエミヤには見せたんだか。
エミヤに友達が出来るのは良いことだが、
相手が男では話は変わる。
もしも2人が付き合ったりしたら…と考えると、
こう。なんというか、もやぁっとなる。
別に彼氏じゃないから、邪魔する権限はないのだが…。
「タイガ?」
当の本人であるエミヤが視界一杯に映ったせいで
危うく椅子からひっくり返るところだった。
「な、なんだ?」
「…………別に、何か停止してたから」
途端にエミヤは不機嫌そうな顔をし、
ケーキを食べ終わった皿を机の中央に重ねた。
エミヤは怒ったり機嫌が悪くなったりすると黙る癖がある。
解り易く怒ってくれてる方がまだありがたい。
いつも喋ってるエミヤが黙ると、
変に威圧があって俺はエミヤが黙るのが結構怖い。
「はいはい。食べ終わったなら、みんな帰ってね~」
志保先生が全員の食べ終わったお皿をまとめ
早く帰るように促した。
「帰るぞ。」
「え。…ぬぁぁぁあ」
俺がおろおろしていると
部長に首をしめられながらずるずると引きずられ帰らされた。
「タイガくん、おもしろっ」
それを見たユキカ先輩は俺を指差して笑い、エミヤもつられて笑った。
機嫌が直ったかは解らないが、
取り敢えず、笑ってくれたことにホッとした。
きっと大丈夫。
あの子には味方が大勢居る。
私は、私の役目と、目的を果たすだけ。
その為なら、手段なんて選ばない。