[残酷な未来]
「なんか、地面が真っ黒になったみたい~」
知らない人の屋根から下を見下ろして、僕はそう思った。
「気色悪い。」
気持ち悪い。
穢らわしい。
悪魔達が所狭しと、道中に溢れ帰ってる。
結界を壊そうと体当たりしたり、微弱な魔法を使ったりしてる。
殺しても殺しても
また、地の底から現れる。
ゾンビみたいな奴等だ。
こんな奴等、まともに相手してらんないよ。
「人は…さすがに居ないね。」
居たとして、
この時点で道に出てるような人に、もう先はないだろう。
水で……いっきに。
「―水よ、我に従い 我を王とせ、大海の蛇よ!!!―」
僕がそう唱えると、水道の水や池の水、遠くの海の水や空気中の水が集まって、蛇の形を創った。
「―水龍神!!!!!!―」
同じ悪魔の名だ。怪物の名だ。
お前たちにはちょうど良いでしょ?
大きな蛇は上から覆い被さり、周囲の建物ごと悪魔達を飲み込んでいった。
津波のように。
すべてを飲み込み、すべてを壊してしまう。
蛇は全部を飲み込んで悪魔達を食べ尽くすと、僕の元へ戻ってきた。
蛇に触れると、ガクンと足に力が入らなくなってしまった。
…いや、違う。
足だけじゃない…全身の力が……。
「………っそ」
蛇に背中に乗せるように言って、上空から見下ろしてみたけど、悪魔達はまだたくさん居る。
倒さなきゃ、いけないのに…
体が、……動かない!!
病み上がりに調子に乗りすぎた…、もう、力が……
上空で、蛇の形を保つのも限界に近づいてきた。
そのとき
『ユキカ』
ナツカの“声”が聴こえた。
『力を、求めるかい?』
ナツカは僕にそう問い掛けた。
すぐに全ての意味が解った。
ナツカは、もう、僕の知ってる兄妹じゃない。
…いや、元々ナツカはナツカでしか無かったのかもしれない。
全部…全部、僕が作り上げた偶像…?
『ユキカ』
やめて
呼ばないで。
僕のこと、見えてない癖に…
見てないくせに!!
僕はお前にとって……
今のお前に、僕はどう見えてるんだ…?!
『僕の大切な妹よ
君は王だ。
呑み込まれたり、しないよ…』
……ナツカ……………………それ、信じて良い………?
「はぁぁあ」
僕は大きく息をして、蛇の上に立ち上がった。
触れられない。
話せない。
笑い会えない。
けど、そうだね。
確かに、僕らはひとつだったよ。
…互いのことを見ることすら出来なくても。
それでも、感じることは出来る…!!!!
僕が、生きている限り
能力者で、在る限り!!!!!!
「―いくよ、水龍神―」
僕はニヤって笑った。
次3匹遅れて4匹、次1匹、次7匹遅れて1匹、次―――
能力で1秒先の予知を繰り返しながら、私は大鎌で悪魔を倒していった。
右、右、上、左、右、下、左、上、右、下、下―
悪魔の何ら脈絡のない襲ってくる方角も予知しながら。
でもこれは、予知にすぎない。
「っ…!」
ほら、また。
予知ができたところで、それに体が追い付かない以上、完全無敵ではない。
油断すれば、私は…仲間を失ってしまう…!!!
そういう道も確かに視えている。
現に…私は、その道を進んでしまった!
もう、もう、2度と失いたくない。
失いたくない…!!!!
再び加えられるであろう悪魔からの攻撃に、私は身をこわばらせた。
「ハッ…何で…?!」
1秒先の未来に、タイガくんが視えた。
「もう行けるかな…って!!!!」
タイガくんは剣に纏った炎を鞭のように悪魔達に打ち付けた。
「「「ギャアァァァァアア」」」
悪魔の叫び声が、一瞬で重なりあった。
それによって加えられるはずだった、私への攻撃は消滅した。
「―糸よ!!!―」
気が付けば、ハヤテまで出てきてしまっていた。
いつの間にか強ばっていた体から、力が自然と抜けた。
私はギュッと目を瞑って、再び目を見開いた。
今度は、紫の瞳で。
未来はきっと変えられる。
変えられてしまう。
きっと、きっと、こんなの必要、ない!!!!!
「はぁぁあああああ!!!!!!」
私は大鎌を悪魔へ向かって降り下ろした。
卒業式の日に視た、あの未来を変えるために。
「……………佳代さん」
ラムセスさんの腕から下ろされ、一ヶ月ぶりにマネージャーの佳代さんの話し掛けた。
「エ………エミヤ?!!?!!!」
佳代さんは今私がいることにも、後ろのラムセスさんにも驚いているようだった。
「今までどこに居たの?!?!!
行方不明になったって聞いて……!!!」
世間的にはそうなっているらしい。
強ち間違いでもない。
私は深く腰を折った。
「ごめんなさい。
本当に身勝手なのは解ってるけど、歌わせてほしいんです。
なるべく、遠くまで届くように。」
身勝手にもほどがある。
だが、それでも、私一人の声量ではいくらなんでも市全体には届くはずもない。
大きな電波を使えば出来るかもしれない、と考えた。
ラジオであれば…、もしくはさっきの放送を利用すれば…、どちらにしても佳代さんの力を借りたい。
それで電波を介して能力が聞くものなのかも解らないけど。
でも、少しでも可能性を大きくしたい。
「お願いします。」
私はただでさえ下げている頭を余計に下げようとした。
私の無理なお願いなんて、そんなもの無理に決まっている。
それでも…
「……………………解ったわ!
こっちも広告だと思えば安いものよ!」
佳代さんはそう言ってくれた。
「ありがとうございます!!!」
私は歌う。
魔界のため磁界のため世界のため誰かのため
この命尽きるまで、力を使い果たそう。
それが…せめてもの…、償い。贖い。自らへの報復。
リミッターはヘッドセットマイクの形に変わった。
どうやら、これで繋がっているらしい。
やはり普通の物では届かないのだろう…………。
屋上に出て、久し振りに磁界の風を感じた。
心無しか優しげな気がする。
「…エミヤ。
何が起こっているの?
貴方は何をしようとしているの?」
あの警報が、佳世さんにだけは聞こえていないなんて、そんな都合の良い話はない。
…むしろ、それを聞いていたからこそ、佳代さんは無理なお願いを聞いてくれたんだろう。
何が起こっているか…話せば長くなってしまう。
でも私が何をしようとしているかは
「歌うだけですよ」
それだけだ。
私が歌ったところで、何かが出来るという確証はない。
だが、少なくとも、魔界からの注意は私へ集中するはずだ。
殺すだけが、私の歌じゃないはずだ。…そう、祈ってやまないのだ。
「ラムセスさん、佳代さんをお願いします」
ラムセスさんは頷いた。
私は佳世さんをラムセスさんに託し、屋上へ残った。
何度か深呼吸をし、気持ちを落ち着かせた。
そして屋上の端まで行って、町中を見渡した。
…これが、最後になるだろうから。
最後にしなきゃいけないから。
私はカッと目を見開いて息を吸い込んだ。
誰も殺させない。
誰も死なせない。
きっと…きっと…!!!
『――「月が綺麗ですね。」――』
切ないような薄情なような、どこまでも響き渡る空気を震わす声が、スピーカー越しにですら伝わってきた。
タイガは構えていた武器をサッと納め、スピーカーの方を見た。
「エミヤ…、エミヤだ…!!」
歓喜するような声に、ハヤテやサキアも反応した。
それだけでなく、悪魔たちも動きを止めた。
苦しむ様子もなく、ただ歌を聞いているかのように。
「どういうことだ…?!」
ハヤテは驚愕を目に浮かべた。
これも、ユウヤの差し金なのか。それならば何故、悪魔が動きを止めているのか。
エミヤが自力で脱出したのか。だが、エミヤは自ら向かったはずだ。
何故―――?
「どこ…?どこに居るんだ…?!
エミヤ!!」
タイガはそんなことは微塵も考えない様子で、ただエミヤの姿を探した。
サキアはハッとして能力を発動させた。
「―眼よ―」
サキアの瞳が、赤く光った。
サキアはその眼で周囲を見渡し、エミヤの姿を探した。
「…?!
あ…れは、エミヤちゃん…なの…?!」
サキアの視線が向かう先を、タイガとハヤテも見つめた。
高い建物の上に、小さな点のようなものが見える。
だが、それ以上はあまりに小さすぎて見えなかった。
「エミ、ヤ………か…?」
目を細めると、点がどんどん大きくなっていって、大きな黒い点となって行く…。
「おい!近付いてるぞ!!!」
タイガはそれが近付いてきてることに、ハヤテが腕を引っ張るまで気が付かなかった。
それよりも、別の事に気が取られていたのだ。
「な………ん…、で…?」
タイガの声は震えていた。
ハヤテはタイガを引っ張りながら、黒い玉からサキアと離れ今一度、その姿を見直した。
「………真綾さん……なのか?」
それは、自分の母と父と共に写っていた少女の姿に違いなかった。




