[死神の大鎌]
「やっぱり私じゃ、エミヤちゃんの姿を見つけられないみたい…」
瞳の色を元に戻したサキアは、ハヤテとタイガに向かってそう言った。
「まあ、良いだろ。
その為に追い込み作戦したんだし」
市全体に、魔除けの力を持つ柊家の結界を張った。
そして七つの町の中で6つの避難場所を作り、残りのひとつに敵を追い込む作戦だ。
それで必ずしも追い込まれるとは限らないが、避難場所の方に向かうのならば、それはそれで好都合。
とはいえ、悪魔は残りのひとつに集中してくれた。
「けど…、にしたって」
悪魔が多すぎる。
以前のように強いわけではないが…。
やはり、市民を避難させるのは正解だったようだ。
だが、それ以外の保証はまるで出来ないだろう。
「…めんど」
ハヤテはこれでもかと溜め息を含みながら肩を落とした。
「体力さえ続けば楽ですよ」
タイガはそう言ってリミッターを剣に変えた。
「ところで、何でいつも剣なんだ?」
ハヤテもリミッターを外しながらタイガに聞いた。
「え、いや、手慣れてるから…?
一応ですけど、習ってましたし。」
「なにそれかっけー」
と、無表情のまま言うハヤテに、タイガは苦笑した。
そして、今度はサキアに視線を向けた。
「サキア先輩だって、何で扇なんすか?」
「軽いし、打撃も斬撃も手っ取り早く出来るから、かな?」
サキアのあまりに現実的な返答に、タイガは微妙な顔をした。
「…なんか、もっと、ビジュアル的なものだと思ってました。」
そんなタイガにサキアは微笑んだ。
「ふふっ。
確かに、さっきの理由なら鞭でも鎖でも良いんだけど…。
そんなにコントロール良くなくて…」
そう言って、サキアは肩を竦めた。
ハヤテ達は巻き込まれるのを容易に想像出来てしまった。
「そのままで頼む。」
「同じくです」
二人は同じように手をあげて言った。
「改めて言われると腹が立つわね」
そうしてサキアはリミッターを鉄扇へ変えた。
「さ、さ、さ、さ、さぁ、悪魔が来ますよ!」
「そ、そ、そ、そ、そうだよな!よし!」
またしても似たように慌てる二人に、サキアは思わず吹き出した。
そしてふぅ、と息を吐いて、前へ向き直った。
ハヤテも遠くから向かってくる大量の悪魔をスッと見据えた。
「行くぞ。
―糸よ、鋼となりて彼の者を封ぜ!―」
ハヤテが唱えると、僅かにキラキラと光ることで何とか姿が分かるような極細の糸が悪魔達へ伸びていった。
ただでさえ見えない糸に、数が多すぎて身動きが取れないせいもあり、殆ど抵抗が起こることもなく、悪魔達は即座に拘束されていった。
「―…………業火よ、堕落し者達を断罪せよ!!!―」
タイガがありったけの力を込め、そう唱えた。
すると、今までのタイガの力とは比較にならないような炎が、
まるで大波のように溢れだし、瞬く間に悪魔達だけを呑み込んでいった。
悪魔だけを飲み込むその炎は意志が宿っているようで…
「っ…」
タイガの呻き声と共に、その怪物は姿を消してしまった。
「は…ぁっ…?!」
タイガは心臓辺りを押さえ、崩れ落ちるようにその場にうずくまった。
「タイガ?!」
そんなタイガにハヤテ達はギョッとして駆け寄った。
「わっ、ちょっ、来ないでください!」
顔を伏せたままタイガは両手でハヤテを制止した。
タイガの言葉に、二人はとりあえずは止まった。
「何でだ?っつかどうした!」
「いや、その、…たぶん見た目がヤバイことに。
体が脆すぎて、ビビったというか…」
「そりゃ…、そうだろうよ。あんなん使ったんだ。
って…ホントにヤバイな」
二人はなにも問題ないと判断してタイガに近寄っていた。
確かに、タイガの言うとおり目は充血しているし、
見えるのは顔辺りと手だけだが、タイガの全身の血管は浮き上がりドクドクと見えるほどだ。
ハッキリ言ってパッと見ゾンビのよう。
「だから言ったじゃないっすか……」
来ないでと言ったのに普通にやってきた二人に、タイガは溜め息を吐いた。半分は安心だ。
「痛い?」
サキアは心配そうに、触れるか触れないかというほど優しく頬へ触れた。
「痛い…より、熱い感じです。
大丈夫ですよ…?」
そう言われたサキアだったが、全く信用していないのか尚、心配そうなままだ。
「あの…。
………?!」
いつのまにか赤くなっていたサキアの目に、タイガはギョッとした。
「サキア先輩…?!」
瞳の色がコロコロ変わるのは、タイガにとってはどうしても慣れないもので、余計に驚いてしまう。
「いつ血管が破裂したっておかしくないわ。
現時点であんなものを使うだなんて、自殺行為よ。」
タイガの顔や腕を見つめ、敢えて少しキツくサキアは言った。
見れば明らかに解ることだが、サキアの視立てによると見た目以上に悪いらしい。
「じゃ…じゃあ………」
そうなってしまうと、タイガの体力さえ続けば…という話がすべて頓挫してしまう。
体力でなく、体がまるで持たないのだ。
「簡単なことね。ただ放出するんじゃなくて纏うのよ。
炎なんだからそっちが趣旨じゃない?」
「纏う…?」
タイガにはサキアの言う意味が若干わからなかった。
今まではこう言う戦い方しかしてこなかったのだ。
それほどの知識も、体力も、体も、今までは持っていたから。
「剣に纏わせて、それこそ鞭のようにすれば良いわ。」
解りやすい例えに、タイガは少し考え出した。
「…………」
それを見て、サキアはハヤテに声をかけた。
「ハヤテ、手伝って。」
「……ああ。」
二人は、サキアの目で診断しながら、ハヤテの能力で体や能力の調節をして、血管が破裂するのを防ぎつつタイガを癒した。
能力を使うのも、生きるのと一緒で、走れば酸素が必要になって血の巡りが速くなるように、
能力も多くの力を使えば、多くの“エネルギー”のようなものを必要とする。
血液と一緒にエネルギーが運ばれているのか…、エネルギーそのものが血液なのか。
その辺の原理はわからなくとも、
サキアには視えているのだ。
二人の治療は速やかに遂行された。
「まだ使っちゃ駄目よ。て言うか動いちゃ駄目。」
「す…すみません…」
このメンバーでは主戦力にならなければならないのに、
役に立つどころかろか足手まといになってしまったことに、タイガは負い目を感じた。
「い――。
そうね、次はないわよ。」
良い。と言い掛けてわざと怖く言ったサキアにタイガは頬を緩めた。
「…はい。」
「俺へのアドバイスは?」
タイガを背後の森へ休ませたハヤテは、サキアを見て聞いた。
「現状維持。」
一切こっちを見ないサキアにハヤテは目を細めて溜め息を吐いた。
「……おっけ。わかった。」
「…黙ってたって、アンタは私のこと泣かせないでしょ?」
ぶきっちょな言葉にハヤテはしばらく瞬きをして笑った。
「…ああ。当然だろ。」
笑ったハヤテを見てサキアも微笑んだ。
「そうよね」
「―糸よ―」
再びハヤテは悪魔達を捕らえた。
サキアはその隙に悪魔に向かって走り出し、悪魔達を倒していった。
「キリがない…!」
「…………っ!
―糸よ!悪しき者を滅せ!!―」
ハヤテがそう唱えると、糸は収縮していき、悪魔達を切り刻んでいった。
本来、糸はこんな使い方をするものではない。
あくまで拘束する程度のもの。
そもそもとしてハヤテの能力は糸を操る力ではないのだ。
そんなハヤテが無理をしてまでこんな使い方をしたのは―
「まだ居る…!」
サキアの負担を僅かでも減らしたかったから…サキア失いたくなかったからだ。
その思いが為に、ハヤテは無茶な能力を何度も悪魔に対して放った。
けれど、サキアの瞳に悪魔が居なくなる様子が見えなかった。
倒しても、倒しても、
地中から、地の果てから、まるで何かに呼び寄せられるように集まってくるのだ。
……………いや
「っ…」
ハッと見れば、ハヤテはいつもと変わらぬ無表情だったが
視れば、ハヤテの力が消耗してるのは一目瞭然だった。
これ以上は、無理だ。
…私が、やるしか……!!!
サキアは深呼吸をしてリミッターの形状を変えた。
「ハヤテ、離れててね…」
サキアはその両手に武器を持ち、先に見える悪魔に向かって歩き出した。
「何でだ…?
俺は…!」
平静を装うって居ても、それはサキアにだけは通用するはずもなかった。
なのでサキアは敢えて不適に微笑みを浮かべた。
「巻き込んじゃうかも♪」
その微笑みに、ハヤテは不覚にもブルッと身を震わせた。
それを見たサキアは笑って、悪魔へ走り出した。
死神のような大鎌を両手に携え




