[決戦]
2014年9月9日9時きっかり。
「さぁ、決戦です。」
柊 志野の声と共に能力者達は立ち上がった。
柊の家や、それぞれ主要となる能力者の家に結界が貼られた。
そして、悪魔が外へ漏れないようにと市全体にも結界を。
すべてが完全無欠なわけではないが、能力者の家だけは間違いなく安全だ。
主要となる能力者の家は得てして大きいために、そこへ避難誘導させる算段となる。
それぞれの区の中にある七つの町のなか、六つの町に避難場所を作った。
・南山台
柊家…………………柊 志野、高宗、誉、志保
聖神高校及び大学、高校…彩瀬 満逢
・琶惹
清水家………………清水 優、奈美、神氷 懸憐
・歩ヶ丘
聖神病院……………碓氷 和佳、燈果、翼、海翔
・青盛
神氷家………………神氷 憐真、佳子、蕾凰 真霧
大石 陸穂
・大石
枷家…………………枷 隆覇、隆貴、千代壬、力道 帆凪
・砂六
ハッピーカラー……秋風 刹梛、草壁 かずさ、火輪 煌
残りの尼ヶ辻に避難場所が無いのは諸々の理由はありつつも、そこに敵を追いやるつもりだからだ。
その諸々の理由のひとつである、広いわりに人が少ないから追いやるのには打って付けなのだ。
志野達が考えた予測によれば、10時半頃にユウヤ達は動くはずだ。
だからその前に市民達を各、避難場所に避難させる。
一応この事態は、区外にいる能力者達にも伝えたために、それなりに増援もある。
それなりに、なのは他の区を無防備にするのは危険だと考えたからだ。
それでも、この区にかなり集まったという。
「とりあえず、は避難誘導だ。
俺はすぐ居なくなるから、あとはセツナに任せる」
俺はさっき初めて会った二人に対してそう言った。
俺は避難誘導が終わったらすぐに最前に出る。
むしろ終わらなくともセツナ達に任せて行ってしまう。
「お前に言われなくったって解ってんだよ。
燃やすぞコノヤロウ」
初対面でいきなりそう言ってくる
火輪 煌外部から助っ人で来てくれた小学5年生だそうだ。
…ついでに言うと、火の王。
だから小学生なのに単身できてるんだろう。
なかなかちびっこい上に、生意気というか…なんだろう、キャンキャンと鳴く子犬みたいな奴だ。
なので、腹立てる出来ない。
「まあまあ~」
といってさっきからずっと煌を宥めてくれているのは
草壁かずささん。こっちも外部からの人で22才。
アリア先輩と同じ大学らしい。
ひとつの町を世話するのに、俺を外したら3人しか居ない。
………能力者の数が足りないのがよくわかる。
志野がハンナとケイの交際を反対したってのも解らんことはない。
セツナは腕時計を見て、口を開いた。
「始まります。」
そして聞いたことのない警報が鳴り響いた。
『非常事態宣言
直ちに避難してください
繰り返します直ちに避難してください』
それぞれの町にどこに避難したら良いのか、警報が流されていく。
俺達はハッピーカラーだ。
一番ハッピーカラーへ遠い地点にいる俺達は、囲むようにして避難させていく…
が、思った以上に上手くいかない。
もう30分も経過したのに。
さらに10分後。
「すまん、セツナ。行ってくる。」
「…はい。
呉々も、お気をつけて。」
セツナの言葉に、俺は頷いた。
避難誘導は中々上手くいってないが、俺はそれより先に行かなければならない所がある。
声をかけながら、俺ら自転車で尼ヶ辻へ向かった。
これでは何人か取り残される人が居ることだろう。
警察にも消防にも志野さんは頼んであると言っていたが、プロも人間だ。
完璧など不可能だ。
ましてや悪魔など信じられるはずがない。
テロだなんだと言えば良いのかもしれないが、それでは後が面倒すぎる。
それ以前に混乱が起こる可能性が大きすぎるのだ。
………考え得る最善は尽くしたつもりだ。
ただ、俺達が止めるしかない。
僕はバッと目を覚まし、勢いよく起き上がった。
「ッッたぁ!!!?」
腕に鋭い痛みが走って、僕はひたすらに驚いた。
見れば、腕に刺さっていた何かの管が抜けたらしかった。
めっちゃ痛いし、血ぃ出てるし…。
もっとちゃんと付けてよね!
と、僕は我に返って辺りを見回した。
今何時…?あれから何日経った…?!
窓の外を見てみて朝か昼ぐらいだってことはわかった。
とりあえず、血が流れてる腕を手で押さえた。
能力では相性悪すぎると思う。
「ユキカ?!」
碓氷の声がして、僕は振り向いた。
…うん。やっぱり気配がする。
「あれから、どのくらい経った?」
一日?一週間?それとも、もっと?
エミヤは、…ユウヤは。どうなった?
「…1ヶ月だ。」
その時間に少し驚きながら、
僕は改めて血を見て、こんな色だった月を思い出して
また窓の外を見つめた。
「…また満月か。
悪魔の量が尋常じゃないんだけど。」
見えはしないけど、1ヶ月なら…そういうことなんだろう。
どうやら、緊急事態だ。
数だけで言えば……500?
しかも、これ多分、市外にも居る。
一匹一匹の強さは大したことはないけど…。
ふーん…滾るじゃん。
僕は軽くポキッと指を鳴らした。
「寝てろ。
お前は病み上がりなんだ。」
碓氷は僕をベッドへ寝かせようとした。
僕はそうされる前に、碓氷を睨んだ。
少し怯んだ碓氷に、僕は微笑んだ。
「包帯とかない?」
碓氷は僕をジッと見てから、頷いてどこかへ行った。
僕は碓氷を見送ってから、立ち上がって窓の方を見つめた。
上を見上げると、うっすーい光の壁が見えた。
たぶん、柊家の結界だ。
良い心掛けだけど、思う通りにはいかないと思うな。
それよりも、結界を無くして、此処に敵を集中させた方が良いかも。
…ただ、その集中させる的が問題だ。
パッと浮かんだのはエミヤだった。
あれほどの血からには悪魔はどうしたって惹かれる。
「取ってきたぞ」
碓氷の声に、僕は再び振り返った。
受け取って自分でつけようとしたけど、物凄く睨まれたので、されるがまま。
「僕の携帯とか、着替えってある?」
僕の問いに、セツナはベッドの左下にある引き出しを視線で指した。
手当てが終わってから、僕は鍵を受け取って携帯を取り出した。
今の時間は9時50分ぐらいで、今日の満月の時間は10時半くらいだった。
てことは、あと30~40分で…。
「滾るね~。」
思わずそう呟いたら、碓氷から冷たい視線が注がれた。
さすが叔父と姪。
かなり似てる。
「碓氷、僕は戦うよ。悪魔を殺すよ。それが僕の存在意義だ。」
僕はそう言って、碓氷の胸にポンッと甲を当てると、碓氷を華麗?に避けて屋上へ向かった。
それが、それだけが、僕の生きている意味。
僕は、僕は…
絶対に、絶対に許さない。
ナツカを殺したユウヤを!!!
エミヤを連れ去ったユウヤを!!!
タイガを悲しませたユウヤを!!!
ユウヤ自身を殺してしまったユウヤを!!!!
絶対、許さない。
僕は屋上に立って、僕は思わず広角を上げた。
エミヤだ。
エミヤが現れた。
歌は聞こえない。
けど、空気中の水がざわめいている。
「ふふっ…」
ホント、最っっ高に滾るよ!!!
「碓氷!結界壊しちゃうからね?!」
後ろから着いてきた碓氷に、僕はそう叫んだ。
「は…はぁ?!」
「この市の結界!邪魔だよ!」
僕は病院に掛けられた結界の外で、水の槍を生成した。
結構難しいな…。
ただでさえ苦手だってのに、柊家の結界を壊さなきゃいけないんだから。
「おい!何してるんだ?!」
碓氷はそう言って、僕の肩を掴んだ。
「もうっ、邪魔しないでよ!
良いから、碓氷は中に居る悪魔に当たってよね!」
説明するのも面倒くさいし、興ざめすぎるよね。
うーん…何とか形には成ったけど………、もうちょい強くしないとね。
「…中の………そういうことか。」
さすが、碓氷。
頭良いよね。
そういうところは好きだよ。うん。
というわけで、僕は遠慮なく集中した。
ただ、悪魔を殺したかったから。
「柊のみんなごめんね~
―せーーのっ!!―」
槍を思いっきりぶん投げた。
結界は脆くも儚く崩れ去って、そこから悪魔が雪崩のように溢れた。
そして実はもうひとつ作っていた細かい槍を悪魔たちへ投げつけた。
「ふふっ」
悪魔へ刺さった槍は、それから弾けて栗みたいなトゲトゲに変わって、隣にいた悪魔を刺し、そしてまたトゲトゲへ~。
悪魔が消えるまで続く無限の連鎖だ。
「お前…」
碓氷は唖然、という感じで僕を見た。
僕はニヤッと笑った。
「僕ってば王様だもん♪」
水の王。
すべての水は僕の思うがまま。
僕の兵隊。
僕だけのシモベ。
例え誰の兵隊になってたって、すぐ僕のもの。
だから、従え。
代わりに僕のすべてをあげるから。
だから、戦いの終わる。その日までは…!
「さあ、その辺のも倒しちゃおうよ」
悪魔が倒され、柊の結界もすぐに修復された。
けど
…駄目だ。
「碓氷、僕結界の外行ってくる。」
僕はそう言いながら、屋上の端へ向かった。
結界壊して改めてわかったけど、結界の外の悪魔がかなり多い。
市内とまではいかないけど…。
それに反して能力者が少なすぎない?
「ユキカ!!」
「なにさ………」
一々止められるのは本当に興ざめ。つまらなすぎる。
「携帯持ったか」
僕は何度も目をパチパチさせ、かなり間を開けてからポケットをチラ見した。
「………………持った!」
「行ってこい!」
ドーンと構えんばかりのその物言いに、僕はニーッと笑った。
「うん!」
そう笑って、僕は病院の屋上から飛び降り、水で空を駆けた。
僕の背に掛かった青い翼で僕は結界を飛び出した。
変なドロドロした思いも、その時だけは忘れられた。
だって空はこんなにも広くて気持ちいい…!
僕はちょっと格好付けて言った。
「さあ、悪魔狩りだよ」




